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おかしな儀式

作者: yokosa

第147回二代目フリーワンライ

お題:

諸悪の根源

名前を書いたプリン

ものは試し


フリーワンライ企画概要

http://twpf.jp/free1write2

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

 僕の通う高校には、由緒正しいオカルト研究部があった。しかしそれも、折りからの科学思想、あるいはインターネットを中心とした非科学的事象の真相暴露――情け容赦ないネタバレの影響で、僕が入学する何世代か前に途絶えてしまった。

 小学校の時分にあったスピリチュアルブームの影響で、その手の話にどっぷり浸かっていた僕は、なんとか伝統あるオカルト研究部を再興させようと奔走。友人やクラスメイトをおだてて、なだめすかして、つい先日どうにか愛好会の体裁を取り繕うことに成功した。

 図書館の書庫から代々伝わるオカルト研究ノートを発掘し、記念すべき第一回活動として降霊儀式をしようとしたのだが……

「なあ、まだ始まんねーの?」

 何が興味を引いたのか知らないけれど、調子乗りの悪友が一人同席している。名義貸しだけでよかったのに。神聖な儀式を粛々と行うつもりが、横から茶々入れるバカのせいで雰囲気だいなし。

 触媒やら何やら、儀式に必要なものは一通り揃えたものの、気が散ってまったく捗らない。研究ノートに従って色々試しても、奇妙な出来事は何一つ起こらなかった。

 ……きっと、この時点でやめておくべきだったんだろう。

 オカルトなんてなかったと笑って、悪友がパーティ感覚で持ち込んだおやつをたいらげて、とっとと帰宅すべきだったのだ。


 *


 え? と思った時には、もう遅かった。

 ふざけた悪友が触媒の代わりに、ものは試しとおやつを片っ端から使って行った儀式。

 西日が入る旧校舎の一室が、突如として暗黒に飲み込まれた。

 異様に重い空気。形容しがたい匂い――たぶん悪臭。冷や汗が全身から噴き出す。

『我を喚んだのはお前達か……』

 地の底から響くような発音。声を聞いているだけなのに、産毛がちりちりと炙られているような気がした。

『願いを言え。どんな望みも魂を代価に叶えてやろう』

“それ”の発する言葉を、僕はただただ悪友と一緒に腰を抜かしながら受け止めた。


 魔法陣の真ん中に鎮座した、ツヤツヤしたクリーム色の質感の――プリン。


“それ”の見た目はプリンでしかない。卵と牛乳でできた口当たりのいい洋菓子。

 いや、こんな超常的な威圧感を発するプリンなんて存在するはずがない。

“それ”は僕らに名乗ったが、まったく理解できない言語だった。ご丁寧にも床になんらかの力で焼き入れし、名前を書いてくれたがさっぱり読めなかった。

『まあよい。とにかく願いを言え。魂さえもらえれば、なんでも叶えてやる』

 プリン。いや、不用意に喚んでしまった本物の悪魔。

 願い、願いってなんだ。いったい何を言えば。

 正直なところ、叶えたい願いなんて一つも思いつかないし、今はただこの異様な状況からとにかく逃げ出したい。ちらりと横を見ると、普段軽い悪友も僕と同じく困惑と恐怖で震えていた。

 悪魔。

 ――怖い。

 願い。

 ――逃げたい。

 代価。

 ――助けて。

 魂。

 ――死にたくない。

 食われる。

 ――プリン。


 *


 気がつくと我を忘れた悪友がプリンを食い尽くし、悪魔の気配はすっかり消え失せていた。

 どうやら僕達は助かったらしい。

 いったい何があったのか。そもそもあれが本当にあった出来事なのか、まったくピンと来ない。

 悪友がなぜあんな素っ頓狂な行動を起こしたのかわからないが、プリンのイメージと魂を食われるイメージがくっついて、咄嗟にやってしまったのかもしれない。もしかすると「逃げたい」、「助かりたい」という思いが「願い」となって、魂ではなく正気を失ったのかも。その後、悪魔が消えたから意識が戻った、とか。

 今となっては知るよしもない。

 ただ…………

 悪ふざけを反省したのか、あれから人が変わったように大人しくなった友人を見ると、別の何かを失ったような気がしてしょうがなかった。



『おかしな儀式』了

 今回何が一番ホラーだったかと言うと、前回の投稿から約三年振りだと気付いたこと。

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