高校3年の初夏。
俺は早く大人になりたかった。
つまらない日常、キツい部活、出会いのない学校生活、進学したら使わない勉強科目、それら全てに俺は飽き飽きしていた。
何か変わって欲しいと願い、自分では動き出さない。
そんな日常に俺は情けなさを感じて自分が嫌になった。
早く卒業して大学生とかやって普通に友達とか恋人とか作って、普通に人生を謳歌したい。
それが俺の些細な願い。
それが叶えば、何も要らない。
そんな事を考えて高校生活を過ごすのだった。
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今日も春休みだと言うのに部活に入っている高校生は辛い。休日返上もいいところである。
「なぁー泰斗」
同じ陸上競技部の大西 一真が俺に声を掛けてくる。全くあの辛い練習直後だというのに疲れを感じさせないとは、末恐ろしい……。
俺は練習直後で大量に出る汗を自らの服で拭い、一真の方へ顔を向けて返事を返す。
「なん…だよ……、体力バカ…」
俺は荒い息を整えるように深呼吸。
そうしていると、一真はこちらに視線を向けて、
「よくもまあ体力戻ったよな泰斗は」
凄い飽きれがちに言ってきた。
「ここまでタイム差付けといてよくもそんな事が言えたな」
俺は隣の友人に対しようやく戻った息を着く。
「俺は体力に自信があるからな!」
自信が言うように体力があり過ぎて笑えないでいると、
「おーい、そこの2人!早くダウンして来ちゃいなさい!」
と女子生徒が声高くこちらへ言い放つ。
あいつに怒鳴られるのは面倒臭いので、俺らは逃げるようにトラックへ戻っていくのだった。
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「今日も疲れたなー」
隣の一真が俺に話しかける。当の俺自身はイヤホンを付け英語のリスニングをしていたのだが、
「人の話を聞けー!」
一真に右側を取られてしまった。
俺は恨みがましく視線を向けると、
「全く、人の勉強を妨げないでくれないか?」
と応えるが、
「いや、一緒に帰ってんだから少しぐらいいいだろ!?」
と返される。全く面倒なやつである。
「で……なに?」
仕方なく聞いてみるが、
「何だっけな!あははは」
何があはははだ、こっちは受験勉強まっしぐらだってのに。呆れて声も出せずにいると隣から、
「あんた達ほんと仲良いわね…」
と我が陸上競技部マネージャーの大塚 彩が声を掛けてきた。
「待ってくれ、別に仲良く話してたわけじゃ……」
「知ってるわよ、どうせ一真がちょっかい出してるだけでしょ?」
俺の発言に間髪入れず言ってきた。全くもってその通りなので言い返しもしない。
「泰斗のことは大抵お見通しなんだから」
ボソッと呟いたその声に俺は聞こえないふりをしてスマホを開く。
「そろそろ電車くるな」
俺が適当なことを呟くと一真は、
「明日で最後の追い込みだな!」
と、俺へ向けて話かける。
そうだ、もう夏が始まる。俺達高校3年生にとっての最後の大会が始まるのである。
俺はあまり本気で打ち込んでいなかったのでそうか、くらいにしか考えていない。
「もう私たちも引退ね」
彩が唐突に言うと何だか居た堪れない空気が出始める。
大人へ向かっていると考えてみれば嬉しく感じる。
3人揃って無言になると何だか意味もなく寂しいな、そう思っていると、
「何だか意味もなく寂しくなるな!」
一真がこちらを見ずに言い放つ。
少し驚きながら俺も、
「一緒の考えてんじゃねぇよ」
と隣の友人の腕を小突く。
そうする間にも電車が来て帰路につく。
何気ない日常どこか充実しているように見えて………どこか灰色にしか俺は見えなかった。
そうしてまた1日は過ぎていく。
このまま何も起こらず高校生活が終わる、そう俺は思っていた。