第四話 〜テーブルの上の戦い〜
俺たち三人は簡単な打ち合わせを終えてから喫茶店を出た。
カジノに向かう途中、イサコは今歩いている大通りを見渡して言った。
「ここを全裸逆立ちで通るのね!? なんか今からワクワクしてきたわね!」
俺はイサコの方を見て言った。
「ちょっと待て。もう負けることを考えているのか」
イサコはニヤニヤしながら返した。
「万が一って事もあるじゃない? 下見よ、下見。ね? ヌマコ」
ヌマコはオロオロしながら答えた。
「そそそそうね、ちゃんと街を一周出来るか、私たちで見張ってないとダメだもんね!ぜ、全裸を!」
俺はため息をついて言った。
「ちゃんと打ち合わせ通りやってくれよ?」
イサコは元気に答えた。
「ラジャー!りょうかい!」
━━俺たちは再びカジノに入った。
改めて見ると、一番賑わいを見せているのはポーカーで、ルーレットにはさほど人がいる様子もなかった。
俺はイサコに聞いてみた。
「なぁ、なんでルーレットにそんなに入れ込んでたんだ? このカジノはポーカーの方が人気があるみたいだけど」
イサコは腰に手を当てて、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに答えた。
「流行っているものに流されないのが私たちの流儀なの」
俺はヌマコの方を見た。
ヌマコはまたもオロオロしながら答えた。
「え、えーと……最初はポーカーをやってたんですけど、イサコはすぐに表情に出るから……」
(自分の手の内を読まれない為のポーカーフェイスというやつか。確かにイサコには絶望的なほど向いてなさそうだ)
イサコはヌマコを見て言った。
「何よヌマコ、私が悪いわけ?」
ヌマコはひくついた笑顔でイサコを見ていた。
俺は辺りを見渡してから言った。
「なるほど、まぁ今回はルーレットで勝負しよう。さっきから、閑古鳥の鳴いているルーレットコーナーから熱い歓迎の視線も感じるしな」
先ほどのルーレットディーラーの男だった。
イサコは手持ちの三万ゴールドを千ゴールドチップ三十枚に変えると、そのうちの三枚を俺に手渡した。
「本当に三枚でいいのね?」
俺は答えた。
「三枚で十分。これでディーラーの手の内を明かしてやるよ」
俺たち三人はルーレットのテーブルに着いた。
ディーラーの男は、俺を見るなり見下すように言った。
「またあなたですか。まだ服は買えなかったみたいですね?」
俺は笑って答えた。
「服はこれから買うんだよ。ここで儲けた金で、とびっきりいいやつをな」
ディーラーの男は笑いを堪えながら言った。
「どうぞご自由に」
俺は千ゴールドチップを一枚、テーブルの上に置いた。
「俺の年齢、赤の十六に賭ける。絶対に当たるぜ?」
それを聞いたイサコは驚いて言った。
「え、アンタ年下だったの?」
俺も驚いた。
「なに? 同い年くらいじゃなかったのか。俺より身長低いからてっきり」
イサコは怒りをあらわにして言ってきた。
「なんですって!? 身長は関係ないでしょうが!身長は!私たちより三つも年下なの? なんか心配になってきたんですけど」
(俺はイサコが変なことを口走らないか心配だ)
ディーラーの男はイサコを見て言った。
「イサコさんは今回はプレイされないのですか?」
イサコはディーラーの男を見て返す。
「今回は見学よ。コイツが私たちにお手本を見せてくれるんだってさ」
イサコは俺を指差している。
ディーラーの男は笑いながら答えた。
「それはそれは……では、ボールを投入いたします。ボールが回転盤に入っても、まだ勢いよく回っている間はチップを動かしたり追加したり出来ますので、奮ってご参加ください」
ディーラーの男がボールを投げ込んだ。
俺はイサコを見て話しかけた。
「そうか、十九歳か。でもどう見てもせいぜい十五歳だよな? 十九歳はないわ」
イサコは俺を見ながらテーブルに手をついて怒った。
「何ですって!それが年上に対する口のききかたなの!?」
ボールは何回かまわった後で勢いを失い、ディーラーの"ノーモアベット"の掛け声の後で黒の十五に落ちた。
俺は回転盤の中のボールを確認して言った。
「マジかー!赤の十六だと思ったんだけどなぁー」
イサコはなぜか勝ち誇った顔で俺に言った。
「ほら見なさいよ? なにが、絶対に当たるぜ? よ!」
ディーラーの男が俺を見て言った。
「まだ賭けますか? どうされますか?」
俺はまた一枚、千ゴールドチップをテーブルの上に置いた。
「次は、黒の二十九だ。俺は肉が好きだからな」
イサコはまたツッコミを入れてきた。
「アンタ、次は当たるんでしょうね!?」
俺は答えた。
「次は絶対に当たる!さっきはニアピンだっただろ? 次は確実に当てるさ」
ディーラーの男は俺たちに確認をとると、回転盤にボールを投げ入れた。
イサコが俺に話しかけてきた。
「アンタさ、そもそもこのルーレット、やったことあるの? 人生もルーレットも、私たちの方が先輩なんですけど?」
俺は面倒くさそうに答えた。
「見たことならあるよ。そりゃ六ヶ月も旅してきたから、色々なものを見てきたよ」
イサコは驚いたように言った。
「見たことって……やっぱりやったことないんじゃないの!」
ボールは黒の六に入った。
俺は回転盤を見て言った。
「あっちゃー……」
イサコはまた得意げに言ってきた。
「ほーら見なさいよ? 今度は全然違うんですけど? かすってもいませんけど? さっきのもたまたまだったんじゃないのー?」
ディーラーの男が確認をとってきた。
「えーと、まだプレイされますか?」
俺は答えた。
「当たり前だろ? 次こそは的中間違いなしだ」
俺は赤の十九に最後のチップを置いた。
ディーラーは呆れた様子でボールを回転盤に投げ入れた。
イサコが俺に話しかける。
「アンタ、もしこれもハズレたらこの後どうすんのよ?」
俺は答えた。
「どうしようかなぁ、新しく入ってきたパーティーメンバーが、五人は嫌だって言うんだよ。それで俺が追放されちゃって、いく場所がないのよ」
次の瞬間、ヌマコは手持ち全てのチップ二万七千ゴールドを慣れた手つきでテーブルの上にさっと並べた。
「なッ!?」
それはディーラーの声だった。
ヌマコは赤の五を中心に、花の形にコインを並べるギャンブル性の高い配置、フラワーベットで賭けていた。
当たれば賭け金は百四十四倍。
ボールはノーモアベットの掛け声の後で、赤の五に入った。