緊急ミーティングじゃ!!
『緊急ミーティングじゃ!!』
馬車の中では若い冒険者グループ『破邪覇道』三人の、褒賞金を貰ったら、次にするべきは鎧の新調か、魔法を補助するアクセサリーか、純白の法衣かの議論が熱を帯びていく。
爪弾きにされた老人会の三人は、馬車後部の隅っこに、ちんまり座っている。
……かに見えたが、こちらはこちらで『念話』の術を使い、無言の議論が始まっていた。
『いかんぞミスランティア師匠、デルモンド僧正。今回はいかん。ワシは嫌な予感しかしないぞ!!』
ヒゲ老人はしきりにヒゲを引っ張りながらハゲ熊と眼鏡美人に鋭い視線を送る。
『そうね。私も同意見ですクープ。デルモンドは?』
優しげな笑みを浮かべている口元とは裏腹に、丸眼鏡の下の、やや垂れ気味の目は全然笑っていない銀髪の美女が、ヒゲ老人ことクープ博士に目配せをしたあと、ハゲ熊ことデルモンドに視線を移した。
『この先の街道で目撃された、赤い紋章の盾を持つゴブリンの噂が本当であれば、厳しいな』
ハゲ熊デルモンドは懐から羊皮紙の巻物を取出しながら念話で答え、クープ博士をひと睨みして議論を進めるように促した。
『ではまず、『自称』Aランク冒険者グループ、えーっと、『自暴自棄』じゃったか?』
『破邪覇道よ。背伸びして付けたのでしょう。志は尊重してあげましょうクープ』
『師匠はお優しいのう。では、その破邪覇道の格付けをしようかの。まずは戦士の少年じゃが、実力はCランク位じゃ』
『バッサリだなクープ。ドラゴン単独討伐でAランクと云うのは、古式ゆかしい戦士の認定方法ではないのか?』
『自分で言っておった。アムル公国のブエナ山で火竜を討伐したと。あそこにいるのは火竜ではなくてファイアドレイクじゃ。アムル公国では竜の一種と数えられているらしいが、五侯国冒険者ギルドの見解では、ファイアドレイクは竜ではなくて、火を吹くでっかいトカゲじゃ』
『流行っているのよねえ。アムル公国に行って、ブエナ山のドレイク狩りをして、あちらの冒険者ギルドでAランク認定もらって帰ってくるの』
『おるおる。じゃが、最近は流石に実力不足が露見して、五侯国のギルドでは、そういう手合いは『ドレイクナイト』と呼ばれて、エセ騎士の代名詞じゃ。知らんのか? デルモンド僧正』
『そんなセコい裏技知らんわ!』
『だいたいあの剣じゃが、目一杯研いだ刀身に、永続化した硬化魔法を二重掛けしただけの濫造魔剣じゃ。魔法を掛けたとて、限度を超えた衝撃で刃こぼれする。アレだけ刀身が綺麗なのは、竜の鱗のような固い物と当たっていないからか、単に持ち主の腕力不足で斬撃が優しいからじゃな』
『身も蓋も無いな』
『まあ、竜の鱗が無い、魔法も使えないファイアドレイク辺りなら、あの、しょっぱい魔剣でも仕留めることが出来るじゃろう。で、あるからドレイクの単独討伐はせめて信じて格付けとしてはCランクじゃな』
『そうですか。まあ、武具とモンスター格付けの大家であるクープ博士が言うのです。間違いないでしょうね』
無言で見つめあっているように見える老人会の三人を、たった今その彼らにクソミソけなされた上、2ランク降下認定されたキンキラ戦士が、胡散臭げに眺める。
しかし、そんなヒヨッコの視線など構っていられない老人会の無言の会議は続く。
『次は黒魔女っ娘ですな。師匠の見解は?』
『魔法使いとしてはAランクあげても良いのよねぇ。基準となる第五階位魔法を使えるのなら。でも、冒険者としては力不足よねえ。Cランク』
『こっちも厳しいな。師匠』
『あの子って、多分、元軍属よ。アムル公国では魔法の素地がある子供を集めて魔法兵として育成する制度があるわ』
『うむ。じゃからあの国の軍は強いのじゃ。軍属魔道士の大規模魔法を戦術に組み込んでおるからの』
『あの子も火属性に特に素養があったから、魔法学校でそこばかり鍛えられたのでしょう。修得した呪文も大規模魔法と、敵将校暗殺用の長距離打撃魔法ばかり……かわいそうに』
『多人数で補い合える軍で光る人材であるが、ある程度の万能性が求められる冒険者魔法使いとして厳しいと? ならば軍でピィピイやっておれば良いものを、何で冒険者になったのだ?』
『解らないの? デルモンド。破滅の呪文を人には向けたくなかったのでしょう。優しい子なのかもしれないわ』
『……お母様、アレだけコケにされたのに』
「あー! ミスランティア先生! この禿げダルマ、先生の事お母様って言いましたぞ!」
クープが念話を中断して腰を浮かせ挙手をして声を張り上げる。
「ば、ば、馬鹿言え! 言ってないし、お前こそ師匠を『先生』って言っとるぞ! 歳を考えろ、そして髭を考えろ!」
デルモンドも狭い車内で立ち上がり、獅子の咆哮のような声を張り上げたので、馬車の躯体はブルブルと震えた。
「?!?!」
突然の大声に破邪覇道の三人はビクッと肩を震わせて、キャビン後方を揃って見た。
「ほっ、発作か何かですかぁ?」
ゲス聖職が恐る恐る訊く。
「あら、うふふ、すいません。なんでもありませんですわぁ」
ミスランティアはクープとデルモンドの服の裾を引っ張りながら笑顔で答える。
「そ、そうですか。Aランク神官である私の癒し術も、流石に老衰には効き目がありませんもので」
ゲスな神官は左右の手の指先と指先とを合わせ、人差し指の指先同士を、クルクルと追い駆けっこをさせながら言葉を続ける。
「あのぉ、ですから、言い難いのですが、旅先での老化を起因とする突然死には、当方責任を負いかねますので、万が一の場合も護衛報酬はいただきますからね?」
神官はそう言うと、白い歯を見せて良い笑顔で笑った。




