道順組立L
ブロロロロロロ
ホントに急な”通区”。
矢木自身。1か月ちょっとの新人に距離を置いていたのは、関わってもムダ。辞めるのが大半だと思っていたからだ。ところがどっこい、未経験のはずなのによーやっとる。
ここの量は他の各局にいる職員でも、根を上げてすぐに辞めるレベルだ。木下が親切ぶりを褒めるところ、続けているとはね。
「さすが、山口部長の息子だ。バカじゃねぇーのな」
通常。
この班に”新人”を配属する事はあり得ない!それだけの鬼畜が揃っている配達地域の数々。自分が異動でここに配属された時、実も木下も大したことないと初日こそ思っていたが、あの2人の腕前には自分の自信というのを崩された。
その崩された相手にも、崩された相手がいるという……。神という呼称も、皮肉じゃない。
キーーーッ
「じゃあ、教えるぞ」
「うーっす!」
配達地域の事を教えるのかと思った、山口。もう配達現場に来ていると思っていたが、矢木は初っ端に
「どれだけこの区を”記憶”した?」
「はい?」
「前半分……最初の10コマくらいはお前に”組立”をさせたろ?」
指導はどっちかというと得意じゃない。木下はおちょくりこそするも、応援をして鼓舞したりする気の良いおっさんに対して。矢木は合理的にムダなく教えるといった、中級者向け。厳しくいく。自分を指導役に当てたのも、山口の成長を促すためだろうか。
矢木の質問に
「そんなに覚えてない!でも、正確に組んだはず!」
”記憶”してないところの”組立”というのは、かなり手間取る。理由としては、”区分”、”組立”、”配達”という1日3回に及んで、郵便物を手にとっては目もやるわけで。続けていくと、自然に”組立”ができるような現象になっていく。こーいう家の並びだったな、このマンションのこの部屋番号にはこいつがいるな。この珍しい苗字はいるな。
そーいうのが頭に入ってくる。1日3回。週5で働けば、15回もする。
担当区の大ベテランからすれば、これを軽く1万回以上にも及ぶかもしれない。そんな積み重ねが業務をわずかに加速させ、正確にもさせる。
”通区”の初日でどれだけ覚えたかなんて、無理だろうがって、山口の反抗的な態度。
「正直でいいな。実と木下がちょっとズルしてる理由を教えてやる」
「へ?」
矢木はそー言って、山口が”組立”をして、定形の束をほどいて、その場で確認を始める。
「ふーん……。来た初日は滅茶苦茶と聞いていたが、……さすがに今日は正確だな」
平地の並びで道順を間違える苦労を思い知れば、慎重さもある。
1コマ、2コマと見て……。矢木は淡々としている表情。山口は、矢木が”配達原簿”を見ず、現場でポストや表札を見ずに、それでも自分の”組立”に誤りがないという自信に。
「全部の家を”記憶”できてるんですか?」
1区に辺り、箇所数は700を超える。
仮に家を覚えられても、そこにある”一部転居”や”前の住民”、道順に至るまで、記憶するというのは、長年の経験だけじゃなさそうだ。
山口の質問に対し、矢木は
「この区に限れば、俺は全部、分かるだろうな」
「確信はないと?」
「絶対の自信があるなら、郵便配達なんか辞めちまえ。俺は前の局で、自信満々で誤配するバカと一緒だったから、ウンザリなんだよ。自分じゃねぇとかほざくし」
そーいう配達員もいるのかよ。木下も誤配が多い方だが、彼の場合は注意力不足で、やらかした事をあっさり認めたり、すぐに対応するなど。まだカバーできる側だったと知る。”誤配”は良くないけど。
一通り見て、関心関心と、矢木は山口の立派な”組立”に種明かしをする。
「あの2人の早さの一つは、”現地での居住確認”をしてやがる」
「現地で居住確認を……」
「8割、9割、道順に並べてるだけなんだよ。あの2人は配達時、ポストに郵便物を入れるそんな時間でいるかいないかを判定して、取り扱うんだ。だから、多少の”誤組立”を想定してる」
”道順組立”が正確な方が配達は速いし、間違えがない。これは正しい事である。しかし、その質のために、組立速度が大幅に落ちるのならば意味がない。
配達の話を少しするが、正確に”組立”された者でも、配達する人間の集中力がなければ、簡単に誤配をする事だってある。
「”組立”は完璧が理想だが、不完全で十分。ポストに誤った郵便物を投函しなきゃ、誤配になんねぇーんだ。新人にそれを言うと、隠匿の可能性があるから言わねぇーけど」
究極に誤配を無くすんだったら、配達を行わないという防衛が最善手である。
それからとんでもねぇー暴挙でもあるが。
「客が怒らないんだったら、”誤配”しても構まやしない」
「良くないでしょ」
「信頼に関わらないんだったらいいんだよ」
これはそーいう客層だったらいいと思っている。
矢木が何を言いたいかと言うと、実と木下がどーやっているかは
「郵便物の”種類”で、あの二人は居住確認をしてるんだよ。それも高速でな」
「”種類”」
「”ゆうパケット”や”特定記録”とか、色々あるだろ。切手張った通常郵便やら、馬鹿デカイ定形外色々。あの2人は経験から、どの郵便物が”転送”か”返還”か、頭に入ってる」
例えば、AMAZON。99%は、自分自身が頼んでいるケースが多い。
そーいう受取人自ら行っている郵便物というのは、まず”転送”や”返還”になる事はあり得ない。あり得るけれど、あり得ないと割り切って”組立”をしている。
一方で、差出人が受取人に受け取って欲しいという郵便の場合。これはわずかに”転送”や”返還”のケースがある。どれがこうとかは言えないが、それらをポストに投函する際、1秒に満たない確認で居住の判定をしている。”特定記録”は案外、この”転送”と”返還”の率が高い。”差出人”がちゃんと配達されたかを確認したいからの”特定記録”だ。だから、慎重になる。
「家を覚える事も大事だが、どんな郵便物が”転居”や”返還”になるのか。考えながら、”組立”と”配達”をしろ。勢いで”組立”をして、慎重に”配達”をする」
「勢いで”組立”。慎重に”配達”って、なんかイメージと違うな」
「新人の大半。いや、あまりこの業務が遅くて苦手な人ほど、逆なんだよ。慎重に”組立”をして、バイクを飛ばして”配達”する。これは危ない。交通事故にもなるから、その逆を目指せ」
こーいう法則は8割、9割は、適応しているが。残りの2割、1割が対応できない。その点は本人の注意力と警戒心に懸かっている。そのアドバイスの後で、矢木と山口は配達に行く。
終始……というか、話しの都合で申し訳ないが
「”一軒家”の区別って、頭に入れてるか?」
「自分のやってた区は並びまで覚えてます」
「じゃあよ。”一軒家”と”アパート”の”転送”の違いって、大まかになんだと思う?」
これは例外もあるので、ホントに……。
「……なんだろう。質問が難しいな」
「……”一軒家”の転送ってのは、”離婚”の可能性は少ない。抜けるとしたら”全転居”になる」
すげー嫌な事言ったな。しかし、離婚トラブルの”転送”は面倒なのである。下手すると裁判が始まるレベルになる。
「”一軒家”の並びのところで、自分が気付かずに該当しない苗字の奴を”組立”したら、あの二人は持ち戻る。外さないんだよ。で、局に戻ってから”配達原簿”を確認する。誰かの”旧姓”かもしれないから、そんで返還するかの処理を決める。始めから原簿見れば分かるのによー、1日遅らせる」
補足すると、分からなかったら、そーいう行動を素早くとるということ。決してサボってるわけではない。大体、”配達原簿”を眺める余裕がない。”記憶”で組んでいる矢木の方が正しいやり方ではあるが、この班の配達地域では相当練り込んでいないと通用しない。
「表札出してない家も極力避けて、配達してる。だから……そーいう致命的な誤配ってのは、二人共してねぇんだよな。木下のおっさんはただただアホなだけだが」
ややこしい話であるため、また次にお話を回そうと思う。
「まー、”一軒家”の並びしかない区分口は、”配達原簿”を見るのは配達が終わってからで構わないって事。”全転居”は見れば分かりやすいし、”一部転居”の郵便物もまず滅多に来ない。そーいう区分口にある特徴も理解していくと参考になる」
1軒1軒全てを覚えてないという事。いきなり、居なくなるという事はまずないという前提で、配達業務をやっている。




