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35 それは掛け違えたボタンにも似て


 うちの双子はとても仲がいい。今は自宅と寮とに分かれて別居生活だが、アレンルードが帰宅した時には同じベッドで寝ていたり、同じソファでくっついて座っていたりして、子タヌキ達がころころしているといった様子だ。

 年齢的にあまりくっつきすぎるのもどうかと思うのだが、お互いに相手をぬいぐるみ気分で愛玩している気配が濃厚なので、我が家では年齢に見合った行動ということを言わず、好きにさせていた。

 アレンルードはアレナフィルに可愛い色の服を着させてご機嫌になるし、アレナフィルもアレンルードにおめかしさせるのが大好きだ。自分達の顔が好みならば鏡を見れば解決するのではないかと思うが、やはり抱きつけないと意味がないのだろう。

 最近はアレンルードが休日にも帰宅しないというので、アレナフィルはちょっと寂しいらしい。

 裏庭にあるロープ遊具の内、木陰になっている場所を選んで座り、炭酸の入ったドリンクを飲んでいたら、アレナフィルがアイスティーのグラスを持ってとことこと近づいてきた。


「おいで、フィル。ここのロープは大丈夫だが、遊具でぐらついていたりするものはないかい?」

「んー。どれも大丈夫だと思う。芯のワイヤーも頑丈なものにしてあるってジェス兄様言ってたけど、この間も点検の人が来てたよ」

「そうか」


 並んで腰かけたアレナフィルは、このゆらゆら揺れるロープベンチもお気に入りだ。アレンルードだと横になってハンモックにするが、アレナフィルは寝るのではなく座るのがいいらしい。

 木綿のゆったりしたズボンに丸首タイプのシャツを合わせているところを見ると、今日は運動したい気分だったのか。


「パピー。ルード、あまりクラブ活動ばかりするのって良くないと思う。子供はおうちで過ごすのも大事じゃないかなぁ」

「寂しいのなら邸で過ごせばいいだろう。レミジェスだっている」

「んー。まだお洋服欲しくないから大丈夫」


 娘よ、お前は自分の叔父をサイフだと思ってはいまいか? お前の結婚したい理想のタイプとはサイフなのか?

 半曜日は学校からレスラ基地に行き、そして休曜日もまたレスラ基地で尾行の仕方や変装の仕方を教わっているアレンルードは、週末をウェスギニー子爵邸で寝泊まりしている。先週は夜会があるので子爵邸に行ったのだが、そこに息子がいたのだ。


『お前なあ、ルード。フィルが寂しがってたぞ。こっちに泊まるならフィルも連れて来てやればいいだろう』

『そしたらフィルに僕がやってること、ばれちゃうじゃないですか。父上、僕のこと絶対にフィルには言わないでくださいよ』

『別に言わないが、言った方が感動するんじゃないか? この間も、陰ながら見守る主人公とやらが出てくる小説を読んでうっとりしてたぞ。これぞ純愛だとか言って』

『兄上。ルードは実力をつけてからじゃないと言いたくないんですよ。立派じゃないですか』


 弟がうちの息子に甘すぎるのだが、遊びに行く妹をこっそり追跡しようとする兄のどこが立派なんだ? 妹が心配ならもっと確実な手を打てばいいだろう。

 そう思ったが、私とて息子のしたいことを雁字搦めに制限する気はなかった。子供のかくれんぼみたいなものだろう。


『フィルを危険な目に遭わせたくないのであれば、ルードが護衛についていると告げるのが一番の抑止力だと思うがな。一人だと思えば無茶もするかもしれんが、フィルはルードが危険なことになることはしないだろう。ルードがフィルと一緒に出掛ければ全て解決だ』

『それじゃただのお出かけじゃないですか。僕はフィルに気づかれない尾行を学んでるんです。兄としての気持ちが父上には分からないんですか』

『別に私はレミジェスを尾行したいと思ったことはないが、それなら好きにしなさい。だが、何をするにしてもレミジェスの許可だけは取るんだぞ、ルード』

『はい』


 不在がちな私よりも弟に任せておいた方が確実だ。弟は甥であるアレンルードを実の息子のように可愛がっている。


『ちゃんとルードは私に相談しながら自分で判断しています。上等学校に入ってどんどんしっかりしてきていますよ、兄上』

『へへっ。ほんとっ、叔父上?』

『ああ、本当だとも』


 単にアレンルードはレスラ基地で色々な武器や追跡用の道具を使えることに夢中なだけではないのかと、私は疑っている。

 内緒と言われても、アレナフィルが自分で偶然に知ってしまう分には不可抗力だろうと思って、ウェスギニー邸に行くことを促してみれば、娘はあまりにも現金な選択をしてきた。

 娘よ、お前が理想の結婚相手とやらに会いに行くのは服を買ってもらいたい時だけなのか?


(平日の朝はネトシル少尉と軽く体を動かしているという話だったが、ルードも一体どこを目指してるんだろうな)


 王子エインレイドと共にいる妹が心配で、グラスフォリオンに格闘術を教わっているという話だったが、その時に彼から護衛として学ぶ尾行術や、護衛対象に気づかれないで警護するやり方という訓練内容をアレンルードは聞いてしまった。

 そしてアレンルードは、かつて軍に所属していたレミジェスに教えと協力を乞うたのだ。何故ならそれは人数が必要で、グラスフォリオンが1対1で教えるのは難しかった。

 甥に甘いレミジェスはレスラ基地にいる知人に連絡を取り、護衛に特化した人間の紹介を頼んだ。そこで、どうして子供の尾行ごっこに軍人の教えを頼むのかと問われれば、双子の妹が王子と共に行動しているからという理由である。


――― ああ、あの女の子、お前さんの姪だったな。だけど普通は兄の方が王子と一緒じゃないのか?

――― 甥はうち程度よりももっと身分の高い子がいいだろうと思って距離を取ってたのさ。ところが王子はあの通り変装してるだろう? 姪やその友達と仲良くクラブ活動しているよ。

――― クラブ活動?

――― 成人病予防研究クラブだそうだ。

――― ・・・殿下は、老成されておられるのだな。


 レスラ基地は、王子エインレイドがクラブメンバーと外出する際の警備を担当しているが、王子だけでなくアレナフィル達も無茶をしない護衛対象だった。少年らしい突発的な行動も起こさないし、危険そうな所には近づかないし、明るい大通りを選ぶし、健全で前もって許可を得た店にしか入らない。


――― こう言っちゃなんだが、普通もーちょっと冒険したがるもんだろ? こっそり大人っぽい恰好して酒場とかさぁ。それとか女の子引っ掛けてパーティとかよ。裏路地のいかがわしい店に入ってみたりしてバカやって怖い思いして、そうして大人になるもんだと思うわけよ。なのになんだよ。どこの幼年学校のハイキングだよ。

――― 健全で結構じゃないか。


 レスラ基地は任務が簡単すぎて不完全燃焼だった。盗んだ二輪で逃走したところでついてってやるぜってやる気満々だったのに、こっそり飲酒もしないし、綺麗な女の子を現地で調達したりもしないし、たった一人の女の子を巡って少年達で喧嘩をすることもない。

 どうやらかつて第二王子だった、とある大公をイメージしていたらしい。そこは期待外れだったものの、見ていると心が和む温和な王子だ。護衛だからと日陰の身に甘んじなくても、こうして先に許可を取らないと外出一つできない王子にレスラ基地は同情し始めた。

 そして学校生活や寮生活に関してはレスラ基地では全く手出しができない。

 アレンルードは王子と同じ寮生で、情報源としても飛んで火にいる夏の虫だった。

 それならば休日のちょっとした講師に何人かを推薦するのではなく、レスラ基地でとことん子供でもできる技術を教えてあげようと、レスラ基地は言い出してきたのである。

 レスラ基地のメンバーはエインレイドの寮での行動や好みなども聞き、「隣のテーブルで興味を惹きそうな会話をするなら、こういう方向性」な情報を、アレンルードから収集中だ。


――― えーっとエリー王子の興味があることですか? あ、王子はみんなにエリーって呼ばれているとかで、寮生もエリー王子って呼んでるんです。だけどクラブメンバーは王子が王子って知らなくて、だからレイドって呼んでいるそうです。たしかエリー王子、初めて乗った路面移動車が楽しかったらしいですけど、買い食いができるのはどこなのかが分からないらしいんですよね。

――― 買い食い?

――― みんなで出かけた時、歩きながら立ち食いしたのが楽しかったらしいけれど、それが許される場所とそうじゃない場所の区別がつかないみたいです。周囲を見ればなんとなく・・・ってのは、エリー王子はあまり分からないと思うので、できればそういうのを・・・。

――― そうか。なるほど、そうか。そういうものがいいのか。うん、ならば美味しいジューススタンドやスナック売りを案内するようなリーフレットを店に置いておくか。


 フォリッテリデリーの店内に「この辺りのお出かけマップ」みたいなチラシを置いておいたら、クラブメンバーは五人で食事しながらそれを熱心に見ていて、早速それを持って出ていったらしい。

 そんな物をわざわざ作ってまでレスラ基地は何をしているのか。


『凄いんだよ、パピー。レスラ基地の近くってば、祈りが未来の恋人に届く泉とか、ウサギを見つけたらいいことが起こるハッピーロードとかがあるんだよっ。

 フィル、分かってたら人参持ってったのにっ。

 しかもねっ、大人は有料だけど、未成年ならどの屋台でも何かを買ってスタンプ押してもらったら無料の乗馬体験できる馬レンタル屋さんとかもあったのっ。頂上までかっぽかっぽ行けちゃったんだよっ。

 リオとフィルはね、あまり乗馬に自信なかったんだけど、そしたら乗馬レンタルの人が一緒に乗って泉とかの案内もしてくれたんだよっ。ウサギさんはいなかったけど、リスなら見つけたっ』

『・・・そうか。軍人が多いエリアだから一般の子供に対して優遇サービスがあるんだろう。良かったね、フィル』


 いきなり観光地を作っているのはともかく、ウサギは生き物だから思うように動いてくれなかったらしい。

 王子や伯爵家の子息達が馬に乗れない筈もないが、乗馬に自信のない二人のおかげでその乗馬レンタル屋の人とやらは休日の第二王子をあちこち案内できたわけだ。

 ガールフレンドの好みまで王子から聞き出そうとしていた気配が濃厚で怖すぎる。


『うんっ。みんなもね、一緒にレンタル屋さんのお話を聞いてたんだけど、長い葉っぱを結んだらレスラ基地に所属できるっておまじないができる木もあるんだよっ。フィル、びっくりしちゃった。レスラ基地、おまじないで異動できちゃうジンクスがあるんだね。配属されたい人とかが葉っぱを結びにくるって、レンタル屋さん言ってたけど、そんなにいい基地なのかなぁ』

『結んだのかい?』

『葉っぱは結ばなかったけれど、なんかレイド、自分の髪紐を結んでたよ。配属のおまじないする人の願いが叶いますようにってお祈りしてた』

『・・・見事な回避能力だな』

『え?』

『いや、何でもない』


 アレナフィルが持ち帰ってきたチラシはとてもカラフルだった。スタンプを集めたら粗品がもらえると聞き、頑張ってレスラ基地周辺を回ってスタンプを押したそうだ。

 もらった粗品は、レスラ基地マークのついた金属製物差しだった。


『レスラ基地のマークってカッコいいっ。パピーもそういうのあるの? これね、物差しだけどレターオープナーにもなるんだって。お札も挟めるし、書類も少しならまとめておけるんだよっ。大きな本ならしおりにもなるのっ』

『まあ、そういう遊び心を出したものを作りたがる奴が多いのさ。基地ごとのマークは旗とか地図で使われる。あとは記念品として配るグッズに入れることが多い。そういうグッズは売店でも扱っているから一般人でも持っている人は持ってるよ』

『そっかあ。全基地のコレクションとかする人とかいるのかな』

『いるかもしれないな』


 物差しか。普段使いできて、何個かあっても困らないものを選んでいる上、囲い込もうと言わんばかりの執念を感じずにはいられない。よほどガルディアスをサラビエ基地に取られたのが不満だったのだろう。


(あまり高価なものだとやらせだとばれるが、物差し程度ならそうでもない。国旗も入っていてちょっとないデザインだし、楽しかったならいいか)


 お気に入りの木製レターオープナーがひび割れて壊れてしまってから、たしかエインレイドはナイフで手紙を開封するようになっていた筈だ。

 あれは特別な手作りの品だったから、代わりの物を彼は欲しくなかったのだ。

 だけどアレンルードは王子がナイフで手紙を開封しているのを見て、危険だと思ったのかもしれない。アレンルードなりに王子に役立ち、それでいてささやかな物を頑張って考えた結果なのか。

 王子にずっと使ってもらいたいレスラ基地の特別デザインかもしれないなと、私は思った。


(優しい子に育ったのはいいんだが、ルード、お前、王子の護衛なんてしたくないから寮に行ったんじゃなかったか?)


 自宅に戻ってこないアレンルードは尾行方法ばかりか、変装の仕方や誰かと共に追跡行動する際の交代の仕方なども学んでいる。うちの息子は軍人にはなりたくないと言いながら反対の行動を自分から驀進(ばくしん)中だ。

 うちの子供達が愚かすぎて父は辛い。




― ☆ ― ★ ― ◇ ― ★ ― ☆ ―




 様々な事情から隠して育てておきたかったアレナフィルだが、これだけの年月をかけてしまえば無害どころか役立つ存在であることが明らかになっていた。

 バーレミアスによると、ファレンディア国人だった時のアレナフィルは学生時代に教員の資格も取っており、塾の講師といった副業をしたこともあったとか。仕事では事務職員をしていたそうだが、その気になれば秘書の仕事もできるらしい。


『秘書にも種類があるが、スケジュールと体調管理メインの秘書仕事が得意だそうだ。だが、先に目を通して優先順位や調査などの指示を出す方もできるという話だったな。さすがにこの国での文書、交際における決まりが分からないから、ここでは手を出せないとは言っていたが、あの子、一体どういう日々だったんだろな。おかげでうちは助かったが』


 バーレミアスの職場に連れていかれたアレナフィルは、自分が上等学校一年生であることを忘れているようだ。半曜日の午後と休曜日を使って習得専門学校に入り浸り、バーレミアスがためこんでいた今までのお付き合いの人物ファイルを、アレナフィルは全てまとめてしまったらしい。

 おかげで一週間か二週間に一回、アレナフィルがバーレミアスの研究室に行ってその間に届いている様々な書類に目を通して処理していくだけで、スケジュール管理もばっちりだとか。知りたい情報も全て人物・研究ごとに分けられているからバーレミアスも大助かりだ。

 好奇心からついていったクラブメンバー達も、学会スケジュールや論文締切日といった数年分のスケジュール管理表を見て、面倒見のいい講師でありながらそういった研究にも手を抜かないバーレミアスに感動したとか。

 何故ならアレナフィルはバーレミアスが受け持っている生徒達の情報も全てまとめていたからだ。バーレミアスが覚えていなくてもその生徒のことはファイルを開ければすぐに分かる。

 いきなりやってきた生徒のことも覚えていて適切な指導をしているかのように見えたバーレミアス。あいつは王子の前で自分の株を上げた。


『王子様っつーからもっと偉そうな子を思い浮かべてたけど、かなりいい子じゃないか。うちの一人分用のコーヒーグッズとかを見て目を丸くしてたぞ。フィルちゃんはみんなの分を一緒に淹れた方が美味しいって力説してたが、あーゆーちっこいのも自分の部屋に置きたいって思ったらしい。どこで買えるのか聞いてきたから、売店を紹介しといた』

『あんなまずいコーヒー飲めたもんじゃないだろうに』

『何事も経験さ』


 習得専門学校内にある売店に行ったエインレイド達はその安さとチープな作りに驚いたらしいが、あんなちゃちな物など本来は彼らが知ることも見ることもなかっただろう。

 強固に反対したアレナフィルの様子に不安を覚えた彼らは一個だけ買い、クラブルームで試しに淹れてみたところ、あまりのまずさに皆で沈黙したとか。

 おかげでお育ちのいい少年達は、「習得専門学校の講師とは、こんなまずい物を飲んで研究し続けているのか」と、清貧なイメージをバーレミアスに抱いたらしい。

 アレナフィルが行った時にはみんなの分もお茶やコーヒーを淹れるし、ポットに作り置きのコーヒーを入れておくのでそれは使わないのだが、一人しかいない時にはバーレミアスも眠気防止で味など二の次三の次で使うのだ。あれは泥水コーヒーグッズと呼ぶのが相応しい。

 だからこそバーレミアスはアレナフィルを自分の所に来させるのだが、そこで自分のやってることをクラブメンバーに暴露しそこねるのがアレナフィルだった。

 結果としてクラブメンバーは、バーレミアスを面倒見がよく人間のできた講師だと誤認している。


(レミジェスはフィルを可愛がりすぎて、仕事の忙しさなど全く見せないからな。もしフィルがレミジェスの仕事を少しでも手伝いし始めたら、あいつこそが手放さないだろう)


 バーレミアスもうちの娘を使って自分の評価を上げないでほしい。学会や論文だって全て出席するとも提出するとも限らないのだが、うちの娘もそこまでは分からないからと全てスケジュール表にまとめてしまった。

 だから漏れなどなく、バーレミアスは自分なりにそれらを取捨選択すればいいだけとなっている。


『自分は出なくても知り合いは出たりするからな。話を合わせる為にも全部把握できるようにしといてくれるのは有り難いのさ』

『自分のことは自分でやれ。うちの子を使うんじゃない』

『いいじゃないか。秘書ってもんの有り難味を知ったぞ、俺は』


 バーレミアスの妻もまた習得専門学校で講師をしている。家事はともかく、さすがにこの年で秘書までできたらアレナフィルが異常すぎると分かってしまうので、バーレミアスもそちらには行かせていないそうだ。アレナフィルも差し入れのお菓子を持っていく程度にしているらしい。


『だけどさぁ、俺の研究室、どんどん使いやすくなってるし、俺が全く興味ねえ生徒の情報もまとまってるわけだ。おかげでフィルちゃんにさせてるんじゃないかって、いくら俺がやったって言っても信じてくんないんだよね』

『ヘタな嘘つかず、正直に告白した方がよくなかったか?』


 試験前にはアレナフィルに家へ来てもらって面倒を見てもらっていた夫婦である。しかもアレナフィルが隣のサルートス上等学校に進学した途端、夫の研究室が片付いたのだ。そりゃ疑うだろう。

 アレナフィルはバーレミアスに尋ね、サルートス国における受験予定の資格一覧表を作り、習得専門学校に通う年になったら次々に取っていくつもりだとか。

 五、六年後からは王宮からの女官スカウトが凄いことになりそうで頭が痛い。うちの娘は箸にも棒にも掛からない安泰ぼんくら役人生活を目指しているのに、やっていることはどこにでも潜りこめるスパイとしての技能会得だ。

 

(こうなると社交界にもいずれデビューさせなくてはならんのか? うちの娘の好みを考えると、意味ないだろうに)


 ガルディアスによってアレナフィルは貴族令嬢としての価値を上げさせられつつある。

 アレナフィル自身を気に入ってもいるようだが、どうやら妹が欲しかった気持ちもあるのではないかと私は見ていた。

 グラスフォリオンもそうだが、あの二人はアレナフィルを構いたくて仕方がないらしい。婚約者になれば大手を振って可愛がることもできるし、自分の家に迎えることもできる。

 変に暴走されても困るから長期休暇中の保護者同伴旅行は許すことにしたが、その休みを確保する為に前倒しでかなり無理をしているようだ。

 会わせなければその間に根回しをしまくるし、会わせれば余計に気に入るし、結局うちの娘は男に好かれやすいのだと実感せずにはいられない。

 あの可愛らしい顔立ちだから好かれやすいのは当然だと思っていたが、さすがにここまで女に不自由していない男達を夢中にさせるとなれば私とて頭が痛かった。 


(虎の種の印を持つ者は、生命力と気力溢れる女を好む。フィルは健康だが、やる気があるとは言い難い。そして病弱で人前に出さずに育てたというイメージがついている。虎の種の印を持つ者は、か弱く小さな存在にこそ庇護欲を抱くものだと周囲には説明しておいたが、・・・虎の種が聞いたら大笑いだな)


 見ているだけで心が和むアレナフィルだが、本来は虎の種の印を持つ者が好むタイプではない。それを凌駕するからこその蝶の種なのか。

 あの子が皆を魅了したのは、その独自な思考と性格、そしてとっぴな行動が面白かったからだ。私とてアレナフィルが可愛いのは娘ということもあるが、見ていて飽きない面白さもあると実感している。

 けれどもまだ出ていない蝶の種の印を持つ者の魅力が加わっているとするならば・・・。


(父と弟の樹はともかくとして、母が蝶、息子の私が虎、孫のルードが虎でフィルが蝶となれば、縁談が殺到するのは間違いない。それぐらいなら虫よけにしておいた方がいいのも事実だ。なによりエインレイド王子の妃候補など冗談じゃない)


 ガルディアスもしくはグラスフォリオンと出かけると、さりげなく皆に睨まれるというのでびくびくしていたアレナフィルだが、ガルディアス、グラスフォリオン、ボーデヴェインの三人で出かけたならば誰かはアレナフィルについていることになるので、やっと怯えずにすんでいるようだ。三人もいる虎の種を出し抜いてまでアレナフィルに喧嘩を売ることのできる者がどこにいるというのか。


(ヴェインとフィルとをくっつけさせようと、動いている奴は動いているからな。このままいけば、あいつもどうにか解放されるだろ。・・・そこまで惚れこまれたならそれでいいだろうに、あいつも色々と屈折してるからなぁ)


 余計に、そこまで男達を侍らせている少女は何なのだと言われているようだが、私の娘だということでそこは押しきっていた。

 私の悪評も増えているが、そこは気にするまい。

 エインレイドのガールフレンドを横取りしようとしているガルディアスの行動も噂になっていて、それはガルディアス本人が流させた噂だろうと私は見ていた。

 ガルディアスは今の内にエインレイドの足を引っ張りそうな存在をあぶり出しているのだ。うちの娘を使って。


(許せ、フィル。だけどお前、美味しい店だの路面移動車で行けない場所だの連れてってもらってご機嫌だからいいよな)


 うちの娘の幸せはとても分かりやすい。だからあっけなく釣られているのだろう。

 あの三人はその気になればエスコートなど完璧にできるし、見栄えもいいから、アレナフィルの保護者同伴デートのおしゃれにも根性が入っていた。小さな淑女として負けたくないらしい。

 だけど本気でライバルとして貴族令嬢の恨みを買いたくないので子供っぽさを前面に押し出すというせせこましさを可愛いと思うべきなのか、無駄な努力と思うべきなのか。


(男は社会に出てからが勝負だと言いながら、フィルは口先だけなところがある。結局どういう男を選ぶやらだ)


 外国のハードな恋愛小説にのめりこみ、父と叔父という結ばれることなどあり得ない存在を恋人代わりにして恋愛感情のおいしいところだけを味わっているアレナフィルは、ロマンス感情の美食家だ。

 アレナフィルの部屋には私やレミジェスのセクシーフォトとやらが幾つも飾られている。

 勿論、家族と一緒に笑っているおめかしフォトもあるのだが、趣味に特化した私達のフォトは、

「いい男を見るのは大事。だって女はそれでドキドキしながら更にいい女になるんだもん」

とかいう理由だ。

 そんなフォトを撮る為に、濡れた肌にシャツを羽織らされたレミジェスには心から同情する。

 うちの娘のような趣味に走る女の子は少ないだろうが、ほとんどの貴族令嬢は持ち物や教育にも金をかけられ、礼儀正しい令息令嬢と付き合い、自分を大切に扱ってくる使用人に囲まれて育つので、異性を見る目が肥えていること自体はどこも似たり寄ったりだろう。

 蝶よ花よと愛されて育つのはアレナフィルだけではない。

 だが、よほどの良縁に恵まれない限り、ほとんどの令息令嬢も結婚の際には妥協を迫られる。

 どんなに容姿や性格が優れている相手でも、爵位を継がない者同士の婚姻であれば実家程の金銭など使えない立場になるし、場合によっては金策の為に実家へ頭を下げることもあり得る。学生時代には身分的に侮っていた女友達の方がいい家に嫁いだりもするのだ。

 それならば爵位を継ぐ子息と結婚すればいいのだろうが、跡取りとして育てられた子供は家の中では暴君であることが多い。配偶者には従順さと、連れ回して自慢できる美貌とを要求する。

 勿論、それはその家が権勢を誇っている場合のことであって、いくら爵位を継ぐ本家であろうと貧乏であれば妥協して金銭援助目当ての結婚をしなくてはならない。

 だからこそ婚姻の際、今まで結婚に夢を見ていた令息令嬢達は、

「現実を見なさい。お前にそれだけ相手に注文をつけられるだけの価値があるのか?」

と、冷や水をかけられることになるのだ。


(フィルは現実を見すぎている上でアレだしな。しかもうちの子は行動の面白さとよく分からん理由で執着されてるときた)


 理想の恋人や結婚相手は父や叔父だと垂れ流しているアレナフィルは、自分を誰よりも大切にしてくれる男じゃないと承知しない我が儘娘だ。それでいてそんな男はいないと割りきり、自分一人で生きていける手段を考えている。

 ファレンディア国人だった時は美人だったという話だが、それでどうしてああいう性格と思考になるのか。

 そこが不思議だが、わざわざ人のかさぶたを掻き毟る趣味はない。だから知らないフリで何を聞くこともなく、私はただアレナフィルを甘やかしていた。


『ねえ、パピー。ダヴィんちね、従姉のね、ローゼリアンネさん。招待状で迷惑かけたからって、一泊三食、全身美容サービス付き宿泊チケット、20枚くれた』

『ああ、出資して新しく作ったとかいう施設だろう。室内運動やプールもあるという話だったな。クラブのメンバーで行ったらどうだ?』

『うーん。パピー、あのね、男の子はね、全身脱毛とか全身マッサージ、多分、興味ない』


 駄目な父親だなという目で見てくるアレナフィルだが、意見を言わなければ言わないで拗ねるのだから私とて何でもいいから言ってみるものだ。


『それなら女の子の友達と行けばいいだろう。レミジェスに頼めば、親御さんの了解も得てくれる筈だ』

『うーん。あのね、パピー。チケット、レン兄様のとこ、あげちゃ駄目?』

『別にお前がもらったものだ。お前の好きにすればいい。直営じゃなくて出資だから、グランルンド伯も気を悪くすることはない。だけど何かの際にお礼を言う必要はあるから、レミジェスに報告だけはしておくんだよ』

『ん。そしたらね、ティナ姉様あげるの』

『喜ぶんじゃないか? この間もフィルを妹に欲しいとか、うちの子に欲しいとか熱く語ってたぞ』

『そーなの。フィル、姉様とね、お揃いのお洋服、今度買いに行くの』

『そうか。バーレンの嫁がお前に優しい人で良かったよ』


 アレナフィルは楽しそうに自分のしたいことを披露してくる。

 我が家の小さな女主人として自分なりの判断を下しながら、ちゃんと私やレミジェスに相談もしてくるので何を心配することもなかった。


(どうせ私に理想的な父親などできる筈もない。だからこれでいいんだろう。二人のことを見ていれば、父上も私への罪悪感を持たずにすむ)


 レミジェスに相談させておけば、父もそれを聞いて動いてくれる。祖父としてはアレナフィルから直接相談されてしまえば生真面目に対応しなくてはならない。だから素知らぬフリでレミジェスから話を聞き、こっそりと手助けするスタンスを父は気に入っているようだった。


『そーなの。フィル、レン兄様の浮気相手、思われたらどーしよって思ってたけど、姉様、そーゆーこと考えないし』

『フィルのやってることは誰がどう見てもただの家政婦だからな』

『そんな気はしてた。フィル、都合のいい女・・・』

『さあ、もうおやすみ。よその家政婦なんぞしなくていいんだ。お前は我が家のお姫様だからね』

『うふふ。おやすみなさい、パピー』

『ああ、いい夢を』


 悪夢にうなされるリンデリーナに大丈夫だと囁きながら抱きしめて眠っていた頃のように。

 泣き虫だった小さなアレナフィルがぐずるのをこの腕の中でよしよしと眠らせていた頃のように。

 抱き上げて頬にキスして、抱きしめて愛していると囁いて、大変大変と騒ぎ立てる賑やかな表情に目を細めながらそのお喋りを聞く。

 いつか愛する男を見つける日まで、私の腕の中で眠らせながら。




― ☆ ― ★ ― ◇ ― ★ ― ☆ ―




 私とて常に不在にしているわけではない。ちゃんと王城で勤務していたりもする。そして本来の業務はフォリ中尉に一任しているので、遠慮なく他の仕事をこなしていた。

 仕事は程々がいい。なんでもかんでも詰め込むものじゃない。働き方に改善を求めようと思えば優秀な人材が必要で、色々と難しいものだ。

 それでもしばらくは穏やかな日々を過ごせると思っていたら、このところウェスギニー家が夜会や茶会をほとんど断っていたものだから、昼食時など食堂で声をかけられることが増えていた。


「ここ、よろしいでしょうか?」

「どうぞ?」


 面倒だから毎日違う食堂や飲食店、もしくは買った物を適当なベンチに腰かけて食べていたのだが、根性を入れて追跡してくる者もいる。

 そこまで気合いを入れてくるとなれば、もう話を聞いて追い払った方がいい。

 王城にある食堂は人が多くて、だから誰もが周囲に無関心だ。

 挽き肉を包んで茹であげたものを具にしたスープはかなりボリュームがあるのだが、そこへ大きめ野菜を割り増しで入れてもらったものを私は食べていた。

 食べる量を簡単に調節できるので、食堂でもたっぷり作るのだ。玉葱入りパンを選んだのは娘の影響かもしれない。


「ありがとうございます」


 向かい側に座った女性は、野菜とキノコにベーコン、ナッツをチーズやクリームと一緒に焼き上げたタルトにサラダを添えたプレート、そしてアイスティーのコップが載ったトレイをテーブルに置いた。

 ベージュブラウンの髪を緩くまとめ、焦げ茶色のスーツを着ていたものだから、エメラルドグリーンの瞳がとても印象的だ。華やかな正装ではなく、王城へ用事があって来たような服装を心がけたのだと分かる。


「少佐は軍服もお似合いですが、そうしていらっしゃるとまさに清楚な貴婦人ですね。本日はご家族への差し入れか何かですか?」

「・・・覚えておいででしたか。私のことなどご存じないかと思っておりました」

「ドルロン基地が誇る花を知らぬ男はいませんよ。ミルクティーを思わせるその髪の色で、あなたがコーヒーが苦手だというのを覚えたと、かつてそんな話をオーバリ中尉から聞いたこともありました。コーヒーもミルクを入れたら似たような味だろうにと、あいつはコーヒーと茶の区別もつかなかったようですがね」

「そんなこと、大佐には話してたんですね」

「上官の好みを覚えるというのが苦手だとこぼしてたから、他の奴がそう教えたのだったと思いましたよ」


 悲しそうに笑うその顔からは、ボーデヴェインに結婚を迫ったという押しの強さは感じられなかった。

 私自身は彼女に対して思う所はない。どちらかというと、もう少し男心について知るべきだったとは思うが、そればかりは他人が口出しすることではなかった。


「大佐は、・・・ご存じでいらっしゃるんですよね? 私が、オーバリ中尉に結婚を迫っていたこと」

「知りませんでしたが、あなたが私の前に座ったことで知ったところです。他にもテーブルは空いているのに、私の前に座るというのは語りたいことがあるという意味で、今まで私達の間に接点はありませんでしたからね」


 この若さで少佐というのは、もうそろそろ軍を辞めなくてはならないということだ。軍には「結婚して辞めてくれることを前提の出世コース」というものがある。

 軍における階級は、様々な事情により成り立っていた。


「お願いです、大佐。私には彼しかいないんです。彼を、取り上げないでください」


 トレイに載ったプレートに手をつけることなく、そのエメラルドグリーンの瞳が潤み、ぽたりと雫が落ちる。

 勘弁してくれ。これはまさに私が泣かせている図なのか?


(もてあそんだ女にここまで乗りこんでこられて、泣かせても放置していたという私の噂が出回るんだろうな)


 けれども私は慌てることなく、スープを口に運んだ。パンをちぎって咀嚼する。

 私が慌てふためく女の涙は、顔を真っ赤にして鼻水ぐしゃぐしゃで抱きついてくる小さなアレナフィルだけだ。あの子達が生まれて、私は振り回されるという本当の意味を知った。


『えーっと、そろそろ行こうか』

『そ、そうね』

『たしか昼からお客様が・・・』


 隣のテーブルにいた人達がそそくさと立ち上がっていなくなる。反対に少し離れたテーブルからは聞き耳を立てている気配があった。

 うっうっと嗚咽する小さな響きが静寂の中を流れていく。

 小さなハンカチを取り出した彼女は、そこで私が食べ続けていることに気づいた。少し涙が引っ込んだのか、動きが止まる。

 フルーツと湯通しした人参と軽く炒めたレタスをヴィネガーやオイルなどとあえたサラダは、娘が私の健康がどうのこうのとうるさいので食べるようにしているものだ。

 

「あ、あの・・・」

「何か? どうやら少佐は錯乱しているようだから、私が部下の男に手を出しているという言いがかりは聞かなかったことにしておこう。

 上官が部下にその立場を利用して性的な行為を強要することがあってはならない。

 たしかにオーバリ中尉は臨時的に私の指揮下にあるが、互いに恋愛感情などないし、誤解されるような行動をとった覚えもない。私は今まで一度として部下に迫ったことなどないのだがね?」

「ちっ、違いますっ。私はっ、大佐のお嬢さんにっ、彼に手を出さないでほしいと・・・っ」


 皮肉が通じたのか、彼女の顔が赤く染まる。


「余計にひどい言いがかりと侮辱だ。うちの娘は幼年学校を卒業して上等学校に通い始めたばかりの一年生だ。仲のいいお友達ができるといいねと、家族にご挨拶の練習を見てもらっていた子供が、酒場に行く度に違う女を口説き落として夜の闇に消えているようなオーバリ中尉にどうやって手を出すんだ?」

「だってあのフォト・・・!」


 見たのかと、私は思った。

 娘よ、お前が双子の兄と撮らせたフォトはかなりの効果だったらしい。

 いざという時の名誉の為、あの一部始終を録画していたレミジェスだが、そのコピーをガルディアスが持っていったとも聞いている。いざという時には娘の名誉を守ってくれると信じておこう。


「26才のオーバリ中尉とうちの13才の娘がどういう関係にせよ、一般常識的に手を出すなと言われるべきはどちらだ? 勿論、年の差がある婚約など珍しくもない。その場合、成人するまでは手を出さないのが年長者の立場だ。

 たしかにうちの子は誕生日に大きなぬいぐるみをくれるオーバリ中尉が大好きだが、そんな彼の行動が気に入らないという君は、一体どういう立場でものを言っている?」


 食事をしながら聞き耳を立てていた他のテーブルから失笑が漏れた。


「そんなことありませんっ。ごまかさないでくださいっ。大佐のお嬢様はっ、その年で殿方を手玉に取っていると噂になっておりますっ。それなら彼ぐらい、いいじゃないですかっ。ガルディアス様ばかりかネトシル家のグラスフォリオン様まで手玉に取るようなお嬢様ならっ」

「うちの娘が手玉に取る? どうやって?」

「え?」


 さすがに聞き逃せない言葉がある。出されたその名前に、周囲も息を呑んでいた。


「平日には学校で授業を受け、休日は家で過ごすか、保護者同伴での外出しか許されず、口紅すら塗ることを知らぬ子供が、美しく装った身分の高い女性に囲まれ、恋の相手にも不自由することなく社会で様々な経験を積んでいる成人男性達をどうやって手玉に取ることができるんだ? そんなテクニックがあるなら、是非知りたいね」

「そ、それは・・・」

「うちの娘が休日に彼等と出かけたことがあるのは事実だが、それは祖父母同伴だ。祖父母と手を繋いでお出かけする子供を微笑ましく見守っていた成人男性がいたとして、君はそこに劣情があったと主張したいわけか?

 その場合、咎められるのは祖父母と手を繋いでいた子供か? それとも見守っていた成人男性か?

 そして君は成人男性が子供にお菓子を買ってあげてるだなんて手玉に取られている証拠だと、子供の父親の所へ乗りこんできたわけだが」

「し、失礼しました。そんなつもりでは・・・」


 分かってはいるのだ。彼女はもうボーデヴェインしか見えていない。

 彼を逃がしたくないという思いが強すぎて周囲が見えなくなっているだけなのだと。


「同じテーブルで未成年の子供と食事や茶をしただけで手玉に取られているような情けない軍人がいる方が、この国の悲劇だ。そうなると公の場における茶会すらいかがわしいことになる。君の主張は誰もが呆れかえる内容だと、まだ理解はできているか?」

「そっ、そうかもしれませんがっ、可愛い女の子なら誘惑もされるじゃないですかっ」

「保護者と仲良くお喋りしている子供を見ているだけで、成人男性が誘惑されるのか? 変態だな。そうなると全ての少女は人前に出してはいけないことになる。成人した女性ならばなおさらだ。君も今、私を誘惑していることになるが、その矛盾には気づいているか?」

「それは・・・」


 少し離れたテーブルからは、フラれた理由を無関係な子供にぶつけているのかと、冷ややかな視線が向けられ始めていた。

 今の彼女にそれを知覚する余裕はないだろう。


「そこまで子供に対して異常な感性を持つ三人とは知らなかった。是非、あの三人には子供を近づけないようにと、しかるべきところへ告発したまえ。そうなれば私も考えよう。

 他の子供達が被害に遭っても大変だ。

 それで、子供に対する異常な感性だと見抜いた理由は何だ? まさか被害者もいない決めつけで言っているわけではあるまい?

 我々は職務上、子供を保護することもあるが、それが劣情ゆえだと言われてしまえば何もできなくなる。子供の頭を撫でるのも、いい子だなとお菓子をあげるのも、全て誘惑された為だと、君は主張しているわけだ」

「そんなつもりでは・・・」

「そうだな。孤児院への公的な慰問すら君にかかるといいように利用されているということになる」


 あの三人にしても、気に入ったアレナフィルを自分のものにしたい気持ちはあるだろうが、今の時点ではツンツンつついて遊びたいだけだ。蝶の種の印が出る前と出た後との違いを知りたいとばかりに、好奇心が先行している。

 可愛がる気持ちはあっても、子供相手に対等な恋を望むほど、彼らも非常識ではなかった。

 同時に子供にしてはおかしい感性と思考に、彼らはとても興味津々だ。


「す、すみません。そんなつもりではありませんでした。口が滑っただけなのです。どうかご容赦ください。全ての発言を取り消します」

「当たり前だ。君こそが精神科への受診を勧められる内容だった」


 どうにかその言葉を引き出せたことに私もほっとする。場合によってはとんでもない侮辱として、大事になりかねない内容だった。

 二人きりにならないように細心の注意を払っているのはガルディアスやグラスフォリオンの方なのだから。


「だけど、だけど私には・・・。私には彼しか・・・」


 やはりそこに戻るのか。涙に訴える女が、私は嫌いだ。悲しみは自分のものであって、他人に何かを強要する為の道具ではない。

 恐らくガルディアスやグラスフォリオンが目当ての令嬢やその家が、ボーデヴェインをうちの娘とくっつけるべく動いているのだろう。

 誰も目をつけていない男相手ならば彼女の家の力でどうにでもなるが、複数の家が動けばそうもいかない。


「うちの娘が私にとって世界で一番可愛い娘であることは否定しないが、私に文句を言わず、妹のように可愛がりたがる男達の方を止めればいいだろう。

 手を出すというのは、誰にも邪魔されない二人きりの時間を過ごすことが必要不可欠だが、彼らは酒も飲めず、健全な時間帯と場所にしか出かけられず、保護者の見守る中での頬へのキスまでしか許されない子供を家族同伴で連れ出しているだけだぞ。それで君から誘惑されているのだと決めつけられている。

 君はあまりにも男という存在を知らないようだ」

「そっ、それは詭弁ですっ。まだ印も出ていない子供があれだけの虎の種の印が出た人達を惑わせてる方がおかしいと思わないんですかっ」

「全く思わん。印も出ていない子供に惑わされる男がいてたまるか。

 何かというと恋愛感情を押しつけてくる女性に辟易している男達が、優しいお兄さんと楽しくお喋りしているつもりの子供を可愛がったところで何が不思議だ。不満ならば、それこそ虎の印にも身分にも頓着しない女性になって出直すんだな」


 食べ終わった私は、椅子から立ち上がった。見上げてくる彼女のプレートはまだほとんどが残っている。


「ディバレー少佐。虎の種の印を持つ男は、こそこそ小細工をする女性を嫌う。いい年して弱く幼い子供を攻撃するような女性に、虎の種の印を持つ男が好意を持つことはない。

 その証拠に、うちの娘の名誉の為にも帰りは遅くならないようにと、くどくどと注意するような口うるさいうちの使用人女性への好感度は彼らの中でかなり上昇中だ。娘を連れ出す際にはいつも花束を渡して行き先も告げておく程度にはな」

「で、ではっ、その使用人こそが・・・!?」

「その使用人は孫もいる既婚者だ。君はどうも男は下半身しかついていない生き物だと思っているようだが、考える頭脳もないといった扱いをされた男が、そういう独善的な女に対して好意を持つと本気で思っているのか? だから、大人の男とは自分にお菓子を買ってくれる人だと思っているような子供に負けるんだ」


 あまり恥をかかせたいわけではなかったが、誰もが耳を大きくして聞き入っていた。


「お、お待ちくださいっ。まだ話はっ」

「私にも予定はあるし、食事中に向かいに座っただけのことだろう。何より君は私と娘ばかりか、妄想で関係者全員を侮辱している有り様だ。

 色ボケした頭をまず冷やしなさい。公的な場であったならただじゃすまない内容だったぞ」


 父も若く見える方だが、私もそこは父に似たのかもしれない。40近い年になってまだ30前に見られる私こそ、最初は彼女と痴話喧嘩でもしているのかと思われていたことだろう。優しい言葉をかけるわけにはいかなかった。


(ヴェインに対するやり方を間違えたのだ。勝手に出世させるなどといったあいつのプライドをへし折るような真似などせず、普通にしていればあいつから口説くこともあっただろうに。

 だが、焦っていた気持ちも分からないわけではない。虎の種の印をもった男を捕まえて、子供にそれを出させろという家族からの抑圧も凄かっただろう)


 貴族の家は、家の為になる結婚を娘に望む。美貌でも頭脳でも肉体でもより良い遺伝子を組み込むか、財産や地位をもたらす縁組でないと評価されない。

 ボーデヴェインはあれで寂しがりやなところがある。噛み合ってさえいればいい恋人関係になれただろうに、彼女の焦りがとんでもない暴走を引き起こし、ボーデヴェインと生まれかけていた縁を自分で切断してしまった。


(高嶺の花であるべき貴族出身の女上司を口説くだなんてシチュエーション、あいつの好みドンピシャだからな。だが、先にあちらがのぼせあがって貢がれてしまっては興ざめどころじゃない。あいつにとっては自分の男としての価値を否定されたものだった)


 自分の価値はその虎の種の印だけかと、ボーデヴェインのプライドを完膚なきまでに潰したことを彼女が理解する日はくるのだろうか。乗り越えられないコンプレックスを彼女は踏みつけてしまった。

 尊敬できる女上司でいてくれたならボーデヴェインは堂々と口説いただろうに、彼女がやったことは地位と権力を使った男の囲い込みだった。


(容姿だけならヴェインの好みだったんだがなぁ。性格か。性格じゃどうしようもないか)


 さめざめと泣くだけの女に興味など抱けないのだ。嫌がるアレナフィルを追いかけて抱きしめてご機嫌だったように、爪を立てて嫌がっている女を手に入れてこそ楽しいのがボーデヴェインだった。

 そして種の印を評価されることを誰もが喜ぶわけではない。

 虎の種の印が出たことを受け入れ、それもまた自分のウリだと考えた上で女を選んでいたグラスフォリオン。彼は何故かいきなりアレナフィルにはまってしまったが、学校がある日の朝はアレンルードと体を動かしているとか。アレナフィルを気に入っている割にアレンルードをかまいまくりだ。

 一体彼らはどこへ流れ着くのだろう。


(所詮あいつら、まだまだ結婚なんて考えられないんだよな。自分を伸ばそうと思ったら結婚なんてしてられない)


 そんな私は、グラスフォリオンが超熟女好みなのか少女好みなのか、そこが未だによく分からずにいるのだが、理解できる日は来るのだろうか。

 半曜日だとエイルマーサに数輪の花を、そしてアレナフィルにはお菓子の小箱を渡しては誘い出すグラスフォリオン。三本や五本程度の花なのでエイルマーサもにこにことしたものだ。


『将を射んと欲すれば先ず馬を射よといった意味合いなら、高いお花をくださると思いますもの。不器用で、だけど優しいところが素敵じゃありませんか。ルード坊ちゃまも懐いておられるようですし、お一人暮らしならたまにはお食事にも招いてさしあげたらいかがです?』

『レミジェスがやってるだろう』

『まあ、レミジェス様が? でしたらやはり本命でいらっしゃるのかしら。フィルお嬢ちゃまは可愛らしいですもの。やはり頼りになりそうな年上の方がいいですわよね。そりゃ同じクラブの男の子達も素敵ですけど』


 花を綺麗に咲かせる為、早めに切る蕾もある。王城や学校の庭師と仲がいいからもらった花を差し出し、

「寝る為だけの部屋に花を飾る習慣なんてないんです。よかったらもらってください」

と、新聞紙で雑に包んだ状態で渡されれば、エイルマーサもお礼に気を遣う必要がない。無駄なく花も愛でられていた。

 

(本当に庭師からもらったものかどうかは怪しいがな。そのあたり、あいつは要領がいい)


 相手が負担にならない程度を見極めるしたたかさは評価もできる。

 用務員と生徒なので校内で顔を合わせても知らんぷりしているグラスフォリオンとアレナフィルだが、アレナフィルはそれを寂しく思う神経の持ち合わせがない子だ。学校では目を合わせもしない冷淡さと休日の甘えっぷりとのギャップにはまったのだろうか。

 近衛隊に所属している彼ならいずれアレナフィルの婿にいいのではないかという意見がローグスロッドやエイルマーサからも生まれている。

 父や弟はアレナフィルの気持ちが定まるまではと思っているようだが、肝心のアレナフィルは結婚を見据えた恋愛関係など考えられないようだ。

 そしてアレンルードも馬鹿ではない。このままいくとグラスフォリオン、もしくはクラブメンバーの伯爵家の息子あたりといずれ婚約するのだろうかと、もやもやしている。さすがにガルディアスはあまりにも大物すぎるからあり得ないと感じているのだろう。

 だが、子爵家の跡継ぎという立場を捨ててリンデリーナを選んだ私だからこそ、ガルディアスがアレナフィルを望む可能性は高いと見ていた。


(あんな餌を放り投げてくれたおかげでエインレイド様があそこまで怯える羽目になったわけだが、近くで支えるスタンスをもキープしていた。男子寮という閉鎖空間でどこまで教え込んでいるやらだ)


 何かとアレナフィルは身分がどうだのこうだのと叫んでいるが、ガルディアスにしてもエインレイドにしても身分の高い人達に囲まれて生まれ育っているのだ。だから今更、そんなありふれたものに価値を見出さない。

 その上で身分というものの大切さを知っているガルディアスは、アレナフィルの淑女教育に王宮の女官を手配してきた。王女が降嫁してしまって存在感のなくなっていた礼儀作法担当女官にしてみれば腕の見せ所だっただろうが、王妃まで乗りこんできたなら誤解も加速する。

 王妃は別にうちのウサギ娘を妃にするつもりなどなく、息子の友達作りや珍しい社会体験や試験勉強対策に協力的だったアレナフィルをいい子だと思い、その礼代わりの行動だっただけなのに。




― ◇ – ★ – ◇ ―




 私は王子エインレイドの国立サルートス上等学校生活における警備状況などを、国王陛下に報告する係だ。他にもそれなりの仕事を押しつけられている。

 だから王宮勤務となっているのだが、おまけ仕事はとっくによそへ振り分けた。そして国王への報告も警備棟のそれを男子寮経由で国王陛下に直接報告するように整えておいた。鸚鵡(オウム)じゃあるまいし、かったるい仕事で拘束されても意味がない。

 不在にしていても書類上は王城で仕事していたことになっている私の給料はそのまま支払われる。更に特別任務分も加算される。そういう意味ではかなり稼いでいる。しかし使う金額も大きいので結局は安月給だとたまにじっと手を見てしまう。

 そして私は国王と二人きりだった。


「取り引きに関与していたなら今後その影響も出てくることでしょう。これで大人しくなるなら見逃してやるべきかと存じますので、五年程は監視いたします」

「なるほど」

「この成果はいずれデロード大臣が持ちこむ予定となっております。今しばらくは陛下も枕を高くしてお眠りいただけましょう」

「分かった。今日は別邸へ帰宅するのか、子爵?」

「いいえ、連絡が入っておりましたので子爵家へ戻ります」

「子爵邸で暮らしているならともかく、アレナフィル嬢は別宅住まい。使用人も通いだけとは心配にならんのか、子爵。腹心の侍女も必要であろう。私よりも子供と接する時間が少ないではないか」

「一番危険なのは人間でございます、陛下。一人でいる娘を誰が傷つけられましょうか。人間こそが暴力や薬物や道具、更には奸計を用いて人を害するのでございます」


 肝心の国王から「こいつ、実は仕事してないんじゃないか」な疑いをはさまれないよう、私もよそで仕上げてきた任務の幾つかをちょこちょこ報告していたが、それよりも国王は私の子育て方法が気になったらしい。

 実はかなり信頼されていたのか。仕事を怠けている疑いは最初から抱かれていなかったようだ。


「その通りだ。だが、親が無関心だった子は寂しい心を埋められない大人に育つという。せめて少しは愛情と関心を向けてやった方がよくないか?」

「はい。親戚の者を家政婦にしたのもそれがございました。実の子のように愛し、いけないことをしたら叱り、頑張れば褒める夫婦でしたので、子供達も寂しさを覚えずに育つことができました。私も子供達が程よく食べて程よく眠り、程よく遊んで程よく勉強し、つつがなく過ごしているならそれで十分でございます」

「・・・そうか。家政婦ではなく乳母のようなものであったか」

「はい」

「それでも我が子の成長を見逃すことが多いのは辛かろう。聞けばアレナフィル嬢、疲れて帰ってくる父親の為にコーヒーを淹れることを覚えたというではないか。エリーも様々な淹れ方があることに驚いておった」


 国王が国の隅々まで把握していなくても地域に長を置き、政策や施策も関連部署に任せることで国全体を管理し、取りこぼしがないようにしているのと一緒だ。私もまた弟に子供達のことを任せることで子育てを完璧に行っている。

 それなのに国王は私が王城に戻る度、嬉々として子供達のことを語るようになった。いつも皆から報告を受けては決定する立場だから、教えてあげる立場が新鮮なのだろうか。


(苦くて飲めないコーヒーの淹れ方をアレコレ知っている理由を問われて思いついた言い訳がそれなのか、娘よ。私は都合のいい男なのか?)


 本来、王族の城下町体験は真面目な施設見学や散策などがメインだ。市場での値切り方や移動路面車の乗り方、そして買い食い指南という項目は存在しない。

 ましてや友達がまとめ買いした物の荷物持ちなど、護衛の士官達ですら(もっ)ての(ほか)レベルだっただろう。

 ただのにおいに釣られた屋台での買い食いを、

「あのね、レイド。屋台の物価や具材でも景気が分かっちゃうんですよ。景気が悪いと具の種類を減らしてカサ増しするんです。だけど屋台だって材料費をケチって儲けを大きくしたいから、美味しい屋台を見つけることも大事です」

と、アレナフィルは正当化した。

 第二王子エインレイドやクラブメンバー達は、同じような物を自分で作ったら材料費がいくらなのか、そこはどういう材料を使うことで儲けを大きくするのか、まとめ買いしてきた食品の単価を割り出して教えてくるアレナフィルに圧倒されたらしい。

 遭難する場合は特に現地調達する方法が大事で、安全に眠る場所と食べ物と清潔な衣類の確保を考えねばならないと唱えてくるアレナフィルに、クラブメンバーも安くお腹を満たす方法の大切さを学んだらしい。

 そして興奮冷めやらぬエインレイドはそれを両親にも話した。


『ふむ。さすがは子爵の娘だ。どこの国に行ってもたくましく生きていけそうだな』

『エリーったら一気に賢くなってしまってどうしましょう。製粉具合や種類の見分け方まで教わってきちゃっただなんて』


 国王夫妻は息子が荷物持ちさせられた屈辱よりも、その成果を評価したのである。

 同じ味なら安い方がいいと、小鰯のオイル漬けを買う時もその値段を見せながら説明したアレナフィルのおかげで、クラブメンバー達は自分達がいつも食べている大きい鰯のオイル漬けが実は小さな鰯よりも倍の値段だと知った。

 警備棟の第2調理室で鰯のオイル漬けを挟んだパンを食べ、生きた倹約を学んだのである。

 娘の庶民っぷりは、お育ちの違い的なカルチャーショックを彼らにもたらした。


「アレナフィル嬢はとても面白い子だな。どこか庭付きの家を借りて潜伏する時、庭で作る野菜は農薬の要らぬ葱や茄子などがいいとエリーに教えていたそうだ。子爵も潜伏する時は葱を育てるのか?」

「・・・一般人を装う時はそれもあるかもしれませんが、考えたこともございません」

「ふむ。アレナフィル嬢はどんな潜伏を考えているのであろうな」

「怪盗ロデンセンでしょうか」

「あれは勝手に屋根裏に潜んでいる怪盗だったと思ったが、勝手に庭先で野菜を育てていることもあるかもしれんな」


 クラブ活動で野菜やハーブを育てながら、そこで肥料の違いまで教わっているエインレイドの行き先が不透明すぎる。

 ガルディアスはそういったことでもアレナフィルを評価しているようだ。

 今や気を回しすぎた女官達の下準備により、うちの娘は王子妃教育を受けているそうだが、どうすればいいのだろう。もうどんな貴族の家にでも嫁げると思えばいいのだろうか。

 アレナフィル以上にガルディアスの興味を掻き立てる令嬢が出てくれればいいのだが。


(あの誕生日会で、アレナフィルは生意気さが可愛いだけの少女ではないと判断された。酔っぱらいの子供だったから見逃されたが、成人していたならどういうことになったやらだ)


 あれでガルディアスは子供に優しい青年だ。多少のことは自分が背負えばいいと思っている。

 だからだろう。エインレイドに対して危害を及ぼすものでないならばと、改めてアレナフィルを問い詰めることなどせずに終わらせた。

 知っていることを全て吐かせればそれなりに役立つであろうアレナフィルを見逃してくれていることを思えば、父としてある程度の妥協をしないわけにもいかない。

 だから休暇中の合宿とやらを許したのだ。

 本当にアレナフィルに蝶の種の印がでるのだろうか。アレナフィルの正体は、ただのうっかりウサギだというのに。



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