《紅蓮の魔女と契約者》
転んだ時にイヤホンのジャックがスマホ内で折れてしまった。
ああ、なんて不幸よ。
俺はとにかく、この能力をひた隠しにしてきた。これを知られたら物珍しさで人が集まってしまう。俺はそういうのが嫌いだ。
正式名称は『世界の契約者』《バランサー》と言う。
姉貴から小学生の頃に聞かされた。
とうとう頭がおじゃんになったかと笑ってやったのだが、話していた姉貴の顔は真面目な顔をしていた
その能力はこの白墨家しか持てないらしく、
『世界』から力を借りながら力を契約者に提供する代わり、、その契約者の能力も借りる事ができるらしい。
基本、人間が魔術、魔法を使う際、魔力抵抗というものが発生し、必要量より多く魔力を消費するが、そういった抵抗もゼロにすることも出来るらしい。
とりあえずよくわからない能力だ。
姉貴はこの能力を上手く使い、IPSSで生徒会長という役職まで登り詰めたらしい。
基本あの役職は『IPSS日本支部代表としてふさわしい強さ 』を持つ者しか成れない。
ただ姉貴は魔法適性があったから、他の能力は使わず、ほぼ自らの力で登り詰めた。
大して俺は魔力適正なんてそんなもんはないし
魔法のマの字も知らない。
それにもう1つこの能力には問題があった。
契約者と契約主は絆を築かねばいけない。
要は信頼できない相手だったりすると逆に能力が引き出せなくなる。
そして相手も自身の能力が使えなくなる。
『ふーん....他人に隠さなきゃいけないほどの能力の持ち主ってことね、魔法?それとも魔術?その他かしら。
ねぇ貴方、Aクラスじゃないわよね?という事は学園に虚偽の申告でもしたのかしら』
『クラスはC、俺は強くない。
姉貴が強かっただけだ。』
『そうだな、君の能力はそこまで"君自身が強くなるわけじゃない"からね。』
この人は、俺の能力を完全に見抜いている。
理由は勿論わかっている。
『姉貴から全部聞いてるんですね?貴方は。
なら話は早いです。そのメアリーって人に話してもらって構いませんから、私はここで失礼します。』
良くしてもらっていた、所じゃない。
恐らく彼女は姉と契約していたのだろう。
ここはさっさと去るべきだ。
俺は姉貴の代替わりなどするつもりは無いしそんな事が出来るわけもない。
俺は席を立った。
そんな俺に生徒会長は脅しをかけてくる。
『いいのかい?私は口下手でね、要らないことまで話してしまうかもしれないけれど、その結果君にとって面倒なことになったとしても私は一切責任は持たない、
それにニホンにはこういう言葉もある、』
人の口に戸は立てられない、
生徒会長はこう言っている。
『責任を持て』
と
たしかに話された相手の人と成くらいは知る必要があるかもしれない。
試されているようで癪だがここは席に座っておいた方が良さそうだ。
『結構、休みが終わるまであまり時間もない、ここは巻きで話すとしよう』
彼女は俺よりバランサーについて詳しく知っているらしくその能力の原理、工程、過程、結果を話していた。
が専門知識が全くない俺にとってはさっぱりである。ただメアリーという少女は理解していたようで
『ふーん...面白いわね。で契約の条件とかあるの?』
『契約前の条件は無い。むしろ契約した後の方が....
そうだな、百聞は一見にしかず。今ここで恋君と契約してみたらどうかね?FPSでも先手を打てるだろう』
FPS....
正式名称はFirst Personal Skill Approach Battle
[FPSAB]
長いのでFPSとも呼ばれる。
読んで字のごとく、入学以降に最初に行われるチルドレン達の能力考査の為の競技
2人1組のチーム2組がそれぞれ能力を使って戦う。
個人としての能力だけではなく、自分の力量を把握した上でのパートナーへの支援、相手への手加減、配慮なども査定対象となる。
....まて、聞いていればとんでもない事態になってきているが、冗談だよな?
俺は目の前の少女の事をよく知らないが
──面倒くさくなる前に話を止めなければ
『私の方から遠慮させていただきます。それこそ彼女の足を引きずるだけだ』
とりあえず、建前だけ引っ張り出した。
それに、メアリーとかいう少女はAクラス、まずCクラスの俺と組んでわざわざ不利にはなりたくないだろう。それに評判もある。
プライドの高そうな彼女なら間違いなく上を目指すだろう。
が、彼女の思考は俺の予想の遥斜め上を行っていた
『足でまといがいるくらいで私はFPSABなんて腕試しの試合に負けたりしないわ。
私はヴァルプルギス=フレイムマスターよ?』
予想外の返答が帰ってきた。
唖然とした、そこまで自信があるのか...
『そうね、どうせなら試しましょうよ、貴方が私にふさわしいかどうか。まぁ、確かに普通な奴しかいないからつまらないと思っていたところだったのよ。』
さらに予想外の提案が出された。
『ちょっと待っ──』
俺の言葉はその後に続いた生徒会長の言葉に打ち消され
『ふむ、了解した、時刻は夕刻でいいかね?闘技場の使用許諾は私が貰っておこう』
『久しぶりに面白くなりそうね。手、抜いたら承知しないからね。』
案の定...何やら面倒事になってしまった。
昼を食べ終えた生徒会長は仕事があると、迎えに来た生徒会員に連れられ風のように教室を出ていった。
ご馳走様すら言わせて貰えなかった。
『なんと言うか....ご愁傷さま?』
そう話しかけてきたのは昼休みなのに飯を食わずのんびりしていた男女二人組の男子生徒の方だった。
やっかみか、そう思って無視しようとしたが、
『ご愁傷さま?むしろ光栄じゃない?ヴァルプルギスの1人であるこのメアリー・ファリータと手合わせできるのよ?』
と、この言い草。
溜息をつきながらつい、愚痴を零した。
『ヴァルプルギスとの手合わせなら年一回でしてたよ』
メアリーは一笑に伏した、
『どこにそんな修練に付き合ってくれる暇なヴァルプルギスマスターがいるのかしら?
笑えないジョークは侮辱よ、次からは注意しなさい?
2度目はないわよ』
ジョークでも何でもない
明かすべきかどうか躊躇ったが、嘘つき呼ばわりされるのも癪だった。
『里神理佐、俺の従兄弟の姉貴で、ヴァルプルギス=ドールマスター。ついでにクローン技術の権威』
『2度目はない、って言わなかったかしら?
そんな付け焼き刃の知識で嘘をつくと燃やすわよ?』
『嘘じゃない、この学校にもいるんだ、後で聞いてみればいい。ちなみに一応血液型、年齢、生年月日、スリーサイズ、好きな食べ物嫌いなもん、ある程度答えられるが』
と言ったところで、男子生徒がまた食いついてきた
『さすがに個人情報ベラベラと喋っちゃダメでしょ!?スリーサイズは男として聞いてみたい気はするが....』
話を聞いていた男子生徒が口を突っ込んできた。
後半に関しては嘘くさい。
ニヤニヤした顔は無理して作っている。それに男なら女子の前でそんな事は普通言わない。
無理して誰かと関わる為自分を作っている。
どうやら、俺たちの会話に混ざりたいらしいが...
メアリーもそれに気づいているらしかった
『で?貴方は?私のことは知っているでしょうけれど、私は貴方の名前すら記憶にないわ、』
『僕はルーク、ルーク・アンダーソンって言うんだ。よろしく、メアリーさん、それと...』
またため息をついた。
名乗られたからには名乗るしかなかった。何故俺はこの女に馬鹿らしく付き合っているんだろうか。
『白墨、恋』
『よろしく、...恋でいいかな?』
『別に、好きに呼べばいいだろ』
こういうやつにはめっぽう弱い、無視すればいいだけなんだがそんな簡単なことが出来ない
そんな性分なのだ。
『こっちは妹のミリア、僕らはアメリカから来たんだ。』
2人とも髪の色は紺、瞳は血でも吸ったかのように赤い。
兄の方はポニーテール、妹はショートヘアー....よくある組み合わせだった。
『メアリーさんは分からないかもしれないけれど、...僕のお父さんは君のお父さんの弟子だったんだ』
メアリーの表情が困惑に染まった。
『アメリカのアンダーソン.......そうね、知らないわね』
聞いていただけだったが、急にメアリーの機嫌が悪くなったのが分かった。
彼女は悲しげな瞳をしていた。
そして、午後の授業の予鈴がなった
メアリーが先程とは打って変わって明るく
『さて、解散解散!
午後の準備をしましょう』
と言い出し、この会話は打ち切られた。
とりあえず自分のクラスに戻る為立ち上がって1-Aをあとにする時、後ろから
『今日の放課後!逃げるんじゃないわよ』と言われて、
見透かされてるのかと一瞬戸惑ったのだった。
不定期連載