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バカボン近侍のヒダリーが抱えた親との確執は果たしてゲームイベントか否か。
また考えるべき事柄が増えたと頭痛の種を脳内の花壇に埋め込みつつ、静けさ漂う廊下を進む。
植え込みの数を考慮すればそろそろ花壇は拡張した方がいいだろうか。
「出来得るなら増設よりも取り壊したいんだけどなァ……」
お悩み花壇を更地に戻すには植えた問題を解決しなければならないのに、芽吹く素振りばかりで刈り取れる収穫の時期が一向に来ないのが困りもの。
ヒロイン・マリエットに関わる諸問題は『学園編』が始まってから本番で手の付けようもないにせよ、ゲームイベントと関係しない厄介事が押し寄せるのは流石に想定外が過ぎた。「わたしってばNPC以下の没キャラじゃない、この世界でちゃんと生きてるわァ!」って感覚は得られるものの、マイナス要素は心から遠慮したいというのにイベントのエンカウント率が高すぎる気がする。
「それともこの世界の貴族は誰もがイベント塗れの生活をしているのかしらん?」
それにしてもこの短期留学は『学園編』に備えた活動がもたらした前述譚の総決算にして極みといえよう。
早めの魔術適正チェックが原因で判明した魔術全属性所有、その延長で教会に目を付けられ、余計な推薦で予想だにしない筆頭公爵家主催の行事に組みこまれる災難。そこにマリエット偵察デビュタントの会場で揉めたバカボン3人衆が加わっているのもおかしな縁である。
故に「隠しルートのキャラなのでは?」疑惑がさらに増してしまったのだが。
不幸中の幸いとも言えるのは、
「伯爵からの召喚は緊張こそすれど、ホーリエ・ブルハルトとの対面に比べればロスタイムみたいなものだわね」
本来なら上役からの予期せぬ呼び出しなどは悪い予感しかしないものだろう。
しかし言葉にすれば失礼な物言いになるのだけど、わたしの立ち向かうロミロマ2のバッドエンドからすれば決して直接繋がる要素ではないのだ。
呼び出しの要件が「派閥の違う貴族に媚びたな!? 裏切者め、死ね!」とでもされなければ安全。
……流石に違うよね?
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会合の場と指定されたフロアは壮行会会場とは打って変わり、不自然なほどに人の気配がない一角だった。筆頭公爵家の主導するイベントが開かれた場所で派閥違いの伯爵家が密かに活動するのだ、人払いの意図が明白で徹底している証とも言える。
(神経質にも思えなくもないけど、伯爵家が遥か格上の筆頭公爵家の行状に探り入れてるんだから慎重すぎることはないかしらん?)
無人の廊下を進み歩くとやがて目的地に到達する。やや豪華な扉の前で身じろぎひとつせず立っている老紳士の姿。隙のないパリッとした立ち姿はセバスティングにも劣らず見惚れるほどで、見覚えはないけどおそらく伯爵家執事のひとり。
「アルリー・チュートル様でございますね」
「ええ、こちらが召喚状になりますが」
「ではどうぞ、お入りください。主がお待ちです」
二通の手紙を示すと老執事は恭しく頭を下げ、扉を開けてくれた。
しかし「あるじ」て大袈裟な言い回しをなさる。
(いや、まさかセトライト伯爵本人が来てるとか? ハハハまさかァ)
たかが小娘の聞き取り調査、尋問に伯爵御自らお出ましになるはずはない。数年前の社交場で起こした「バカボン腕ねじり事件」のように格の高い執事辺りが代行でやってくるのが常識的な措置。
遊び惚ける放蕩貴族でもない限り、地位の有る人間はそれだけ義務を背負って忙しくなる。上級昇格を狙っていると思しき伯爵がこの程度の些事に直接出向く暇など欠片もないだろう。
──だろうけど言い回しが気になったのは事実だ。
(たとえ格上でも執事同士に「主」って表現は使わないわよねェ……)
主人、主上、雇い主。
いずれも同じカテゴリーの等級差、一社員が先輩であろうと少し上の人間に使う表現ではない。明らかな経営者、上役、身分に厳しい貴族社会であれば生殺与奪を握っている・握られている関係で用いられるような言葉だ。
それを伯爵家の執事が言い間違える、はてそんな事実が有り得るか。無いとは言い切れないが非常に確率は低そうで。
(常に最悪のケースを以って当たるべし、そんな心づもりで「セトライト伯爵が直々にやってきた」と想定して行動しておこう)
留学に関するスパイ合戦の兆候もあるのだ、悪い予想を積み上げて平常心の維持に努める。冷静さで第一歩を踏み出すべしと扉向こうに足を運ぶ。
室内の模様は、わたしの理解力で最も近しい認識は執務室、或いは校長室か理事長室といったところに落ち着く。部屋の中央に置かれた来客応対用の長机とソファ、奥に執務用のデスク。
(さて、答え合わせは如何かな)
そろそろと足音立てず室内に入り、入り口付近でまず一礼と口上を述べる。
「お待たせして申し訳ありませンンンン!?」
口を噤んだ、悲鳴は殺したけどハミングが不自然に後を引いた。
否、伯爵がいると最悪を想定したからこの程度で済んだというべきか。
中央のソファでなく執務席にあったのは2人の影。
ひとりは席の横で直立し、パリッとした執事服を纏った黒髪の若い男性。
男性が控えた横の席についていたのは簡素な飾り気ない乗馬服めいたスーツを着た少女が何か書き物をしている。少女の装いがドレスでなく男物に近い恰好なのは一応の変装なのだろうか。
しかし、髪の色が。
黄金を燃やしたような赤金色の髪は、果たして誤魔化す気があるのか無いのか分からない。そこ最大の特徴やん、と身分差が無ければ思い切り指摘したい点だった。
驚きが飽和した心の中でわたしは納得する、ああ成程と。
(これがセバスティングの占った「女難」だったかァ)
伯爵家の紋章に導かれた先には、ゲームで幾度となく見た顔が。
この世界に転生した後にも一度ニアミスを経験した令嬢が優雅に座っていた。
大公家令嬢フェリタドラ・レドヴェニアが。
ドクター・レインの余計な推薦、魔女ホーリエとの邂逅とロミロマ2キャラの関与する山場を越えたと思ったらゲーム最強のライバルヒロインがエンカウントしてくる事態。第一歩が道を踏み外す最悪の予想を斜め上に超えた事態にわたしは誓う。
万が一にも『戦争編』に突入した場合、セバスティングには軍師の他にも運気を読む占術師をお願いしようと。




