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ちょっくら死んでくる  作者: ひかマヨ
第1章
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死神邂逅

(あれ...痛みも衝撃もない。死ぬときってこんな感じなのか?)


「...くっ」


(ん?なんか聞こえた気がする。いや気のせいか、死んだら無っていうし)


「...ぷっ...くくっ」


(やっぱりなんか聞こえる。怖いんですけど)


「ぶはっ!やっぱり無理無理!なにこの子、あばよ...だって!だっさ!超おなか痛いんですけど!!」


 急に聞こえた大きな声に竜が目を開けると、めちゃくちゃでかい黒い布の塊が波打っていた。


「一応神だから体裁くらい整えようかと思ったけど、笑いがこらえらんないわ!」


 黒い塊がなにか言っているが、竜はそれどころではなくここがどこか辺りを見渡した。

 壁も何もなく、ずっと奥まで続いているような床。見上げればいくつもの幾何学模様が白く輝き辺りを照らしている。そしてこの空間にいるのは自分と黒い塊だけ。


(これって...俗に言う転移ものじゃないか?!)

(まさか、死んだと思ったらこんなこ...

「あばよって...死ぬ時にあばよとか聞いたことないんですけど!!」


「ほんとうるさいな!かぶせてくるなよ!」


 

 黒い塊がずっとプルプルしながら馬鹿にしてくるので、竜も流石にイライラしてきた。


「あぁ、ごめんなさいね。あまりにも笑えたもので」

「もう馬鹿にしないでくれ。ところで、なんでおれはこんなとこにいるんだ?天国とか地獄とかの選別的なやつか?」

「違うわ。あなたは全く別の世界から勇者召喚の対象にされたのよ。それも特別な召喚よ」


 竜は、現実に勇者召喚というものが存在しているとはと驚いた。ましてや自分がそれに選ばれるとは運がいいのか悪いのか。


「ということはあなたは神様なんですか?」

「そう...なんだけどねぇ。君が想像している神様とは少し違うと思うわよ」


 さっきも神と言っているのを耳にしていたので、竜は即座に敬語に変えた。小物感があふれ出ているが黒い塊は特に気にした様子はないようだ。


「あなたを召喚しようとしているのは魔族なのよ。いわゆる悪者よ」

「...えっ」

「そして魔族が信仰しているのが私。神といっても死神よ」

「...えっ?」


 竜は黒い塊の言葉に驚き、思考停止してしまった。黒い塊自体も少し気まずそうにしている。

 二人の間にしばらく沈黙が訪れた。


「あー...ちゃんと説明するわね。あなたが召喚される世界はステータスと呼ばれるものがあり、適正さえあればスキルが獲得できるの。もちろん魔法も使うことが出来るわ。つまり、どんな人でもある程度の力を持つことが出来る。それゆえに争いごとが絶えることはないわ。会話よりも力で屈服させる方が手っ取り早いしね」


「そしてその争いの中心にいるのが人族と魔族。それ以外の種族も多くいるけど争いの大半はこの二つよ。そして争いは、魔族は自らの種族から魔王を選出し、人族は他世界から勇者を召喚して、最終的に生き残った側の方を勝者としているの。ただここ何十年か魔族が負け越しててね。どうにかしようとした結果、人族から勇者召喚の魔法を盗んだのよ」


「その魔法を解析し、人族の信仰する神から魔族の信仰する死神へと変えることで魔族の勇者を召喚しようとしているのよ」


 簡単に言えば、よく聞く勇者召喚の魔族版みたいなものということだろう。

 

「なるほど。つまり、魔族側の勇者として生きていくってことですね」

「そんな感じになるね」


 竜は理解をしたのか数度頷いた。

 しかし


「断ります」

「...えっ?」


 今度は黒い塊が驚く番である。


「確かに退屈で死にたいとは思っていたけど、異世界で続けようとも思わない」

「どうして?一応チート的なものもあげるつもりなのよ?」

「それでも嫌です。正直誰かのために何かをするとか全然やる気ないですし。綺麗に人生終われたのにもう一回とか勘弁してほしいです」


 竜は確かに生きる意味もなく退屈で仕方がなかった。だからと言って異世界で勇者無双できると言われても毛ほどもやる気は出なかった。

 それもそうだろう。竜にやる気があれば、最初から何かに情熱を注いでいて退屈など感じる暇などなかっただろう。


「なるほどねぇ...でもこれは決定事項。というより召喚されるしかないのよ」

「えっ、どうしてですか」

「あなたをここまで連れてきた魔法は魔族が発動したもの。私は呼ぶも返すも、その魔法を使えないわ。適正ないもの」

「んな...」

「ぶっちゃけ私も困ったのよ。こんな空間にこんな格好で呼び出されて」


 そういうと黒い塊は纏っていた布を広げた。この死神の姿は本来の姿ではないらしい。

 死神も竜と同じようにこの空間に転移させられたみたいだ。

 そして想像以上に適正というものは異世界で重要と考えられる。


「そんな...おれはこのまま死んでおきたかった...」

「ふふふ、正確には死んでないわよ。死ぬ直前で召喚されたのよ」

「それじゃあ」

「もう少し早ければあの女の子は死んでたわね」


(あの馬鹿女がどうなろうと知ったこっちゃないが、もう少し遅れていたら楽に死ねたのでは...)


 竜が割と最低なことを考えていると、空に描かれていた幾何学模様が光り始めた。


「あ、そろそろ時間だわ」

「はぁ。じゃもう色々と諦めるんでせめて使えるスキルくれませんか」

「と言われても私、力を授ける系の神じゃないからね。出来るのは私の力をそっくりそのまま付与すること」

「じゃあ死神的な力をくれるってこと?」

「えぇ。けれど、あげられるのは適正だけ。スキル自体をあげる能力はないわ」


 つまり、死神になれる可能性を持つことが出来るということ。しかし、竜はこの行為の欠陥にいち早く気付いた。


「待ってくれ。それじゃあ召喚されたのに無能扱いされるんじゃないか?」

「そうね。適性を見るスキルも存在はするけれど、人間が持っているのは見たことないわ」

「捨てられる未来しか見えないけど?!」

「捨てられても大丈夫よ。本当の意味で死ぬことは出来ないから」


 黒い塊が意味深なことを言った瞬間、竜の体が透け始めた。


「そういえばこの魔法、召喚場所を変更するの忘れてるのよ」

「え、それだと敵の本拠地的な所に召喚されちゃうんじゃ」

「でも安心して!私、術式破壊のスキル持ってるの。だからその部分だけ壊しておいたわ」

「つまり...」

「どこへ召喚されるかは全くのランダムよ。でも大丈夫、どこへ行っても絶対に生きてしまうから」


 その言葉を最後に竜の体は完全に消えた。

死神の術式破壊で召喚魔法自体を壊したら、二人とも永遠にあの空間に取り残されます。

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