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ランク詐称は許さない!!  作者: 山内海
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溶鉱炉王の興亡史


 

 人族の国家『五候国』が、アトミクラ山の周り、大陸の約半分を支配する前の話をしよう。


 大陸と呼ぶにはやや小さいこの大島は、『大遠征』と後に(うた)われる、魔王包囲戦以前は、ドワーフが支配する土地であった。


 人間もいるにはいたが、国家を形成するほどの勢力ではなく、ドワーフの運営する大陸唯一の国家『大鉱山国(グランデミネ)』の周辺で、ドワーフに使役される未開人と、グランデミネから送り出されるミスリルの武具宝物を、戦火の絶えない他大陸に運ぶ船乗り達が、北部海岸沿いの港町に僅かばかり控えているだけだった。

  

 アトミクラ山の下にはミスリルの巨大な鉱脈がある。

 地の深淵から山体を天まで突き上げるマグマの流れは、ミスリルをも奥底から運んできたのだ。

 魔力を帯びることによって、硬度と重さが変化するミスリルの耐性、加工性は、他の金属の群を抜き、まさに武具を造るための銀であり、魔術の媒介器物としても優れ、覇権を求める他大陸の王侯は、グランデミネのドワーフ達が鋳造する武具をこぞって求めた。


 アトミクラに縦横に張り巡らされた大坑道は、時代と共に拡充される。

 ドワーフの総領『筋金入りの(スティーリー)ダイン』は、あらたに『溶鉱炉王』を名乗った。

 彼の権威の元、鉱山に通う(いとま)さえ惜しんだドワーフ達は、山麓の町々を引き払い、次々と坑道内部に居を移した。 

 それらの住居と工房は密度を増し、いつしか地底都市を形成する。 

 後の世にドワーフの埋没城塞(ドワロデルフ)と呼ばれる、鉱山、工房、城塞都市を兼ね備えた巨大迷宮の誕生である。


 ドワーフはドワロデルフを広げながら、飽くことなく武具を造り、飽くことなくミスリルを採掘した。   

 彼らはマグマの奔流のすぐそばを、深く深く、余りにも深く穿った。


『深淵貫通』


 果てしない採掘の果て、ドワーフ達は大地の底を掘り抜いてしまったのだ。


 その場所がドワロデルフの何処であったのか、今となってはわからない。


 功名心に(はや)った、ある若きドワーフが、高純度のミスリル鉱石を求める余り、土地に宿る精霊の制止を振り切ってその場所にツルハシを入れたと、エルフ達は後の世に伝えた。


 欲深き若者によって穿たれた深淵の裂け目から、まるで待ち構えていたかのように溢れ出たモノ達は、ドワーフに襲いかかり、手当たり次第に殺戮した。


 この襲撃者達はどのような姿をしていたのか。

 あるドワーフは有翼の悪魔だったといい、ある者は生き血をすする血塗れの鬼だったといい、ある者は肉体を持たずドワーフ達に憑依する邪悪な精神体だったと言った。


 混乱を極めたドワロデルフの、東西南北四つあった大門から逃れ得たドワーフ達は、住人の半分にも満たず、深淵に住まう者達もドワーフを追ってアトミクラ山から外界に出、更に何割かのドワーフを殺した。 


 グランデミネの民が死に絶えなかったのは、襲撃者が日の光を嫌い、払暁と同時にドワロデルフに戻っていったからである。

 しかし、ドワロデルフの玉座から離れることを拒否し、地下宮殿謁見の間を血で染めながら、『筋金入りのダイン』が闘死したため、溶鉱炉の王権はダインの息子、後に彼自身が告白懺悔し、知られることとなったが、親を超えんと功を逸り、深淵に穴を穿った本人、『鉄腕(てつわん)のデール』が担うこととなった。


 彼は平時使役していた未開人達の故地、後に英雄カミンアモンを輩出する北方人の集落に匿われた。


 そこから他の大陸に住まうかつての商売相手、ドワーフの武具を手にした事のある、戦い好きの人間王侯達に檄文を送り救援を願ったのだ。


 ドワーフの王デールの呼び掛けに、はじめに救いの手を差し出したのはエルフであった。


 エルフ達は別にドワーフの武具や宝物を愛してはいなかったが、深淵から湧きい出たという、魔の者共に深い憂慮を禁じ得ず、各地に散らばる人族の英雄達に、破天荒な冒険への招待状を送ったのだ。

 

 偉大なるエルフの王「フェアノオル」と七人の人族の英雄が率いる、エルフと人間の同盟軍四万が、無数の戦船に乗り合わせ、嵐に荒れ狂う海を渡り、大島の北端に位置する港町に上陸したのは、ドワロデルフの陥落から三年経過した後だった。


 その頃までに避難先の最北部以外のドワーフは、概ね襲撃者の餌食となり、一時は世界の富の半分を手にしたとも云われたグランデミネの権勢は、ついに回復することはなかった。


 上陸後、英雄達は奮戦したが、結局その時は魔の者達をアトミクラ山に封じ込め、四つの大門を閉ざすことしか出来なかった。


 鉄腕デールの加盟と北方人間族の参戦。

 フェアノオルの娘、エルフの至宝と謳われた黄昏姫『ミスランティア』をめぐる英雄達の諍い。

 火竜の参盟と、ドワロデルフ焔の浄化。

 二代目溶鉱炉王デールの裏切りと『第二の深淵貫通』。

 火竜によるデール候国焔の浄化。

 魔王軍残党によるミスランティアの誘拐とその奪回……。

 

 約一年に及ぶ攻防戦と、そこから続く包囲監視戦の長い年月の間、様々な出来事があったが、それらの事柄にはここでは触れない。

 


※※※※※※※※※




 ワーボアの各氏族に呼集がかかったのは、先の満月の頃であっ


 人間達が『デール候国』と呼ぶ、ここ『鉄火の森』の覇権は、森の北にそびえるアトミクラ山南面、溶岩を塗り固めたような花崗岩の岩壁と、鋼鉄の巨大な門扉(もんぴ)の前に、おびただしい数の深淵銀(ミスリル)の武具を山と積み上げて、そこに鎮座する門番竜アンカラン・マッハバァニィの元にあった。


 この、大火竜が森に住まう者達に科した掟は、単純である。


『「イスカンダリア特使」以外の人間、亜人をアトミクラの大門に近付けるな』 


 竜は加えてこうも言った。


『特にドワーフには注意せよ』


 逆に云えば、火竜の掟はそれだけであった。


 魔王包囲戦の昔、火竜が乱射した火焔により焼け野原となったこの地に、再び森の木々が茂る頃には、人間達から『(まつろ)わぬ者』と呼ばれる、ゴブリン、オーク、コボルドや獣人達がこの森に満ちていた。


 彼らは強大で無頓着な盟主の元、互いを獲物として飽くなき狩りと戦いの日々を送っていた。


『次の満月までに武装宜しく整え、鉄火の森南部に集参せよ』


 竜の名代として、赤盾のゴブリン集団から、そのような指令を受けたワーボアの族長ガルホアは(いぶか)しみ、つい先日まで戦争をしていたワーウルフの長老と話し合い、足の速い戦士をアンカランの元へ(はし)らせた。


 アンカランの真意を確かめる使命を帯びた遣いが、大門から戻る頃には参集の刻限は迫っていた。

 しかし、出陣の宴を引き延ばしてまでジリジリ待っていたガルホアに届けられた知らせは、彼の期待するものではなかった。 

 遣いは大門の周囲にいつの間にか建造された堅牢な城壁城門で足留めされ、そこに駐留していたゴブリンによって、最初の指令とたいして変わらない事を再度言われ、そのまま追い返されたらしかったのだ。   


 アトミクラ南門を囲うの天を衝くような城壁を守るゴブリン達に混じり、数人のドワーフを見かけた。


 成す術なく帰還した使者の戦士が、ついでとばかりにガルホアに伝えた一言が、彼の心にさざ波をたてた。


『気にはなる。が、しかし、真意はともかく、竜命を違えれば氏族の縄張りには火が投げ込まれる。是非もなしか……』 


 こうしてワーボア、ワーウルフ連合軍約六百は、アトミクラ大門から後発したゴブリンの後詰めに追い立てられるように、南の集結地へ向かって出陣したのだった。

 

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