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64 アレンルードはガールフレンドができた

 大人ってさぁ、かまって欲しい時には「遊びに行っておいで」で、かまってほしくない時に限ってしっかり監視してくる生き物だよね。

 叔父のことは信頼してるけど、よりによってバイゲル侯爵家令嬢が同行するようなことしないでほしかったよ。そりゃ叔父だって身動き取れない時はあるって知ってるけどさ。

 でもって僕が何をやらかしてもどうにかしてくれるって人選だったってのも分かるけどさ。

 まあ、聞いてくれ。

 僕の名前は、ウェスギニー・インドウェイ・アレンルード。男子寮で真面目に暮らしている国立サルートス上等学校一年生だけど、今はリンデル駅行き特急列車内で長閑(のどか)な麦畑を車窓から見てる。


(この辺りになると特急じゃなくなるんだなぁ。なんか空気が違う。草のにおいが空気に混じってる)


 終点リンデル駅。目的地はリンデル村だけど、リンデル駅はその村の入り口にあるそうだ。

 僕達が乗ってきた特急列車はかなり途中の駅を飛ばしていたけど、リンデル駅が近くなるにつれ、各駅停車へと変わっていった。

 色々な人が乗り降りしていて、この地域の足になってるらしい。

 通勤だけじゃなく通学にも使われていて、半日授業だからお昼前に授業を終えた幼年学校生や上等学校生達が、わいわいがやがやと自由席の車両に乗り込んできていた。


「急げよっ、出発しても知らないぞっ」

「待ってよぉっ」

「こらっ、駆け込み乗車は危ないんだぞっ」

「あーはっは、もう乗り合い車で帰れよ」

「兄さんのばかぁっ」


 そんなホームや自由席車両の喧騒が、楽し気な笑い声と共に開いている窓から入ってくる。


「もしかしたらあの子もこの列車に乗ってきたかもしれないわね」

「アンジェ姉上が育ててる子?」

「そうよ。隣村じゃなくて、五つ離れたこの駅にある幼年学校に通ってるの。巡回乗り合いバスもあるけど、やっぱり列車の方が早いのよね」


 どこか物憂げな面持ちで、バイゲル中佐はそんなことを言った。


「いたら教えてくれよ、ファルナ姉上。その顔見ときてえ。もしかしたら似てる顔を知ってるかもしれねえし」

「一通り調べたわ。該当なしよ。少なくともうちの国が把握しているとされる情報ではね」

「ふぅん」

「喧嘩腰になるんじゃないわよ、リオン」

「子供相手に何もしねえよ。けどよ、アンジェ姉上なら落としやすいってんで送り込まれた可能性もあんだろが」

「拾った時は幼児よ。今じゃ厨房担当の未亡人が母親代わりね。一番の仲良しは下働きの男の子。そしてあの子が誰よりも大好きなのは華やかな顔した尉官。幼な妻レベルで溺愛されてるわ。おかげでお姉様、間違いがあったら大変って、彼から引きはがそうと無駄な努力中よ」


 次は終点リンデル駅だと、車内放送が流れていく。


(どこにでもいるんだな。女の子ってだけで無駄に甘やかす大人ってさ)


 ガタンゴトンと揺れる列車の中、僕は孤児ってもっと悲壮で哀れな身の上ってイメージがあったから、なんで養ってあげてる女の人がそんな努力をしてるんだろうって不思議に思った。

 大抵の孤児って、養われている家で哀れな使用人扱いになるって言うよね? だから孤児院の方がいいんだよね?

 それは他の二人も同じだったらしい。


「あの、中佐。その女の子を育ててあげてらっしゃるのはアンジェラディータ様なんですよね? それなのに言うことを聞かずに男を追いかけ回してる子なんですか? 要は男にだらしないタイプなので?」

「違うわよ。あの子にとってあの村にいる大人は家族なだけなの。警戒心を持てる筈がないわ。しかも自分が笑いかければ全ての女が落ちると思ってるような男にとっちゃ、お姉様の心配すらお姉様達を口説く手段なんでしょうよ」

「えーっと、つまり・・・、その女の子も顔がいい男に釣られてると?」

「顔より、単に甘やかしてくれるからじゃないかしら」


 ヴェイドル中尉が、なんか放心し始めた。

 反対にネトシル少尉はなんだか怒り始めている。


「そんな男、放り出せばいいだろう。子供に対する大人の心配を分かってて挑発するような奴。子供を人質にとって女を襲うのなんてすぐの話だ」

「まだ問題は起こしてないもの。コテージの家賃を滞納したこともないしね。ウェスギニー大佐の子飼いの一人よ」


 おぉう、なんてこったい。ねえ、父上。なんでここで父上の名前が出てくるのさ?

 僕の母を、つまりあなたの妻を殺した女の人の話なんだよね?

 父上の部下って、上司の妻を殺した女とその養女に手を出す人なの?


「つまりそいつの行動はウェスギニー子爵の指示だと?」

「ウェスギニー大佐はノータッチよ。不届きな行動に出るような隊員がいたら大佐直属の部下に連絡が行く筈だもの。あの女たらしも強引に迫るような真似はしていないと思うわ。お姉様よりあの子にめろめろだから」

「まさかそいつこそが、その連絡を受ける直属の部下だとか言わねえよな?」

「さあね。療養で滞在しているから包帯や固定具をつけていても、そこらの警備員より別格のメンバーよ」


 そこで列車が止まる。終点だと、車内放送が流れた。


「さ、降りましょうか。まずは私が使ってる家に案内するわ。あの子が乗ってたかもしれないから、ゆっくり出ましょうね。顔を合わせてしまったらすぐにお姉様に報告されてしまうもの」


 バイゲル中佐はそう言ったけど、そんな小細工は無駄だったと、すぐに僕達は知ることになった。




 ― ★ ― ☆ – ★ ―




 乗客が全員降りた後でゆっくりと駅に降り立ち、だらだらのんびりと改札口に向かったけれど、そうすれば顔を合わせないという思惑は完全に外れた。

 何故なら改札口に陣取った女の子がいたからだ。


「切符、もらいまーす」

「また来週ね、ランドリアちゃん」

「うん。また来週あそびましょうね、ナンシーちゃん」

「ボク、おひるからくんれんにいくんだよ。ランドリアちゃんもいく?」

「ううん、行かない。はなれすぎてるもの。うちは、ほかの村にお知らせするくんれんするのよ」

「そっか。じゃあらいしゅうね」

「うん、また来週」

「ランドリアちゃんったらお手伝いして偉いわねえ」

「今日からひなんくんれんがあるから、トロッコ運転で駅員さん達が出払っちゃったの。だから、りんじの駅員さんです」


 そんな明るい声が改札口で響き渡っている。幼年学校の制服に、ぶかぶかの駅員がかぶる制帽を頭に載せた女の子は絶好調だ。


「駅長さんも頼もしい味方じゃないか」

「はっはっは。一番に改札をくぐったと思ったら、制帽を取り上げられましたよ」

 

 それを見守っている駅員は駅長だったらしく、楽しそうに顔をほころばせて急ぎの乗客から切符を回収していた。

 その女の子が顔を上げた拍子に、僕達と目が合う。制帽から覗いているのは夕焼け色の前髪で、淡い青色の瞳をしていた。


「あっ、ファルナお姉様っ!? もしかしてあのブースってお姉様だったのっ?」

「驚かすつもりだったのに、もう見つかっちゃったわ。ブースにも気づいてたのね」

「だって一番小さいサイズだったもの。初めてのお客様なら案内した方がいいかしらって迷ってたの。遊びにいらしたのっ? 今日はこっちでお泊まりなさるのっ? まあ、どうしましょう。アンジェお姉様、今日はお帰りがおそいかもしれません。あっちで泊まりこむか、ファルナお姉様のおうちに泊まるっておっしゃってましたもの」

「あらあら、駅員さんがお仕事放り出しちゃ駄目よ、ランドリア。ふふ、元気そうね」


 バイゲル中佐を見つけた途端、切符回収を忘れてしまった制服姿の女の子は元気溌剌(はつらつ)な子だった。うちの妹も見ていて楽しいから大人に可愛がられているけど、こっちの女の子も大人に可愛がられている気配がたっぷりどばどばしている。

 長い髪は後ろで一つにまとめられているから、顔立ちも分かりやすかった。


「切符はこっちで回収しますよ」

「大丈夫でさあ。いつもンことだし」

「そうですよ。こっちに入れときますね」


 駅長が乗客の切符を回収していく。ランドリアと呼ばれた女の子の改札口に並んでいた乗客達も、切符をその前にある箱に勝手に入れていくから、お喋りしていても問題ないらしい。

 僕達が改札口に近づいていく間に、他の乗客達はさっさと駅からも出て行ってしまった。どうやら乗り合い移動車が待っていたらしく、駅前にあった中型のそれに乗りこんでいく。


「元気ですわ。えっと、今はおはようございます? こんにちは? まだお昼にはなって・・・ないからおはようございます? でも・・・えっと、えっと、お帰りなさいませ、ファルナお姉様。お仕事お疲れ様です」

「そうね、ただいま。ランディも学校から帰ったところなんでしょう? あなたも『お帰りなさい』ね」

「はい。同じ列車に乗っていらしたなんて気づかず、失礼いたしました」


 どうやらこの女の子、バイゲル中佐だけならとても丁寧に接するようだ。


「これこれ、お嬢様方。どうせならうちでお喋りするといい。今から駅は閉めるし、もうすぐ買い出しを終えて迎えにくるだろうからね。ランドリアだって一緒に飲みたいお茶があるんだろう?」


 駅長が気さくに声を掛けてくる。


「そうだったわっ。あのね、ファルナお姉様。私ね、とってもとっても貴重なお茶をシャルークお兄様からもらいましたの。妖精にお友達がいないと手に入らないとっておきのお茶なんですって。だからピンク色をしているのよ。すごいでしょう? 大切にお茶を見つめながら飲むと、お茶の湯気の向こうに未来の恋人が見えちゃうの。だけどね、私の向かい側にいつもシャルークお兄様が座るから、いつも見えるのはシャルークお兄様だけなのよ。私のお祈りが届いたら、ちゃんと恋人の顔が見えるよって、お兄様は言うの。私、今日こそは未来の恋人を見てみたいわ。お姉様も飲んでみるでしょう?」


 駅長の家はリンデル駅の目の前にあった。駅の窓から見えていて、迷子になりようがない。


「相変わらず彼はあなたに甘いわね。ピンクのお茶、・・・ならクンレイメン茶かしら。人間では登ることのできない高山で採れるお茶と言われてるわ。あれを手に入れようと思ったら普段のお茶があなたの体重分の重さよりも沢山買えてしまうわよ」

「まあ。あのね、私ね、本当はお兄様のことだからもしかしたらだまされてるかもしれないって思ってたの。うたがって悪い子だったわ。やっぱりお兄様、ステキなお茶をくださってたのね」


 なんだろう。この子、親の素性も知れない孤児なんだよね?

 うちの妹よりも貴族令嬢っぽくない?


「いつも騙されてるとは思うわよ、ランディ。だけど彼はあなたを誰よりも可愛がってるもの。だから今から育ててあなたが成人したら強引に結婚するんじゃないかってお姉様も心配してるのよね。いーい、ランドリア。あなたを不幸にはしないと思うけど、それでもまずは同世代の男の子と恋をしてから最後に残ったら手を打つ程度でいいのよ。幼い子供相手を今から囲い込むような男はやめておきなさい」


 僕は、このセリフを妹とその周囲に懇々(こんこん)と言い聞かせてやりたいと心の底から思った。

 いーい、皆さん方。うちの妹は面白いかもしれないけど、それでもまずは同世代の普通の貴族令嬢とお付き合いしてから最後に残ったら手を打つ程度でいいんです。親や叔父世代に今から破廉恥な妄想しているような女の子はやめておきなさい。

 うん、完璧。


「お兄様は別にそんなんじゃないと思うけど・・・。お兄様が好きになるとしたらファルナお姉様みたいなタイプだと思うわ」

「生憎と自分より弱い男に興味はないのよ」


 すげえ。最強のお断り文句だ。反論なんて全然できない。


「かわいそう、シャルークお兄様。あ、あのね、お姉様。シャルークお兄様、とてもステキよ? ねる前にはご本を読んでくれて、色々なお話もしてくださるの。センスもいいと思うわ。誰よりもたのもしいの。この間もおそってきた人達を退治して、お兄様の犬にしたって言ってたもの。なんでもね、まほうの呪文をとなえると、悪い人は犬になってしまうんですって。ワンちゃんならうちでかうから見せてって言ってるのに、いい子になるトレーニング中だからダメって言うの。じゃあいい子になったら見せてって言ったら、お仕事で使うからやっぱりダメなんですって」

「見なくていいわ、そんな駄犬。その飼い主ももう追い出しなさい」


 同じ父の部下でも、オーバリ中尉とは違うタイプなんだね。知り合いにならないようにしよう。

 何が魔法の呪文だよ。子供に何言ってるかな。


「駅長、こっちは点検後、夕方まで休憩入ります。もう閉めてくださって大丈夫ですよ。私達はお昼も買いこんできてますから」

「そうさせてもらいますよ。今日は避難訓練があるから夕方乗る人はいないんじゃないかな。他の駅長ともリンデル発は休業にしてもいいんじゃないかって言ってたんですよ。君達が帰りたいなら出してもいいですがね。夕方に着く便の人達とも話し合って一緒に帰るか、ここで明日まで休むか決めるといいですよ」

「え、そうなんですか? じゃあ泊まっていこうかな」

「避難訓練後の打ち上げもあるみたいですからね。参加するならうちの駅員も行ってるから合流するといいですよ。多分、子供はトロッコで戻ってくるだろうし、折り返しで行けばいい」


 駅のホームからそのまま改札口に繋がっているので、列車の窓から車掌なのか運転手なのか分からない人が声を置掛けてくるけど、なんかとってもいい加減な仕事ぶりすぎて僕もびっくりだ。

 そんな理由で運行を決めてもいいの? ねえ、本当にいいの?


「それじゃもう明日発用にしときます」

「ええ、頼みましたよ」


 大した数もいない乗客数だったけど、それで駅長が改札口を閉めてしまえば、列車はどこかその先にある整備用のホームまで移動し始める。

 いいかげんな仕事ぶりを露呈してしまった駅長は、駅の入り口のシャッターもガラガラガラと下ろしてしまった。


「え? 僕達、本当はお昼出発の列車で来るつもりだったし、お客さんはいるかもしれないのに?」

「大丈夫さ。その時は車掌が切符を回収するからね。ただ、今日のコテージの予約は入ってない筈だったんだよ。避難訓練があるから他の日を案内していたと思うよ」

「へ? いつでも泊まれますっていうチケットじゃなくて予約制?」


 駅長の言葉に僕が目を丸くすれば、くすっとバイゲル中佐が笑う。


「宿泊は基本的に予約制よ。用意があるもの。あなたがもらったチケットが特別だっただけ」

「・・・ほんと父上、誰にもらったんだろ」


 駅前にある看板によると、列車の乗り降り時刻前になると駅が開くらしい。だからなのか、駅前には屋根付きのベンチスペースがあって、座って待つことができるそうだ。

 今日はとっくに運行休止のお知らせが貼りだされているけどね。


(もうお休みは決定してたわけ? 車掌さんとのお話し合いは何だったんだよ。車掌さんが夕方出発したければ勝手に行けってこと?)


 そこで歩道に出た僕達だけど、ちらっちらっと淡い青色の瞳が僕達を何か言いたげに見上げてきた。

 バイゲル中佐もそれに気づいたらしい。


「紹介するわね。この子がランドリア、姉の一人娘よ。私の姪だけど妹として扱ってちょうだい。ランドリア、紫の髪に紺色の目をしているのがジェイさん。昔、アンジェお姉様と一緒にお仕事していたの。黄土色の髪に茶色い目をしているのはリオンって言って私達の弟ね。そしてこっちの男の子がアレン君。あなたがいずれ通うサルートス上等学校の一年生で、リオンとは年の離れた親友なの」

「え? お姉様、弟さんがいらしたの?」

「本当の弟じゃないけど、弟としてお姉様が育てた子よ。だからあなたにとってお兄様。会うのは初めてでしょう?」

「多分初めてです」


 ランドリアと呼ばれている女の子はネトシル少尉に対してとても好意的な眼差しになった。


(紫の髪に紺の瞳って言うけど、太陽に照らされてないと分からないよね。少しでも影がさしてたら黒髪と黒目にしか見えないし。僕達の緑の目も暗い緑って言われてるけどここまで黒に近くないし、だからよその国だと黒に近い目の色は一律ダークカラーですましちゃうのかな)


 駅長が鍵を差し込んで一軒家の扉を開け、歓談用の部屋へと僕達を案内する。


「挨拶は家の中でしなさい、ランドリア。先に手を洗っておいで。うがいも忘れては駄目だよ」

「はぁい」

「さ、どうぞ。そろそろ買い出しチームが戻ってくるでしょう」

「それなら駅で待っていればよかったかしら。何でしたらうちを提供いたしますわ」

「令嬢のお宅に成人した男共がぞろぞろ入りこむなど言語道断。私の目の前で許しませんぞ。フィオレファルナ殿はご自分が魅力的な花であることを失念する癖があるから困ったものですな」

「そんなことをおっしゃるのは駅長ぐらいですわよ。それにこの二人、私など好みじゃありませんのよ」

「見る目がない男がいたところで、他人には分からないことですからな。フィオレファルナ殿の名誉が汚されていいわけでもありませんよ」


 心配しなくてもバイゲル中佐、ネトシル少尉を問答無用で蹴り飛ばす人だよ。誰も襲わないよ。名誉が汚されるのは、襲って返り討ちされる側だよ。

 賢い僕は沈黙を守った。

 紳士たる者、余計なことは言ってはならない。命は大事だ。


「さ、どうぞお好きな所へお座りください。すぐに賑やかになるでしょうがね」

「買い出しチームは誰が?」

「シャルーク君とルルーシェラ君は確実にいましたよ」


 通された来客用の歓談室は、シンプルな焦げ茶色をベースにした男性らしい部屋だった。座り心地のいい椅子に座れば、ランドリアと呼ばれていた女の子が冷たいレムレム茶の入ったグラスと濡らしたナプキンを六人分、カートに載せて運んでくる。

 この子が使用人ではない以上、僕達はすぐに立ち上がった。ヴェイドル中尉がさりげなく手伝おうとする。

 

「先程はあいさつもいたしませず、失礼いたしました。シリラ・スフェン・ランドリアと申します。どうぞよろしくお見知りおきくださいませ」


 ランドリアの挨拶は背筋もすっと伸び、角度も美しい姿勢が取れていた。

 シリラ・スフェンという両親不明である身の上を恥じることもなく明らかにしてみせる。


(バイゲル侯爵家令嬢の一人娘だって紹介してくれてるんだから、それですませればいいことだったのに)


 僕はそんなランドリアの強さに、母が平民であることなど本気で悩む価値もないことだって知った。

 ただ、この流れはまずい。何がまずいと言っても、きちんと名乗られてしまったことだ。

 礼儀を示されたなら、礼儀でもって返さなくてはならない。自分に相手を尊重する気持ちがあるのならば。


「ご丁寧に恐れ入ります。ヴェイドル・ケラン・ジェイグランドと申します。かつてアンジェラディータ様の下で働いておりました。そちらのグラスフォリオン殿の親戚筋に当たります。ジェイでもいいですが、どうせならジェイお兄さんと呼んでもらえると嬉しいですね」

「ジェイお兄様ですね。では、私のことはランドリアとお呼びください」

「ではランドリアちゃんでいいでしょうか? ランドリア様と呼びたいのは山々なのですが、この地域だと悪目立ちしそうですからね」

「そうなんです。私も学校ではお姉さんとかお兄さんとか言うようにしています。たまに忘れてしまうんですけど」


 えへへと恥ずかしそうに笑うけれど、ローゥパパとかマーシャママとか言ってるより余程いいと思うな。

 どうしよう。うちの妹よりも貴族令嬢っぽい。ダメダメだよ、アレナフィル。


「そういうところもアンジェラディータ様によく似ておられますね。あの方も、仕事の時はぶっきらぼうな喋り方をしなくてはと乱暴な言い方はどういうのがいいかと努力していたものです。気を抜くとすぐに上品な話し言葉になってしまって赤面なさっていたものですが。どうしても普段の話し言葉は出てしまうものですから」

「本当ですか?」


 ランドリアは嬉しそうに笑った。

 紳士として挨拶を行うヴェイドル中尉。僕に対するのと違ってとても親切っぽい。これって差別?


「ネトシル・ファミアレ・グラスフォリオンだ。リオンでいい」

「あら? ネトシル・ファミアレって、ローゼン様のご兄弟ですの? それともお名前が同じ他人でしたかしら」


 ランドリアが首を軽く傾げた。

 ヴェイドル中尉とネトシル少尉の顔からいきなり表情が抜ける。


「ちょっと待ってくれ。なんであの人の名前がここで出てくる」

「なんでって・・・、ローゼン様と同じ姓だから? リオン様とは無関係ですか?」

「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ。えっと、まさかローゼン兄上、この村に来たことあるのか?」

「それは・・・、えっと、ローゼン様、コテージもありますもの。ローゼン様の弟さんなら、あそこのコテージを貸してさしあげたいのですけど、ローゼン様がいいって言わないと貸せませんの。ごめんなさい」


 気の毒そうに謝ってくる女の子だけど、どうやらネトシル少尉の兄は村でコテージまで借りていたらしい。兄弟間の情報伝達が不足しすぎだ。


(大丈夫かなぁ。リオンさん、なんかショック受けてる)


 事情はよく分からなかったけれど、僕はぽんぽんとネトシル少尉の背中をタッチする。

 こうなると、僕も覚悟を決めるしかなかった。


「初めまして。ウェスギニー・インドウェイ・アレンルードです。アレンと呼んでください。サルートス上等学校一年生だけど、ランドリアさんもあそこに進学するんだ? 今、幼年学校何年生?」

「六年生です。七年生になったら書類を提出すると聞いています。サルートス幼年学校に通ってない外部からだと入学を許可されるかは分からないらしくて、だからもしも入学することができたらどうぞよろしくおねがいいたします。大人はランドリアって呼びますが、友達はランディって呼びます。アレン様はリオン様の親友なんですよね。カッコいいですわ。私なんて、子どもあつかいですもの」


 いや、僕も子ども扱いしかされてないよ。


「呼び捨てでいいよ。僕もサルートス幼年学校通ってなくて、市立から進学したから。試験も受けたし。年なんて関係なしにみんなで遊んでたし、誰もが呼び捨てだったよ」


 サルートス上等学校生だと、やっぱりお育ちがいいんだろ? みたいな距離を置かれることがあるけど、外部からの進学だよって言えば平民だと思うのか、他所(よそ)の学校との合同練習の時、仲良くなりやすい。

 いくら礼儀正しい女の子でも僕が貴族令息として相対していたなら、内心では孤児をバカにしてるんじゃないかと、そんな疑心も生まれてしまうんじゃないかと思ったんだ。

 慇懃無礼って言うのか、相手を馬鹿にしている人に限って礼儀正しく嫌味ったらしいことをやらかすんだよね。やられた僕だから分かるのさ。それぐらいならざっくばらんに話したほうが悪意がないこと伝わりやすい。


「まあ、そうなの? じゃあ、アレンって呼ぶからランディって呼んでね。外部から合格するなんてかしこいんでしょう? それに一年生って王子様と同じなんじゃない? 王子様と同じ学年だと、素行もりっぱじゃないと合格できなかったって聞いたわ」

「・・・・・・そうなんだ」


 知らなかった。僕、試験は受けたけど、貴族枠合格決定してたから。


「これこれ。座って話しなさい。後ほど、ゆっくりとお茶を淹れよう。未来の恋人が見える妖精のお茶は、シャルーク君以外の男がいる時にランドリアに飲ませては駄目だと言われているから普通のお茶だがね」

「それってそのシャルークさんって人、ランディに恋人作らせる気ないんじゃないのって僕思います」


 ついに僕は言ってしまった。

 駅長もパチンとウィンクしてくる。


「そりゃそうだろうね。アレン君も気をつけておくといい。ランドリアと仲良くなりすぎると大変だよ。シャルーク君はランドリアの周囲にいる男なんて絶滅すればいいと思ってるからね」

「うわぁ。リオンさん、出番ですよ」

「もうサルートス上等学校では寮に入ってそいつとは縁を切った方がいいって忠告しちゃうよ。子供に手を出す男は生きてる価値がない」


 何らかの思い入れが発生してしまったのか、ネトシル少尉が中腰になってランドリアに忠告し始めた。

 ほんと、その通り。

 ネトシル少尉は妹をガールフレンド扱いしてるけど、妹よりも叔父や僕と過ごしている時間の方が長い。

 たとえ結婚間近な婚約者でも見境なくいちゃいちゃしていたら恥ずかしいこととされる貴族社会で、異性間の交流はとても気を遣うものなんだ。

 そこで女の子の悪評を考えることもなくいちゃいちゃするような男の人なんて最低だよ。


「ほらね。言ったでしょう、ランドリア。彼のあなたに対する愛情は世間一般的に普通じゃないのよ」


 駅長に再度促され、僕達は座って話し始めた。

 バイゲル中佐もここぞとばかりに言い始めている。


「シャルークお兄様は良いまほう使いだから、やさしいだけなのに。お姉様がやさしいのはかまわないのに、お兄様が男の人だからやさしいのはダメって、それはシャルークお兄様、かわいそうです」


 ランドリアはあくまでシャルークって人の味方らしい。


「女の子の添い寝をしていいのはお母様とお姉様だけよ、ランドリア。男の人は結婚しない限りしちゃ駄目なの」


 それにはお兄様も足していいと思う。血の繋がっているっていう条件付きで。

 そこへがやがやと騒がしい音や何か話しているような声がして、勝手に誰かが家に入ってきた。

 チャイムも鳴らさないで入ってくるってどんな無礼な人達なのさ?

 しかもノックもせずに中開きになっていた扉を大きく開ける始末。


「おや、ランドリアだけじゃなかったのか。こんにちは、フィオレファルナ殿。そちらのお客様もいらっしゃい」

「あらまあ、いらっしゃいませ。フィオレファルナ様が男性をお連れになるだなんて。ちょうどお昼ご飯を買ってきたばかりですからご一緒にいかがでしょう? フィオレファルナ様のお好きなサラダもありますわ。今日はみんなお休みにしたから、あちらに行っても誰もご飯を作る人がおりませんの」

「相変わらずマイペースね、あなた達は」


 なんか色気の漂う男女だけど、この二人は手ぶらだ。荷物は最後の一人が持たされている。

 荷物はみんなで手分けして持とうよ。

 荷物持ちしている三人目は気にしていないのか、朗らかな笑顔だった。


「だから僕が作るって言ったのに。あ、ファルナ様こんにちは。お客様方もこんにちは。ランドリアもお帰り。ランドリアがこないだ美味しいって言ってたコーンドミートの包み焼きも買ってきたんだぜ。あ、そうそう。せっかくだからヴェラストール行くかって、シャルークさんが言ってたんだ。なんでも今なら幽霊が出るんだって」

「ほんとっ? メル君、ありがとうっ。予約してくれてたんだ」

「まあな。だけど作り方はやっぱり教えてくれなかったんだ。なんであんなに美味しいんだろな。じゃ、先にキッチン行かせてもらいますね、駅長さん」

「ああ。頼むよ、メル君」


 メルと呼ばれた三人目は美味しそうな香りを漂わせていなくなってしまう。

 駅長の自宅なのにかなり親しいのか、誰もが自由だ。


「フィオレファルナ殿もいかがです? ゴーストに私達の仲を見せつけてみませんか?」

「そもそも仲とやらが発生してないのだけどね」


 ゴーストが出るって、ヴェラストールの幽霊城のことだろうか。あれは以前からいると思う。

 なんかとても騒がしい三人組だ。さすがのバイゲル中佐もつーんとそっぽを向いている。


「シャルークお兄様、ルルお姉様。ごあいさつもしないで駅長さんのおうちでいらっしゃいって言うの、おかしいと思うの。ここ、駅長さんのおうち。私達のおうちじゃないわ」

「大丈夫。きっと駅長さんも僕みたいな息子が欲しいと思ってるよ。だから僕の家も同然。それよりランドリア。朝からヴェラストールで巨大な幽霊が出たらしいんだ。今から出れば夜には着くだろう? 幽霊を見に行かないか?」

「ゆうれいって朝も出るの?」

「ニュース速報で出てるよ。ちょうど買ってる時に店で見たのさ。せっかくだからスクリーンをつけてみようよ。ランドリアにも見せてあげたくて急いで帰ってきたんだ」


 僕はネトシル少尉を見た。彼もまた頷く。

 うちの妹は変なところで運を引き寄せるというか、珍しい人にぶつかりやすい。まだその幽霊とこんにちはしてないと信じたい。


「ヴェラストールの幽霊城かい? 行くならもっと早く予定を立てなきゃ駄目じゃないか」


 パチッと、壁際にあったスクリーンを駅長が起動させる。


「見た時はニュース速報だったよ。とてもクラシカルなゴーストだった」

「やれやれ。全くマイペースだねえ、シャルーク君。お客様がいらしているというのに。子供のランドリアにも丁寧な挨拶をしてくれた方々に、大人の君がそれじゃ駄目だろう」

「フィオレファルナ殿にくっついてきた尉官達なんて護衛でしょ。それなら置物のように無視してあげるのが親切だよ。そっちの坊やはリンデル村の名前になった女性の息子ときたら、ただの里帰り。でもね、この時刻に到着してるなんて授業を抜け出してきたのかい? 不良だなぁ。ま、あの家も喜ぶだろうね。やっと持ち主が戻ってきたんだからさ」


 僕は半眼になった。

 ヴェイドル中尉とネトシル少尉は彼を知らないらしく、少し表情が険しい。


「え? あの家の? そうだったのね。だけどシャルークお兄様。軍の方だったならお兄様、もう少しきりっとした方がいいと思うわ」

「男相手にきりっとして何のメリットがあるのさ。んー、ランドリア、お帰りのキスしたげる。ただいまのキスしてね」

「んもう。お兄様、甘えっ子って言われても知らないから」


 シャルークと呼ばれた男の人は、ピンクがかった金髪に淡い水色の瞳をしていた。儚げな色合いで、顔立ちは華やかだし、人懐っこく喋る人だ。軍人には見えない。まさにチャラチャラきらきら男だ。

 今も年上の駅長を勝手に父親扱いして、人の家を自分ち呼ばわりしていた。しかも空気を読まずにランドリアを抱きしめてその頬にキスしてる。

 とっくに僕達を知ってるって何なの、この人。


(リンデル駅、リンデル村って聞いた時から母上の名前に似てるなぁって思ってたけど、やっぱりそうだったんだ)


 だけどさあ、僕、この人の上司の息子なんだよね?

 父の息子ってことより母の息子ってことが優先されちゃうの?

 それ以前に軍人ならバイゲル中佐の前でその態度はどうかなって思っちゃうよ?


――― ハーハッハッハ、フーフッフッフ。

――― ケラケラケラ、キャーハハハハ。

――― ガハハハハ、ヒィーイイ。


 そう思ったけど、スクリーンからまるで壊れた楽器のような音と共に、どこか正気を失ったような笑い声が響いてくる。

 誰もがスクリーンに注目した。



――― ゴロォン、キィ、ガラァン、ボーン。

――― ポロン、キィーイイイイィー、ガラン、ゴォン、ボロンッ。



 澄んだ青い大空を背景に、暗い煙が大きく広がり、その煙の中でボロボロに布がすりきれたような正装姿の骸骨達が踊っていた。


「うわあ、すっごぉい。シャルークお兄様、これホントなの? おっきい。アレン、いっしょに見に行く? とってもとっても大きいわ」

「うん。だけどランディ、あのスモーク、近づいちゃダメな奴だよ」


 何アレ。

 めっちゃ凄いんだけど。

 遊園地のゴーストホームよりもビッグでグレート。



『誰もが見入っております。まさにヴェラストール城のゴースト達が繰り広げる古き時代の舞踏会。しかし歴史や衣装に詳しい時代考証のプロに話を聞いたところ、ヴェラストールではこういった衣装は着用されていなかったとのことです。

 一方、治安警備隊は悪質で大がかりなイタズラだということで、現在、ヴェラストール城の部屋を貸し切りにしていたグループにも事情を確認しております。

 そして大空に広がったこの映像技術につきまして、専門家からは、これを実行する為にはかなり前もって準備しなくては不可能だったのではないかと指摘されております。

 今は数日前からヴェラストール城に不審物を持ちこんでいた存在がなかったかどうかも含めて調査中です。それでは、このゴーストをヴェラストール城観光中に見てしまったという方に話をお聞きしましょう』


 身振り手振りの大きなアナウンサーが、そこで白いシャツにブルーデニムのズボンにざっくりしたセーターを羽織った休日スタイルの青年を画面内へと引き入れる。

 茶色い髪をきちんと撫でつけていて、とても人当たりのよさそうな人だ。



「ぅげっ。ってまさか・・・」

「まあ。録画しておけばよかったわね」

「あれ? ねえ、シャルークお兄様。あの人、ローゼン様そっくり」

「本人なんじゃない?」


 ローゼンって言うと、ネトシル少尉の兄って人か。



『あのゴーストを間近で見てしまったそうですね。どう思いましたか?』

『いやあ、びっくり仰天ですよ。おかげで子供達ともはぐれてしまいまして、もう困ってます。ゴーストを間近で見てしまったものだから、いきなり走り出してしまいまして・・・。ホテルに自力で帰ってきてくれないと、ヴェラストール中を探し回らなきゃいけません』



 快活そうに答えているけど、ネトシル侯爵家と言えば虎の種の印を持つ三兄弟で有名だ。

 子供が走り出した程度ではぐれることなんてあるの?



『それは大変ですね。弟さんか妹さんと来ていらしたのですか?』

『はい。弟達を連れて来ていました。今、姉達も子供達を探しています。ゴーストに驚いてウサちゃんぬいぐるみと逃げちゃったんです。私もあの煙幕で見失ってしまいまして・・・』



 大事なことだからもう一度自分に言い聞かせる。ネトシル侯爵家は三兄弟。

 ネトシル少尉が姉上と呼んでいるバイゲル中佐は厳密には姉ではない、従姉だ。そしてあの画面に映っている人の弟はここにいるネトシル少尉だけだ。他にはいない筈だ。

 いや、分かってる。僕も、既に察し始めている。ただ、それが外れていてほしいだけだ。

 弟達って、複数だよね?

 そもそもウサギのぬいぐるみを持ち歩くような幼児の世話なんてメイドの仕事だよ。あのネトシル侯爵家令息の仕事じゃないよ。

 そう、・・・・・・それが本物のぬいぐるみならば、だ。



『大変ですね。早く見つかることをお祈りしております』

『ありがとうございます』



 僕はちらっとネトシル少尉を見た。ネトシル少尉も僕を見ていた。

 きっと僕達、同じウサギを思い浮かべてる。


「ローゼン様、いきなりお姉様と弟さんが増えてるわ。そんな小さな弟さん達なら、こっちに連れてくればみんながあそんでくれるから安心だったのにね」

「弟ということにしているだけで護衛対象だと思うよ。彼は大公家で兵士の指揮をしたり、貴人の護衛任務に就いたりしているからね」


 のほほんと、シャルークと呼ばれた人とランドリアが会話している。


「まあ、やっぱりすごい方だったのね。子供でも何人もいたら逃げられちゃうのかしら。私なんてすぐにつかまっちゃうのに」

「彼が子供程度に逃げられたなら何かあったんだろう。普通はこっそり捜索するだろうに、まるで捜してるんだから早く出てこいと言ってるかのようだね、これは」

「んー、つまり、迷子のおしらせ?」

「ちょっと大がかりだけどそんな感じだね」


 僕とネトシル少尉はちらっちらっとお互いの瞳を見交わした。


「い、今からヴェラストールに・・・」

「どんなに早くても到着は夜だ。ここからの特急は運休だし、移動車の手配が必要になる」


 全てを受け入れた表情で、ネトシル少尉がそっと首を横に振る。

 ヴェラストールは北にあって決して近くはない。ファリエ駅からやっとこさリンデル駅に着いた僕達だけど、そのファリエ駅の更に向こうにあるのがヴェラストール。要は遠い。どこまでも遠い。

 ゴーストはともかく行方不明なんて、一体何があったんだろう。

 そう思っていたら、空に広がるゴーストを映し出していたニュースで続報が入った。



『臨時ニュースです。先程、ヴェラストール城にゴーストが現れた件につきまして、機械の操作を誤ったことによって映し出されたものだと判明したことをお伝えいたします。ゴーストの映像装置を売り込みに来ていた一般人がいたとのことです。

 その一般人はヴェラストール城で嫌がる子供に声をかけて取り囲もうとした大人達を見つけ、助けようと思わずゴーストの映像のスイッチを押したものの、間違って最大出力にしてしまったとのことでした。尚、別口の情報筋の話によりますと、その子供は手広く事業を行っている裕福な貴族のご子息であるとのことです。

 治安警備隊は厳重にこの一般人に注意を行い、明日には釈放することとなります。

 そして子供を連れ去ろうとしていた男達からも、どこからその子供の予定を調べ上げたのか、そして何をしようとしていたのかを調査するとのことです』



 あまりにも反応が速い。


「恐らく兄のあの映像は何度も流れてたんだろう。そして迷子の子供達と連絡がついたということだよ」

「そうなんですね。取り囲まれそうになったからバラバラに逃げて収集がつかなくなってたのかな」

「そんなところだろうとは思うが、兄がその程度で見失うとは」


 やっぱりそこにネトシル少尉も引っ掛かっていた。まさか追手を食い止めるのにあのローゼンって人がかかりきりだったとか?

 あのミディタル大公家の護衛がいて見失うって、どれ程大勢に囲まれたんだろう。本当に何が起きたのか。

 大人の裏をかいて夜行列車で出かけちゃった妹達だけど、それすらも王子の行方として把握されていたのかもしれない。

 だから油断していた王子や妹達は囲まれてしまったんだろうか。

 こんなことならあっちについていけばよかった。


「姉上の持ち家って近いのか? 通話装置借りたいんだが」

「それならうちのを使えばいいですよ」

「いえ、長距離になりますので」

「構わないですよ。ここは長距離通話ばかりですからね」


 駅長さんがニコニコとそんなことを言う。


「ローゼンの邪魔する気、リオン?」

「違うよ。ウェスギニー家に連絡取りたいだけだ」

「おや。ウェスギニー子爵のところなら直通ラインがありますよ」

「へ? なんで駅長さんが?」

「なんでと言われても、リンデル村は亡くなった奥方の故郷だそうでしてね。何かあればすぐ連絡するようにと頼まれているのですよ」


 案内に立った駅長に続いて出ていくネトシル少尉に僕もついていった。

 でもね、どうしてバイゲル中佐とヴェイドル中尉までついてくるの? 二人は無関係だよね?


「姉上。なんでついてくるんだよ」

「知らないと手を打てないでしょう? なんでローゼンの仕事であなたがウェスギニー大佐に連絡取ろうとするのよ」

「大佐じゃねえよ。ついでにジェイさんも関係ないですよね」

「ネトシル本家の兄弟が絡んでいて無視はできませんよ」

「無視してください」


 なんか三人で揉め始めた。大人に見切りをつけた僕は、通話通信装置の前に立つ。

 大人のやること待ってたら何も進まないよね。直通ラインとやらは叔父の執務室に繋がっていた。


「あ、叔父上。あのね、今、ヴェラストールでゴーストが出たって・・・」

『ああ、見ちゃったのか。もう大丈夫だと思うよ。どうやらフィル、ゴーストが空に広がる映像装置を持っていってたらしくてね、貴族令息令嬢達にヴェラストール城で囲まれそうになったから驚かしてその間に逃げようとしたらしいんだ』


 妹が巻きこまれたのではないかと案じて連絡を取ったら、やらかした犯人こそが妹だった。

 なんてこった。今度フォリ先生に口止めの効果的なやり方を教えてもらおう。


「なんでいつも引きこもってるくせに、変なところで目立ちに行くんだよ。なんかさぁ、ニュースに出てた人、リオンさんのお兄さんなんだって」

『ああ、ネトシル侯爵家の次男殿だ。ミディタル大公家にいて、殿下の護衛をしていらしたそうだ。どうやらフィル、周囲一帯を無力化するシロモノまでぶちまけちゃったらしくてね、離れて護衛していたからそれに巻きこまれてはぐれたらしい』


 ねえ、それってさあ、子爵家息女が第二王子殿下の護衛を攻撃したってことになるんじゃないの?

 周囲一帯の無力化って有毒ガスでも撒いたの? それとも物理的な兵器を広域展開したの? まさか五日間みんなが寝ちゃうお薬じゃないよね?

 勘弁してくれ、妹よ。お前は国家反逆罪でも目指す気か。


「ダメな子待ったなし。何やってんだよ。僕がいないとまともに令嬢生活すらできないわけ? 全国放送でウサちゃんのぬいぐるみとか言われて連想してしまった自分がヤだよ。よその令息にまでウサギ扱いされてどうするんだよ。あんなのを可愛いとか言ってるの父上だけで十分だよ」


 何がウサギのぬいぐるみを抱えて逃げただ。ウサギが宝冠(クラウン)を抱えて逃げたんだろ。次にやるのは身代金要求じゃないと信じたい。

 クラブメンバー三人の苦悩が思いやられるよ。いや、今や全員が共犯なのか。王子と伯爵家令息と子爵家令嬢とサルートス上等学校生で構成された反社会的集団って何ソレ最悪。

 勘弁してくれ、妹よ。お前は学年成績と問題行動の両立トップ記録をサルートス上等学校史に刻む気か。


『まあまあ。夜行列車ではアニマルパジャマで寝てたらしくてね。護衛にもウサギパジャマで覚えられちゃったんだよ。お昼を食べる店で護衛と合流するって言ってたし、もう大丈夫さ。あの子のやったことだと城に報告後、兄上がヴェラストールに向かうそうだ。先に報告してしまえばただの笑い話だからね』

「笑い話で終わるの? なんで大人しく静かに観光できないんだよ。ふざけてるよね。臨時ニュースにまでなって何がしたいんだよ」

『フィルだからね。本人は不幸な事故だった、自分はサイズを間違えただけで何も悪くないって言ってたよ。大騒ぎするみんなが悪いそうだ』


 信じらんない。

 朝っぱらから大空に広がる幽霊ぶちあげて、大騒ぎする人が悪いってどんな開き直りだよ。


「もうおうちから出さなくていいよ。学友辞退していいと思う」

『私もそう思うが、肝心の殿下は楽しんでいるかもね。綺麗にドレスアップして殿下と踊る令嬢は多くても、一緒に夜逃げして全国ニュースになるような逃走を殿下とやらかすのはあの子ぐらいだろう。大公妃殿下も護衛の活入れにちょうどいいと仰っておられたからね』

「・・・僕、分かった。甘やかす大人達が全て悪いんだ」


 逃走するなら静かに逃げろよ。常識だろ? なんで全国ニュースになるような騒ぎをついでに起こしてるのさ。

 通話を終えると、大人達の目が僕に向けられていた。めっちゃ気まずい。


「えっと、通話させてもらってありがとうございました」

「いやいや。部屋を出ようとしたら、どなたも君が心配らしくてね。話したいことも話せなかったんじゃないかい?」


 この駅長、いい人すぎて泣けてくる。

 バイゲル中佐はネトシル少尉を蹴り倒したぐらいだし、なんか妹の味方っぽいけど、ヴェイドル中尉はどうなんだろう。

 ここで言えるだろうか。

 あれは第二王子と妹達に向けたメッセージだったのだと。

 ただでさえアレナフィル、フォリ先生とネトシル少尉に二股かけてるとか言われてるのに。この事態がヴェイドル中尉に知られたら、もうフォグロ基地で何を言われるか分かったもんじゃないよ。

 でもさ、あのニュース見て自宅に連絡を取って、あんな通話した時点でバレてるよね。僕達が双子なのは知られている。そしてミディタル大公家に所属しているネトシル侯爵家の次男がわざわざ弟ということにして護衛任務に就く相手なんて王族か外国の要人の子供ぐらいだろう。


(どんなに怪しいブラック寄りでも断言しない限りはグレー。リオンさんはいいけど問題は他の人だよ)


 更に考えるなら軍関係者はともかく駅長は一般人。

 ここで話していいんだろうか。一般人なのに何故かうちへの直通ラインが引かれている駅長はいい人そうだけど。

 そんなことを思ってたらシャルークと呼ばれていた人が室内に入ってきた。


「さ、通話も終わったならご飯にしよう。その場にいない人がどうこう騒いでも何の役にも立たないんだからさ」

「そういうことを言うんじゃないよ、シャルーク君。子供でもしっかりしたもんじゃないか」

「だってあの幽霊、もう終わりなんだって。それにそこの中尉と少尉、ボスのこと嫌いだしさ。気に食わない男の息子を手懐けて情報取るってのはさすがに見過ごせないね。子供を巻きこむなよ、みっともない」


 見下げ果てたと言わんばかりの眼差しに、ヴェイドル中尉とネトシル少尉がさっと表情を変える。

 えっと、うん、うちの父親は嫌われててもしょうがないと思う。僕もあの温泉町のフォムルで、うちの父は世界に喧嘩を売ることしかできない人だって思った。

 初対面だけど、どうやらこのシャルークって人は僕の味方みたいだ。父の部下だから? 気持ちは嬉しいけど、この二人に喧嘩なんか売ったら後で困るんじゃないの?


「おいで、坊や。そこのお兄さん達は放っておきなさい」

「えっと、あの、リオンさん、別に父とは仲良くないかもしれないですけど、叔父とは仲いいです」

「庇ってくれるのは有り難いけど、別に俺はウェスギニー大佐とも仲悪くないよ、ルード君」

「え。私のことは庇ってくれないんですか? それにどうしてあなた、ウェスギニー大佐と仲良くなってるんです?」

「なんでジェイさんにまで大佐と仲悪いとか思われてないといけないんですか」


 悪いけどヴェイドル中尉は信頼できないかな。

 そう思ってたらヴェイドル中尉とネトシル少尉が仲違いし始めた。

 さっき、ヴェイドル中尉はネトシル侯爵家に縁があるって言われてなかったっけ。その人にもうちの父と仲悪いって思われてたんだ。それならそうなのかも? なるほど、貴族って本当に繋がってるよね。

 じゃあ、このシャルークって人は何なんだろう。貴族ならお互いに尊重し合う筈なんだけど、だからといって平民っぽくもない。

 くすっと笑いかけてくるその瞳に僕への好意が見えた気がした。なんかこの人、信じていい気がする。


「貴族なんて殺意を持ってても笑顔で語り合える人種だよ?」

「ごもっともです。えっと、リオンさん、叔父の友達でよくうちにも泊まりで遊びに来るし、僕のコーチもしてくれてるし、家族以外で一番信用できる大人です」


 父との仲はよく分からないけど、叔父とは仲良しだ。そう思いたい。


「それならいいけどね。でも食事が冷めちゃうんだ」

「え? それが本題?」

「大事なことだよ」


 するりと手を取られ、僕は食堂へと連れていかれた。

 そこには買ってきた軽食がここぞとばかりに広げられている。十人分ぐらいありそうな量を、ルルと呼ばれた女の人やランドリアがお皿を選んで並べていた。メルと呼ばれていた人は作っておいたスープを温めているそうだ。


「この後、誰か来るんですか?」

「うちの買い物っていつもこんな感じなの。あまっても誰かが食べるから。今日はみんなが出かけちゃってたから、ファルナお姉様やアレン達が来てくれてよかったわ。ね、ルルお姉様?」

「ええ。軍が攻めてきたらすぐに避難できるように訓練が定期的に行われていますの。ここは国境が近いものですから」

「そうなんですね」


 国境が近い地域の実情を僕は知った気がした。


「アレン君ってお名前なんですね。私のことはルルお姉ちゃまとか、ルルお姉ちゃんとか、ルルお姉しゃまとか、ルルお姉様って呼んでください。姉上呼びは駄目です、堅苦しすぎます」

「・・・・・・ルルさんでいいですよね」

「そろそろ弟がいてもいい頃です。安心して身も心も任せてくれて構いませんよ?」

「よそで弟は調達してください、ルルさん」


 そう言いながら僕は僕の手首を握っていたシャルークって人を前に押し出した。どっちが年上か知らないけど、なんかこの女の人には近づかない方がよさそうな気がする。


「あのね、坊や。ルルちゃんにとって僕は対象外だよ」

「大丈夫です。多少年上でも年下でもいけると思います」

「ありゃ。なんかとっても怖がられてるよ、ルルちゃん。しょうがないから僕で我慢してみる?」


 僕はぐいぐいとその背中を押してみた。

 その程度で怒るような人じゃない、そんな気がする。


「やめてくださいな。シャルークさんに手を出したら私が食べられます」

「食べていいなら食べるけどあまり食指が動かないんだよね。決まりきった手順ってプライベートに持ちこみたくないんだよ」

「それはこっちのセリフです」


 よく分かんないけど仲は悪くなさそうだ。


「アレンってばもうシャルークお兄様と仲良しさんなのね」

()かなくても僕が誰よりも愛しているのは君だよ、ランドリア。今日は邪魔な人達もいないし、うちで二人きりの甘い夜を過ごそうね」

「私がいますけど? 子供を寝室に連れこんで許されるとか思ってるんですか。なんとか言ってやってくださいませ、フィオレファルナ様」

「フェルシア少尉、子供と一緒に寝たければアレン君にお願いしなさい。ランドリアは一人で寝るか、ルルーシェラと寝るのね。私でもいいけど」

「休日にそういう呼び方やめてほしいな。シャルって呼んでよ。そしたら僕もファリイって呼ぶから」

「お断りよ、この女たらし」


 全くだよね。貴族令嬢が一緒に寝ていいのは血の繋がった双子の兄だけだよ。

 ところでシャルークって人が少尉なら、この人、ヴェイドル中尉より地位は下だよね?

 少尉という意味ではネトシル少尉と同クラスかもしれないけど、ネトシル少尉は近衛という花形だよね?

 有力貴族の名前はマスターさせられている僕だけどフェルシアなんて貴族は知らないわけで、そうなると爵位のない貴族か平民だよね?

 それってこのフェルシア少尉、軍人としてこの中では一番下ってことにならない? バイゲル中佐からなんてどんな命令も「はい」しか言えない立場じゃない? 何を見境なく口説いてるの?

 うちの父の部下の認識能力がとても心配だ。オーバリ中尉といい、上官との恋愛トラブルがないと父の部下にはなれないの?


「別に添い寝だけじゃないか。僕以外の男の方が問題だよ。可愛いランドリアが襲われちゃう。ねー、ランドリア。ランドリアだって僕と寝たいよね?」

「シャルークお兄様と寝るのは好きだけど、みんなが止めるからいけないと思うの」

「だけど寝る前のおしゃべりは大好きだろう?」

「大好き」

「じゃあ決まりだ。心配ならフィオレファルナ殿も一緒で構わないよ? ランドリアが先に眠っちゃったら大人同士でじゃれ合おうか」

「はっ、安っぽいセリフだこと」


 なんかバイゲル中佐に鼻で笑われてる。堂々と佐官口説いてどうするのさ。

 人間関係が濃すぎるよ、ここ。


(ファルナさんってバイゲル侯爵家令嬢で偉い人なのにとても包容力あるよね。普通はブチ切れてると思うんだけど)


 それだけに分からない。どうしてこの人の姉は僕の母を殺したんだろう。

 このリンデル村は母の名前からつけられたとフェルシア少尉は言った。そしてリンデル村のほとんどは私有地だ。だから村の名前も彼女がつけたのだろう。

 自分が殺した相手の名前をこの村につけて、その人は今、ここの避難訓練に参加している。どうしてこんな辺鄙な土地でその人は暮らし続けているんだろう。


「このコーンドミートがね、とぉってもとぉってもおいしいのよ。みんなで競争なの」

「ははっ、ランドリア、スープ飲みながら言ってる。勧めるんならまずそっちを食べろよ」

「だってメル君のスープおいしい。あのね、メル君ってばお料理のまほう使いなのよ。普段はお手伝いしかしてないのに、ご飯を作ったらとってもおいしいの」


 僕にコーンドミートの包み焼きを勧めながら、ランドリアはメルって男の人と楽しそうに言い合っていた。

 要は調理人見習いなのかなって思ったけど、そこまで大仰なものじゃないらしい。普段の厨房は女性が仕切っていて、このメル君がその手伝いをしているそうだ。


「あ。本当だ。このスープ、なんか葉っぱがおいしい。ハーブなんだよね? だけどハーブっぽくない」

「それね、この辺りの清流で採れる野草なんだけど、めっちゃスープに合うんだ。何かとみんなが食べたがるから綺麗な水流を幾つか確保して増やしてるぐらいさ。そういやインドウェイさんちの息子さんってことは将来ここに戻ってくるのか? どうせなら酒場の経営も学んだ方がいいと思うな。要望ありすぎ」


 メル君と呼ばれている人は厨房の下働き担当だけど、気が向いたら調理人に早変わりしたり、たまに酒場を臨時でオープンさせてバーテンダーになったりしているそうだ。

 その収益は村の運営に回しているらしいけど、彼が酒場をオープンするのはいつも世話になっている人達の為なので激安らしい。だから儲けはあまりないそうだ。


「相場の値段を取るようにって言われてはいるんだけどね、僕の給与が出ないからって。だけど夜まで村にいるってことはコテージ借りてるお客さんだし、一つの広告みたいなもんかなって思ってさ」

「そうなんですか?」

「家族、親友同士で語り合いたい人達とか、リピーターは増えてる。問題は出店したい人達の選別だね。阿漕なことされても困るからさ、だから休日だけの臨時スペース貸し出ししかしてないんだ」


 テーマパーク内の飲食は普通よりも高いのが当たり前だと思っていたけど、それとは別らしい。

 酒場をオープンする時もそれなりにちょくちょく滞在してくれて変な騒ぎを起こさない人だと分かっている人達の時だけ要望に応じて営業するそうだ。

 かなり人間性を重視して選別しているんだよと、彼は言った。


「はあ」

「君のお母さんち、特別に家も残ってるしね。鍵ならこっちで預かってるから行く時は声かけてくれよ。案内するから。これからはちょくちょく来るんだろ?」


 彼は村長に雇われていて、基本の仕事は買い出しや調理手伝いや掃除といった下働きらしい。

 だから使用人ってことになるんだろうけど、普通にみんなと同じテーブルに着いて、仲良くお喋りしている。


「えっと、僕、まだそこまで考えてなくて・・・」

「そりゃそうか。交通費だけで大変だもんな。けど、うちの村って村長にしてもジョルディシアさんにしても貴族だったりするからさ、みんな緊張しちまうんだよ。市立から国立に進学したんだって? そんなら貴族にもおたおたしないだろうし、頭もいいんだろ? いつか戻って来てくれよ。家だってたまに風通してあるんだしさ」


 ごめん、僕も貴族だよ。


「えっと、考えておきます」

「おう。村人がいないとただの花畑公園だ。期待してるぜ、未来の村長さん」


 うーん、いくら母の故郷でも村長を目指す気にはなれないかな。だって僕、うちの領主目指してるし。

 それなのにこの人は僕がこの村で住むと信じてる。なんでだよ。


(みんながいい人すぎて分かんないよ。村には母上の名前がついてて、家も残ってるって何だよそれ)


 もしかして母が殺されたのは痴情のもつれというもので、そのアンジェラディータって人とうちの母が道ならぬ恋に落ちていて、それで殺されたとか・・・?

 実は、父こそが二人を引き裂いた悪者だったとか・・・?

 ホント、みんなが思ってる僕の情報があまりにも現状と一致しない。

 人間関係が分からないままだったけど、昼食はとても美味しかった。





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