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新企画 「大人も子供も楽しめる新しい異世界小説を読ませてください」  作者: みんなの異世界小説・作品集
『童話「こい」とはどんなものかしら』  作:若松ユウ
20/26

 てくてく、ぴょんぴょん。

 小道を歩いていると、だんだんと立ちならぶ木の大きさが大きく、高さも高くなっていき、こもれびがさし込むくらいの明るさになってきました。

 

 すずしくなって歩きやすくなったのはいいことですが、そだちざかりのふたりには、べつのもんだいがありました。

 きっと、これを読んでるよい子ちゃんたちは、もう気がついてることでしょう。

 だって、スーもダンも、がちょうのおくさんからクラッカーをいただいてから、そのあとに、なにも食べていないんですから。


「あぁ~。こんなことなら、にんじんのいっぽんでも、もってくればよかった」

「そうね。どこかに、おいしそうなチモシーがはえてないかしら」


 おなかがぺこぺこで、いまにも背中とくっつきそうなふたりへ、少しはなれた場所に立つブラウスを着たマーモットのお姉さんが、柵ごしに庭先から大きなこえで言いました。


「お~い、そこのぼうやたち。もう少しでパイがやき上がるから、食べていきなさいな」


 まさに、グッドタイミング。

 ダンとスーは、返事をするのもわすれ、わき目もふらずにかけ出しました。

 おぎょうぎよくするためには、まず、まんぷくになるひつようがあるのです。


 それから、しばらく。ゆげが立つほどほかほかだった木いちごのパイは、そのほとんどが、はらぺこふたりのおなかの中へとおさまりました。

 いまは、チェックのクロスがかけられた切りかぶのテーブルの上からは、食べ終わったおさらがかたづけられ、ふたりは、りんごジュースをのんでいます。

 そして、ふたりがコップをおき、ひとここちついたのを見計らって、お姉さんは、ダンの左手首を見ながら言いました。

 

「きょうも、ずいぶんとぼうけんしてきたみたいね。そのハンカチ、スーちゃんのでしょう?」

「えへへ。そうです。ちょっと、ころんじゃって」

「あとで、ちゃんと洗って返してあげなさいよ」

「はぁい」


 ひとさし指でほっぺたを引っかきながら、ダンははにかんで言いました。

 お姉さんは、ういういしいはんのうを見てにっこりとほほえむと、つづいてスーの方を見て言いました。


「ところで。ダンくんとふたりで、きょうは一体、なにをしてあそんでたの?」

「あっ、そうだ。わすれるところだったわ」


 スーは、ダンの足もとにおいてある本をテーブルの上におき、それをお姉さんへと向けながら言いました。


「このほんにでてくることばなんだけど、この『こい』って、なぁに?」

「あら~。よく見たら、この本、ロマンス小説じゃない。どこで見つけたの?」

「パパのおへやにあったのよ。つくえのうえにおいてあったの」

「まぁ、そうだったの」


 マーモットのお姉さんは、こういう本は、子どもが小さいうちは、目にふれないところへおかないといけないのに、と思いつつ、スーのしつもんにこたえます。


「そうねぇ。恋っていうのは、だれかのためになにかをしてあげたいと思える気持ちかしら」

「どういうこと?」

「たとえば、きょうスーちゃんは、けがをしたダンくんのためにハンカチで手あてをしてあげたでしょう? そういう気持ちが、もっと強くなったものが、恋なのよ」

「ふ~ん」


 わかったような、わからないような。

 スーが首をかしげながらダンの方を向くと、ダンもスーに首をかしげてみせました。

 どうやら、マーモットのお姉さんの説明を聞いたことで、よけいにわからなくなってしまったようです。


  *


 てくてく、ぴょんぴょん。

 マーモットのお姉さんに、ごちそうになったおれいをつげたあと、ふたりは、家へと帰りはじめました。

 空のてっぺんにいたお日さまが、少しずつ地平線へと向かいはじめたからです。


 どのくらい歩いたでしょうか。

 遠くにふたりの家のあいだにはえるネズの木が見えはじめたところで、スーは、カシの木に寄りかかってひとやすみしていました。

 一日じゅうよく歩いたので、スーは足がいたくなってきたからです。


「もうちょっとだよ、スー。がんばろう」

「う~ん」


 ダンがスーをはげましていると、そこへ、ジャケットをはおった山ねこが通りかかりました。

 この山ねこはゆうびんやで、ジャケットのむねには、手紙のマークがししゅうされています。

 スーのぐあいがわるそうなのを見て、ゆうびんやは足をとめ、ふたりにこえをかけました。

 

「どうしたんだい? そのへんにはえてるきのこでも食べたのかい?」

「ちがうんだ。スーは、いっぱいあるいたから、つかれちゃったんだ」

「なんだ、そういうことか。ちょうど手紙をとどけに行くところだから、おんぶしてあげよう」


 そう言うと、ゆうびんやは背おっていたかばんをおろし、ダンにわたしました。


「わるいけど、ダンはこれを持っててくれるかな。中に本を入れていいから」

「あっ、うん。わかった」


 ダンがかばんに本を入れて背おうと、ゆうびんやはスーに背中を向けてしゃがみ込みました。


「さぁ、おじょうさん。背中にのって」

「はい。ありがとう」

「おれいなら、ダンにも言った方がいいぞ。にもつを持ってるんだからさ」

「そうね。ありがとう、ダン」

「へへっ。どういたしまして」


 かばんを背おったダンと、スーを背おったゆうびんやは、そのままスーの家の前まで並んで歩きました。

 そのあいだに、ダンがゆうびんやに、きょう、なんども言ってきたしつもんをしました。


「ねぇ、ゆうびんやさん。『こい』ってなぁに?」

「おぉ~? やけに、おとなっぽいことを聞いてくるんだな。だれから教わったんだ?」

「このほんのなかにかいてあったんだ」


 ダンがほこらしげに背中のかばんをたたくと、ゆうびんやは、ふふっと小さくわらってから、どう言ったらつたわるか考え考え、こたえました。


「しごとがら、ラブレターのたぐいを目にすることは多いんだけどさ。そうだねぇ……なにかがほしくてたまらない。それがうれしいくてもえ上がる時もあれば、くるしいくてこごえる時もある。どこかにさがしているものがあるようでいて、どこにもそんなものはないと思う時もある。手に入らないうちは、もどかしいけれど、そうしてなやむことがたのしみでもある。そんな風に、いろんなものがシチューやサラダみたいにミックスされたものが、恋ってもんじゃないかな。わかるかい?」

「う~ん……ちっともわかんないや」

「あはは。まっ、おとなになれば、いずれ、わかる時がくるさ」


 むずかしい顔をしてなやんだあと、あっさりと考えるのをやめたダンに対して、ゆうびんやは、ゆかいそうにダンの頭をなでました。

 さんにんがスーの家の前にとうちゃくすることには、空はオレンジ色になっていました。まどべからは、おいしそうな夕食のにおいがただよっています。

 このあとふたりは、きっと夕食のせきで、おとうさんやおかあさんに、きょう一日のことを話して聞かせることでしょう。


  *

 

 本編は、先ほどまででおしまいです。

 ここからは、恋とはなにかと聞かれた動物たちのこたえをまとめたものです。

 いわゆる、ボーナストラックかダイジェストのようなものだとお考えください。


①くまの木こり 

 

「ふたりには、大事にしている物はあるかい?」

「恋というのは、それと同じくらい、だれかのことを大事に思うことだよ」


②がちょうのおくさん


「おいしい物を食べると、おなかがまんぞくするでしょう? それと同じように、恋をするとね、心がいっぱいになって、とってもしあわせな気分になるの」

「食べ物では無いんだけど、それと同じくらいまんぞくした気持ちになれるものなのよ」


③きつねのお兄さん


「さっき、つり橋をわたるとき、むねがどきどきしなかったか?」

「だれかに恋をすると、そのひとを考えるだけで、それとおなじように、どきどきしておちつかなくなるものさ。もっとも、恋のどきどきは、こわさだけじゃなくて、うれしさも入ってるけどな」


④マーモットのお姉さん


「そうねぇ。恋っていうのは、だれかのためになにかをしてあげたいと思える気持ちかしら」

「たとえば、きょうスーちゃんは、けがをしたダンくんのためにハンカチで手あてをしてあげたでしょう? そういう気持ちが、もっとつよくなったものが、恋なのよ」


⑤山ねこのゆうびんや


「なにかがほしくてたまらない。それがうれしいくてもえ上がる時もあれば、くるしいくてこごえる時もある。どこかにさがしているものがあるようでいて、どこにもそんなものはないと思う時もある。手に入らないうちは、もどかしいけれど、そうしてなやむことがたのしみでもある。そんな風に、いろんなものがシチューやサラダみたいにミックスされたものが、恋ってもんじゃないかな」


 余話は以上です。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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