第五話 〜雷属性カウンター〜
ディーラーの男は目を見開いて言葉を失っていた。
イサコとヌマコは顔を見合わせた後で、手を握り合って歓声を上げた。
「やったァァァーーー!!!」
二十七枚の千ゴールドチップは、赤の五に三枚。その四方八方にそれぞれ三枚ずつ配置されており、百四十四倍となったチップは、三百八十八万八千ゴールド分のチップとなって帰ってきた。
「イカサマだッ!!貴様!何かやっただろう!?」
ディーラーの男は俺を睨みつけながら声を出した。
気付けば俺たちの周りには人集りが出来ていた。
俺は淡々と答えた。
「何かってなんだよ?」
ディーラーの男は言葉に詰まった。
「ぐっ、そ、それは……」
俺は続けた。
「俺ならもっと上手くやるぜ? 客にはある程度、勝たせなくちゃダメなんだよ。そんなバレバレのイカサマだから、客が飛んで閑古鳥が鳴いてるんだ。客だってバカじゃないんだからな?」
ディーラーの男は言い返した。
「イカサマだと!? ひ、人聞きの悪い事を言うな!!」
集まった他の客達から、さまざまな声が聞こえてきた。
「やっぱりこのルーレットはイカサマだったのか!」
「このルーレットで勝ってるやつを見たことないぜ?」
「おい!責任者を出せ!」
ディーラーの男は焦って応対したが、すでに時は遅く、ディーラーの男のイカサマ疑惑はカジノ中に広まり、人集りは留まるところを知らない状態となった。
俺のスキル"雷属性カウンター"は電気の発生に合わせて、前もって登録しておいた俺の肉体の動作をカウンターとして放つ事ができる。
今回、俺がカウンターのスイッチとしたのは、ディーラーの男の指を動かす為に発信された"脳からの微弱な電気信号"。
そして前もって登録しておいたのは、俺の眼の動作。
指からの力加減にくわえて、回転盤に投げ入れられる着地点と入射角度をこの眼で正確に捉える事が出来るならば、そこからボールの入るべき数字を計算することは簡単だった。
更に言えば、このディーラーの男がイカサマ師として優秀すぎた事も数字を言い当てるには追い風となった。
小道具を使わない、純粋なボールのコントロールのみで数字をハズすタイプだった。
俺が今回、二人との打ち合わせで決めていたことは二つ。
一つは、イサコにはとにかく俺との会話を続けること。俺は三回とも賭けをはずすが、会話の中で本当の数字を言い当てる。
もう一つは、ヌマコには、それを聞いて金をかけるかどうかを本人に決めてもらうこと。
チャンスは一度きり。一度当ててしまい、ディーラーの男に勘ぐられて、適当にボールを投げられてしまえば、いくら正確にボールを眼で捉えても当たる確証がなくなるからだ。
ディーラーの男は、罵声の中、酒瓶やゴミなどを投げつけられていて、散々な状況だった。
ヌマコが金を受け取ると、俺たち三人は早々にカジノを後にした。
━━街の酒場。
俺は約束の三割に色をつけた、百二十万ゴールドを受け取った。
テーブルに着いた俺たちは、出されたおしぼりで手を拭きながら話し合った。
「いいのか? これちょっと多いけど」
俺はイサコとヌマコに尋ねた。
イサコは上機嫌で答えた。
「いいのよいいのよ!アンタのおかげで私たちも大儲けなんだから!あ、ここの支払いも私たちが出すからね? じゃんじゃん頼んでよね!?」
ヌマコもまだ興奮がおさまらない様子でしゃべっていた。
「これで生活が出来ます!武器も買い戻せます!ありがとうございます!ありがとうございます!」
俺はメニュー表を指差して、イサコに見せた。
「じゃあ遠慮なく!このドラゴンのステーキ450g ライスセットで!あ、それとビール」
イサコはメニュー表を見ながら言った。
「私はねぇ、サイクロプスのフライセットね!それと、私もビール!」
ヌマコもメニュー表を見て答えた。
「私は……クラーケンのお刺身セット!それと、白ワイン!」
イサコがウェイターを呼んで、三人分のメニューの注文をした。
カジノで大勝利を収めた後の打ち上げの酒場で、じゃんじゃん頼もうと言った矢先に、三人とも定食セットを頼んでるあたり、場慣れしていないというか、要するに俺たちは貧乏が染みついているのだろう。
今は大金が手に入ったが、都会で生活するにはとにかく金がかかると聞く。
俺は故郷に帰る用事もないので、しばらくの間ここで生活するために必要なことを聞いてみることにした。
「ところでちょっと相談なんだけど」
ウェイターがテーブルに飲み物を持ってきた。
イサコは俺に聞き返してきた。
「ん? どしたの?」
俺は答えた。
「実は、しばらくこの街で暮らそうと思ってるんだけど、金も今さっき受け取ったのが全財産だから、なるべく安く済ませる方法があるなら教えて欲しいんだ」
イサコは即答した。
「あー、それなら私たちが住んでるところ来る? ルームシェアだけど。アンタが来るなら私たちの支払いも安くなるし!」
俺は答えた。
「ルームシェア…ってなんだ?」
そこはヌマコが答えた。
「大きな家を何人かで借りて、共同生活を送るんです。キッチンとリビングが広くて、一人暮らしよりも快適なんですよ?」
俺が聞きたいことは一つだった。
「で、家賃は?」
ヌマコが答えた。
「今は私とイサコと、後もう一人いるので三人ですが、そこに貴方が加われば四人になるので、一人ちょうど五万ゴールドですね」
俺は頭の中で計算しながら答えた。
「あー、家賃二十万の物件に住めるってことか」
イサコがニヤニヤしながら答えた。
「そゆことそゆこと。アンタ入んなさいよー。私たちもそれで得するわけだし、ウィンウィンじゃない!」
俺は答えた。
「うーん、もう一人の同居人に会ってからでもいいかな?」
イサコは呆れたように言った。
「アンタ男でしょう? ノリと勢いでスパッと決めなさいよ?」
ヌマコが焦ってイサコに返した。
「そんなのイサコだけだよ…」
俺たちのテーブルにようやく料理が届いた。
ドラゴンステーキセット、サイクロプスのフライセットにクラーケンのお刺身セット。
豪華な料理に俺は胸が躍った。
イサコがビールジョッキを腕に掲げた。
「じゃあ!新しい同居人に乾杯ーー!」
ヌマコは俺に申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい…」
俺は笑顔で自分のジョッキをイサコのジョッキにかち合わせた。