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第六話 〜同居人の見習い剣士〜

 住宅街の豪華な一軒家。

居酒屋でメシをたいらげた俺たち三人は、イサコとヌマコの住む家の前にたどり着いた。

俺は二人に聞いてみた。


「もう一人の住人って、どんな人なの?」


 ヌマコが少し考えて答えた。


「お若い男性の方ですね、剣士を目指してるみたいです」


 イサコがバカにするように答えた。


「竹刀を振ってるだけの、ただの金持ちのガキンチョよ!」


 家の扉がガチャリと開いた。

扉から顔だけ出した男の子がイサコを見ながら言った。


「誰がガキンチョですか」


 イサコが男の子の方に振り向いた。


「ゲッ!アンタ聞いてたの!?」


 男の子は呆れた目でイサコを見ながら言った。


「表でこんなバカでかい声で喋ってたら、嫌でも聞こえますよ」


 男の子は、俺を見てからヌマコに聞いた。


「ヌマコさん、この人は誰ですか?」


 ヌマコは返答に困っていた。


「えーと……」


 イサコが元気よく答える。


「喜びなさい!新しい同居人よ!」


 家の扉は閉まり、ガチャリ!という鍵のかかる音がした。

内側から男の子の声が聞こえた。


「そういうの間に合ってますんで」


 イサコは怒りに身を任せてドアを蹴り続けていた。


「このガキャーーーーー!!!」



━━数分後、ヌマコの説得で中に入った俺は、リビングで紅茶を出された。

ソファーには俺たち三人と、さっきの男の子が向かい合って座っている。

最初に口を開いたのは男の子だった。


「ちょっといいですか? イサコさん」


 イサコは答えた。


「なによ、ガキンチョ」


 男の子はイライラしながらイサコに言った。


「ガキンチョではありません、僕の名前はステファン。まぁ、いいですけど? イサコさんの頭で覚えられないのも無理のないことですし」


 イサコはテーブルに足を乗せて怒り散らした。


「なんだとこのガキャーーーー!」


 ステファンはイサコに動じず返した。


「ではまず、イサコさんにお聞きしますが、この方はなんというお名前なんですか? ご職業は?」


 イサコは答えた。


「えーーーと、名前、名前…名前は、なんだっけ?」


 ステファンは続けた。


「どこで知り合ったんですか?」


 イサコは顔をひくつかせながら答えた。


「えーーー、と……」


 ステファンは続けた。


「どうせカジノでしょう? なんで名前も知らないカジノで知り合った方をここに住まわせたいんですか?」


 イサコは大量の汗をかきながら答えた。


「えーーーと、それは、、、そう!性格!性格がいい奴だから!」


 ステファンは見透かしたように言った。


「家賃を安くしたいだけでしょう?」


 イサコは頭を抱えて下を向いていた。

ステファンは容赦なく言い放った。


「前にも言いましたが、家賃を支払うのがキツイのであれば、もっと家賃の安いところに引っ越してください。僕は父上の言いつけで仕方なく貴方達と同居しているだけで、本当は一人で十分なんです」


 俺は別にここに住めなくても何も問題はないのだが、一方的に言い負かされているイサコが気の毒になったので、少し協力する事にした。

俺はステファンに向かって話した。


「俺の名前はナルカミだよ」


 ステファンは俺の方を見ていった。


「いきなり何ですか?」


 俺は答えた。


「名前だよ。君が聞いたんだろう? 歳は十六。職業は半年間冒険者をやってきた。ついさっきそのパーティを抜けて、今はフリーの冒険者だ」


 ステファンも答えた。


「自己紹介ありがとうございます。僕はステファンと申します。歳は十一です。将来は父上のような立派な剣士になる為に、今は修行の身です」


 礼儀正しい少年のようだ。

俺は笑顔で返した。


「実は、イサコさんには俺から頼んだんだ。しばらくの間、ここに住まわせて貰えると助かるんだけど、ダメかな? 金ならちゃんと払えるよ」


 ステファンは真剣な顔で答えた。


「それは諦めてください。お金の問題ではありません。僕は剣の修行に集中したいんです。これ以上、住人が増えるのは反対です」


 イサコが食ってかかった。


「アンタのお父さんが言ってたでしょー? 新しい同居人をどうするかは三人で決めればいいって、まだ部屋は沢山あるんだから一人くらい増えたっていいじゃないの!」


 ステファンはイサコを見ながら迷惑そうに言った。


「イサコさん、今朝、朝食を食べた後、お皿を洗わずに出かけましたよね? 洗っておきましたよ?」


 イサコは気まずそうに答えた。


「そ、それはどうも……」


 ステファンは続けた。


「それと、二階のベランダに下着を干すのはやめてくださいっていいましたよね? なんでまだ干してるんですか? 中に入れておきましたよ」


 イサコは目を細めて答えた。


「何でそもそもアンタにそんなこと言われなくちゃなんないのよ?」


 ステファンは真剣に答えた。


「同級生から、お前の家にセンスのない柄の下着が干してあるってバカにされるからですよ。どんな下着をはくかは自由ですが、この家の景観を害することはやめてもらえませんか?」


 イサコはテーブルに顔を伏せていた。

ステファンは俺を見ながら言った。


「ナルカミさん。この家は今こういう状態なんです。シェアハウスというのは同居人全員がお互いを尊重し合えないとトラブルが絶えないんです。本当なら今の時間だって、僕は剣の修行に充てたいんですよ」


 ステファンの言い分は至極(しごく)真っ当な意見だった。

納得した俺は、ステファンにこう提案した。


「要するに、新しい同居人が入ることが、君のメリットになればいいんだろう?」


 ステファンは少し考えて答えた。


「まぁ、そうですけど」


 俺は続けた。


「だったら俺が冒険者のイロハを君に教えてやるよ。きっと人生の役に立つと思うぞ?」


 ステファンは呆れて答えた。


「ナルカミさん、失礼ですが、私は一流の剣士である父から剣を教わっています。確かにまだ冒険に出たことはありませんが、貴方が父以上の男には全く見えません」


 俺は動じずに答えた。


「俺は剣士には一度たりとも負けたことがないんだ」


(勝った事もないけどな)


 ステファンはソファーから立ち上がった。


「そこまで言うなら剣で勝負しましょう!もし僕が負けたらナルカミさんの入居を認めます。でも勝ったら諦めてください」


 俺は静かに頷いた。

一度だって戦闘に参加したことはないが、俺はハッタリと騙し合いにだけは負けたことがない。

俺はイサコとヌマコの為に人肌脱ぐ事にした。

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