ありふれた日常
「あぁ死にたい」
高校三年生になった青木竜は屋上で一人そう呟いた。
学校に行っても心から友人と呼べる人は一人もおらず、一度も会話しない日もざらにある。更に帰宅部がゆえに部活動での交流もなく、毎日家と学校を往復しているだけの退屈な日々を送っていた。
学校が終わり家に帰っても両親は共働きで誰もおらず、ゲームといったものも飽き性の竜には退屈をより感じさせる。放課後は時間を潰すために、学校の屋上で部活動をしている人達の声を聴きながら本を読むのが日課となっていた。
(そりゃイジメとかは受けてないよ?でもなんの為に生きてるのかもわからないし、これから先も今と変わらない人生ならさっさと死にたい)
ただ、周りで楽しそうにしている声を聴きながら一人でいることで、竜の精神を蝕んでいるのだが。
そんな風に自己嫌悪に浸っていると、屋上への扉が開く音がした。
(え、誰だよ?!)
竜は座っていた場所からすぐに立ち上がり、物陰に隠れた。
実は屋上へはいつも無断で入っていて、教師に見つかるとお叱りを受けてしまう。
しかし、いままで誰も来たことはなかったので、高をくくっていた竜はとても焦った。
しかし、物陰からうかがってみると、屋上へ来たのは一人の女子生徒であった。
(よかった、生徒か。でも何しに来たんだ?出来れば早く帰ってほしいけど)
するとその女子生徒は竜に背を向ける形で柵へと一直線で向かっていった。
そして、あろうことか柵を乗り越えてしまった。
(おいおい、まじかよ...自殺?!と、とめ...いや急いで教師呼んでくるか)
竜はそれを見て一瞬自ら止めた方がいいとよぎったが、そこまでの勇気はなかった。
しかし、その行動はすぐに撤回されることとなった。
「どおー!?すごいでしょー!!こんなの余裕よ!!」
(...は?)
柵を越えた女子生徒は下の方を見て叫んでいた。どうやら自殺ではなく、ただの度胸試しとして柵を越えたらしい。これがただのと言ってよいのかは疑問だが。
(まじでびっくりしたわ。とりあえずもう戻れって言いに行くか。問題になって屋上使えなくなるのは嫌だし)
自殺のような重いものでなければ声をかけられる。そんな小心者の竜が声をかけようと、女子生徒の後ろまで来たところでそれは起こった。
ガキンッ!
竜の目の前で柵と一緒に女子生徒が落ちていく。
何が起こったかというと、女子生徒が階下に声を掛ける際に掴まっていた柵の鉄格子が折れたのである。
普段は誰も使わないため、点検がおろそかになっていて錆びついていたのだろう。
竜は何かを考える間もなく、女子生徒へ向けて飛び出していった。
そして何とか腕をつかみ、入れ替わるような形で女子生徒を屋上の方へ放り投げた。
つまり、今度は竜が落ちることとなる。
竜は空を見上げながら落ちていく。
(走馬灯ってやつか。少しゆっくりに感じるな)
(馬鹿なことしたな。ふざけてたやつの代わりに死ぬなんて)
(でも、まぁいいんじゃないか。人生最後に人助けっていう誇れることをしたんだから)
(死にたいという願いも叶う)
(終わりよければすべてよし。おれの人生、一片の悔いなし!)
「あばよ」
竜はそっと目を閉じた。




