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はじめに

その重々しい銀色の扉を開くと、そこはまるで朽ちかけた様な小さな小さな弓道場があった。

まるで、校舎に取って付けられた様な弓道場。広々としたあのイメージとはかけ離れた狭さ。

此処は、本当に弓道場なのかと疑う人も居るだろう。

現(・)に(・)私(・)が(・)そ(・)う(・)で(・)あ(・)っ(・)た(・)。

私は、理由(ワケ)があってバスケットボールの競技を離れた。

バスケットボールはとても楽しかった。

あの大会の出来事さえなければ……。

そんなこんなで、もうバスケットボールに未練は無かった。

親仕事の都合で、県外の女子高に転入し、華麗女学院高校二年生となった。

今度は個人競技の部活にしよう!

私はそんな誓いを新たに、その銀色の重々しい扉を開け、文字通り華々しい弓道デビューする……はずだった。

が、華麗女学院高校弓道部は、弱小にも程がある、とりあえず所属という形だけの生徒が集まる部活であった……。

現に。

「ねえねえ、お菓子の新作が出たんだけど~?」

「本当! 食べる食べる♡」

「漫画貸してよー」

「いいよ、何巻目?」

わちゃわちゃと、三年生の先輩と同級生が仲良くお喋りをしている。

普通、先輩と下級生の間には厳しい関係図が存在するだろうに、この部活には皆無らしい。

いや、先輩に漫画貸すのにため口とは……。

無礼講にも程があるだろうに!

「あの……」

「なあに~? 凛ちゃんもアメちゃん舐める~?」

同級生くらいの軽いノリで、先輩の一人が私に薄荷の飴を差し出す。

「あ、い、一応いただきます……」

私はつい先輩であることを考えて、殊勝に返事をし受け取る。

私……薄荷の飴苦手なんだよなあ……。

「凛ちゃん、カタいカタいよー。もっと気軽に行こうよー♪」

すると、同級生のあ(・)た(・)ら(・)が肩を叩いてくる。

あたらって、変わった名前だね。

なんて事を思わず言いかけそうになったのを、グッと堪える。

私は苦笑いを浮かべ、

「うーん、そう?」

と答えておいた。

時計を見る。

今日も部活はしないのだろうか……。

「お疲れ様でーす」

「「「……」」」

その女生徒は部活の時間がまだ終了していないのに、挨拶をして帰っていった。

銀の扉がバタン! と閉まると、途端にお喋りが再開される。

さっきの生徒は一人で黙々と奥の部屋で筋トレをしていた子だ。

真面目に部活をしているのは、この女生徒・片倉(かたくら)め(・)ず(・)さ(・)さんだけであった。

また変わった名前の子。

だが、私は密かに片倉さんに憬れていた。

ボーイッシュな髪形に男顔、王子様系の顔だ。

無愛想な点を除けば、さぞかしモテるだろうに……。


『キーンコーンカーンコーン』


「おい、お前ら帰れよー」

「ハーイ」

「ほーい、銀ちゃん」

「銀ちゃん先生、おつかれー」

チャイムが鳴って、部活終了と同時に銀の扉が開き顧問の先生が入って来る。

この先生が我が華麗女学院高校弓道部の顧問・銀田(ぎんだ)弓矢(ゆうや)先生だ。

ボサボサの頭に髭もろくに剃っていない様子の白衣につっかけサンダルの生物の先生。

やる気の無い、そして部活動をやらない、生徒たちを見ても決して何も言わない。

飄々とした言い方で、生徒たちを帰そうとする。

どうして、何も注意しないのだろうか。

私の不思議に思う所だ……。

「凛ちゃん一緒に帰る~?」

あたらが帰宅を誘ってくれていた。

「あ、私、これから銀田先生に課題で質問あるから。先に帰ってていいよ?」

「そっかー。バイバイ~凛ちゃん!」

あたらは部活の他の同級生たちと気にせず帰って行った。

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