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魔術の資質はSランクとA~Dランクに分けられている。
Sは言うまでもなく最高ランク、他に追随を許さない稀有な才能。生まれながらのAランクが研鑽の果てに到達する領域で、いわゆる「天才が努力した結果」に発現される異質存在。超一流の極みである。
逆にDランクは「うん、まあ使えてよかったよね?」と最低限を保証された程度の発露。Cランクが凡才の定義なのでそれ未満。
そして事の優劣に厳しい貴族社会だと「魔術使うの向いてないね」と見下される要因になりがちな評価、それがDランク。
「過去の全属性所有者は才能の塊と言っても良い存在。資質も複数の属性でAランクが当たり前、相応に高いランクを所持していたのが当然とされました。しかし彼女は全ての属性資質がDランク、これは非常に、非常に興味深い結果ですわよ?」
「まるで嬉しくないィ」
重ねての断言に本音が漏れる。
本人を前に「この子ってば才能あるのか無いのか分からんなウワハハ」と酒の肴にされてる気分に毒づいておく。残念ながらサブカルの学者系天才奇才キャラなんてこんなものだ。変人で人の機微に疎いのがデフォルト。
「あえて評するなら『究極の器用貧乏』とでも言うべきかしら、全てを手にしながら何も到達できないという二律背反、全能にして無能、神にして白痴、白にして黒、有りて無きなる陰陽思想の体現者、セシボォン!」
「自分、もう帰っていいッスか」
「ああいやミレディ、ノン、帰らないで。むしろ定期的にこちらに出向いて計測サンプルになって欲しいくらいなのですが如何かしら」
「いやです」
「うーん、誤解しようもない拒否の意思でセドマージュ」
どう考えても態の良いモルモット。
使命を抱えたわたしに魔術の発展云々を建前にした実験に付き合う暇はないのだ。決して成長の見込み薄い分野をこっちから見捨ててやったわけではない。
決してそういうわけではないのだ。
「では失礼しますね」
「ああん待って待ってミレディ」
引き止める声に背を向けて退室しよう、そう視線の先には微妙な、実に微妙な顔をして唇を引き締めた少年達が戸惑いの様子でこちらを見ていた。
うん、まあ、気持ちは分かる。
わたしの魔術資質はDランク、普通なら「やーい無能!」と囃し立てることが出来る能力の無さだ。イチャモンミギーとマシンガントーカーの少女なら容赦なく攻め立ててきても不思議の無い測定結果である。
しかしその一方、王国史上稀なる全属性持ちとの綺羅星な才能をも有してるわけで、彼らとしても妬めばいいのか馬鹿にすればいいのか迷っているのだろう。
とても分かる、我が事のように理解できる。
わたしもどんな顔でこの事実に向き合うのが正解だったのか判断つかない。なのでここは出方に迷う彼らにひとつ行動の指針を与えてあげることにする。
「はい、笑顔で解散」
この一言を契機に意地悪グループは態度保留のまま、チラチラこちらを見ながらのそのそと退室していった。新たな話題もなく口論の再開を望む好戦的人物は居なかったのだ。例の舌先大回転少女も自分から喧嘩を売るタイプでなかったのは幸いだ。
(そういえばわたしがミギーが追い詰めたから参戦してきた風だったっけ)
その辺は少女の「既に嫁ぐ相手のいる悲劇」発言も相まって人間関係の矢印が複雑そうな予感がする。ゴシップの類は別段好きでもないけれど『学園編』で再会する可能性のある人物達のプロファイルは脳に刻んでおく必要はあるのだ。なるべく出会いたくない、しかし伯爵家のコネは狙いたいアンビバレンツ。
「お嬢様、お疲れ様でした」
「うん、本当に疲れた」
出迎えのセバスティングに直球で本音を投げる。紋切りの単なる労いに剛速球でその通りだと応えたわたしに眉をひそめる敏腕執事は何かを察した様子で
「何か面白い結果が出ましたかな、測定結果」
「面白くは無いけどだいたいその通りだわ」
かくして親に通信簿を渡すような心境で測定結果の表を開示する。通信簿と異なり努力の差し挟める要素があまりない代物なのだけど、気分的にはそんなものだ。
全属性所有にオールDランク。はたして執事の採点や如何に。
「……ほう、流石はお嬢様、普通とは無縁ですな」
「どういう意味かなセバスティング」
「いえいえ、ひとかどの人物とは得てしてそのようなもの。たとえ本人の気質がどうあれ、宿命が平凡には浸らせませんが故」
「ひどいことしやがるわね、その宿命って奴」
元が一般高校生のわたし自身はそこまでの上昇志向もなく平凡でも構わないのだ。
構わないのだけど、王国の命運を左右するヒロイン達は平凡とは縁の無い立場。生まれも才能も非凡の極みな上級貴族、或いは先王のご落胤。
そんな彼女達に干渉する以上は平凡で居られない、平凡では相手にされないのが身分制度全開なロミロマ2世界の現実。
「良し悪しの悩みどころォ……」
「それにしても興味深いですな、実に『広く浅く』を体現したような測定結果で」
「『器用貧乏』と言ってもいいのよ」
ドクター・レインが評した『究極の器用貧乏』は的を射た表現だろう。あらゆる魔術を最低限こなせつつ、大成する可能性が無いという。
ゲームでの魔術は『戦争編』で使われることを前提にされた能力、『戦争編』そのものを回避すればそこまで重要でないかもしれないけれど、『学園編』で披露する機会もある。打てる手が狭まるのはやはり嬉しくないものだ。
「いえいえ、そこは物の見方次第でございましょう」
「見方ァ?」
「『創造主があらゆる能力を満遍なく与えてくださった』と前向きに評すべきかと」
「単騎ならともかく団体で活動するなら特化型の方がマシなんだけど──うん?」
(あらゆる能力を?)
──ひとつ思いついた可能性がある。
専門家をして「凸凹」と称したわたしの偏った才能と資質の関係。本来有り得ざるをされた二律背反の理由。
無いはずの必然性を超えて全属性が割り振られた理由。
ひょっとして、そういうのが原因だったのでは、と閃いたことがあったのだ。
ならば確認しておいて損にはなるまい。
「セバスティング、帰宅準備はもう少し待って」
「それは構いませんが、何か用事を?」
「うん、測定が少し」
ついぞ先に退出した測定室に再び入室する。時間にして5分前後、幸いにして目的の人物は未だ計測器具の片付けを手掛けていた。
「ドクター・レイン、少しよろしいでしょうか?」
「あらあら、退場のミレディ。何か忘れ物かしら?」
「先程の提案、定期的な計測サンプルに付き合うって話ですが、条件付きでなら協力してもいいですよ」
眼鏡の向こうでレイン博士は蛇の目を丸くする。
交渉の余地なく切り捨てた提案を手のひら返しで受けると言い出した理由が見当つかないのだろう。
わたしとても思いつき、執事の言葉から閃いた可能性の確認に過ぎない。過度な期待や警戒をされても反応に困る程度のこと。
「それでミレディ、前言を翻すほどの条件とは如何なるものですの?」
「ある意味ドクター・レインの得にもなると思います。わたしの要求は」
魔術属性測定の延長線上にあるもの、と言っても過言ではないのだから。
「調べてみてほしいのです、わたしの『魔法』適正を」




