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ランク詐称は許さない!!  作者: 山内海
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ドラゴンスレイヤー


 剣という武器は、槍などの主武器が壊れた時の予備か、長柄武器を振るう余裕のないほどの乱戦で(もち)いるものであり、対人を想定した武器である。

 リーチが短く、鎧をまとった相手では容易く装甲で斬撃を防がれてしまう。


 つまり、全身を鋼鉄を上回る強度の竜燐で覆い、長大な四肢と、炎のブレス、竜魔法で武装した火竜グアラカンに対して、魔剣マルキス・ヴェルキスを握るアヴァンは極めて分が悪かった。

 それは剣一つで、千を超える兵士の立てこもる砦の攻略に挑戦するようなものだった。


 左右の脇侍竜が倒れ、救援に来た配下のリザードマン軍団は撃退され、残ったのは火竜グアラカンのみである。

 アヴァンは一時、マルキスに取り込まれ、変なモンスターみたいになってこの竜と戦っていたのだが、それではアヴァンがやったとはいえず、マルキスの戦功になってしまうとパストールに説得されてふつうの剣士に戻った。

 変なモンスター状態のアヴァンから脚に一撃受けたグアラカンが回復し、立ち上がると仕切り直しとなり、再び一人と一竜は刃と爪を交えた。

 

 グアラカンが用いるブレスにしろ、鉤爪のならぶ前腕にしろ、攻城鎚のような尾にしろ、どれをとっても一撃で人間など文字通り粉砕できる威力である。

 幸い小さな一人の人間に、これら必殺の攻撃を当てるのは難しいらしく、魔法でドーピングしまくった戦闘再開後のアヴァンは、鉤爪を二、三度かすらせただけで、深刻な攻撃はまだ受けていない。


 しかしその中途半端な攻撃の衝撃を緩和するために、剣と鎧に擬態する以外の助力をしないという約束を破り、慣性制御魔法を何重にも頻発したマルキス・ヴェルキスは、ほぼ魔力を使い果たしてしまった。


 最後の接触など、魔法では衝撃を殺しきれず、アヴァンはかなりの飛距離をマークして闘技場の壁面に打ち付けられた。

 マルキスはとっさに鎧の形を変化させ、クッションの役割を果たしたため、致命傷にはならなかったが、床に転がったアヴァンは血を吐いて悶絶した。


「ふー、ふー、ふー……」


 アヴァンを覆っていた鎧はクッションのようになった後、元の鎧には戻れず、剣部分に吸収されてしまった。


 辛うじて剣の形は保っているが、もうマルキスには擬態を維持する力が無いのだ。


 絶体絶命の危機であるアヴァンに対し、好機到来となったグアラカンの方も連戦連撃の疲れが出たのか、荒い息を整えるために今は止まっている。


『バクン!』


 ある程度息を整え、そのままドラゴンブレスの発射体勢に入ったグアラカンは、首の根元にある逆鱗(げきりん)を逆立てた。


「アヴァン! 頑張って!!」


 揉み手で戦いの行方を見守っていたパストールは、思わず少女のような叫び声をあげる


「ウルォラァ!!」


 パストールから施された数々の強化魔法は、いまだアヴァンに効果を及ぼしている。

 床でうめいていたアヴァンは意を決し、突如立ち上がるとグアラカンに向かって走った。


『!!!』


 やや反応は鈍かったが、グアラカンはアヴァンの突撃を迎え撃つため、手首がある方の前腕で前面を広範囲に掻き薙いだ。

 明らかに大振りである。


「止まって見えるぜ!!」


 背面跳びの要領でグアラカンの攻撃を飛び越えたアヴァンは、空中で一回転し、着地するとそのままの勢いで再び駆けた。

 グアラカンが地面に突いていた、手首が無い方の前脚を足場に、アヴァンは肩口まで駆け上がると、火竜の逆鱗、人で云うところの鎖骨の辺り目掛けてマルキス・ヴェルキスを突き立てた。


挿絵(By みてみん)  

「ああ!」


 パストールが心底残念そうな声を上げる。


 鱗と鱗のわずかな隙間に、奇跡的にアヴァンの突き出した切っ先が滑り込んだが、刺さったのは刀身の四分の一ほど、人の指先から肘くらいの長さしかなく、急所への一撃とはいえ、それだけでは竜を殺すには不十分とパストールは思ったのだ。


『ボコン!!』


 しかしその時、マルキス・ヴェルキスの刺さった切っ先のさらに先、グアラカンの胸の奥の方から、くぐもった炸裂音がした。


『ギャン!!』


 グアラカンは鋭く叫ぶと前脚で素早くアヴァンを掴む。

 アヴァンは手を離してしまい、マルキス・ヴェルキスはグアラカンの鎖骨のあたりに突き立ったまま残されてしまった。


 グアラカンは握ったアヴァンを自身の口元に引き寄せた。

 かの竜の目には狂気の光が宿っている。

 そのまま口を大きく開けた。


 アヴァンは素早く振り回されたショックか、グアラカンの握り拳から上半身を出しているが、グッタリとひん曲がって気を失っている。


「ああ! ブレスを吐く気です! ソシエール! 防ぐことは出来ないのですか?!」


 パストールはリザードマン軍団を撃退し、丁度今、パストールと合流したソシエールのローブを引っ張って訴える。


「え? いいけどー」 


 気安く請け負ったソシエールが、先ほどリザードマン軍団を撃退した氷結魔法を使おうと、手をかざす。

 氷結の獄門の発動アイコンは、先程の戦闘からずっとアクティブ状態である。

 この魔法を使うにあたり、彼女はもう、呪文の詠唱も魔法陣の設置も必要としなかった。 


「氷結のごくも……」


「嬢! しばし待て!!」


 遅れて合流し、二人と一緒に戦いを見ていたデルモンドが、ソシエールを制止した。


「あ、兄弟子様……」  


 パストールは抗議しようと口を開いたが、テルモンドはそれも一睨みで制する。


『ギュオオオオオオオォォ』


 そうしている間にも、グアラカンのドラゴンブレス発射態勢は最終段階に達する。  

 剣で塞がれていない方の吸気口より、外気と『火素』を吸い込み、胸の中でコネクリ回して火焔へと変換している。


「兄弟子! アヴァンは今生身です!! あんなゼロ距離でブレスを喰らったら……、ああ! アヴァンが死んじゃう!!」

 

 パストールの何だかヒロイン的発言に、デルモンドは一瞬『うわぁ……』と言いたげな表情をしたが、気を取り直して説明する。


「拙僧のククルカン信仰調査術『熱線監視(サーモグラフィー)』によると、かの竜の体内温度はさほど上がっておらん。ブレスを()くことは(かな)わん」


「し、しかし口からあんなに火を! ……あれ?」


 パストールが反論を開始した時点では、グアラカンの竜口からブレスの予備加熱のように火炎が漏れ出ていたが、その火は『ボフン』と後追いで吐き出された黒煙と共に鎮火してしまった。


 グアラカンはアヴァンを掴んだまま暫し呆けたように立ち尽くしている。


 此処で失神から回復したのか、アヴァンの頭が急に持ち上がった。


「マルキス!!」  


 必死に腕を伸ばし、一時は手放して、グアラカンの逆鱗に刺さったままの魔剣マルキス・ヴェルキスの柄に手をかけた。


『ギャアアア゛ア゛ア゛ア゛ー!!』


 グアラカンは絶叫した。

 吸気口から沸騰した血が逆噴する。


 アヴァンは力を込めてマルキス・ヴェルキスを引き抜く。


 刀身は先端でトゲだらけのドリアンのように膨張していた。

 ガリガリと逆鱗を押し退けながら刀身が全て抜かれたとき、グアラカンは火焔の代わりに大量の血を吐いて倒れた。


『ドオオオン!』


 最後に未練がましく持ち上げていた首も、激しく地面に打ち付けて、グアラカンは巨躯を長々と横たえた。

 

「うぉぉぉ!!」


 アヴァンはそれでも攻撃を止めず、グアラカンの頭に駆け寄り、もはや剣と云うより戦鎚(ウォーハンマー)のようになったマルキス・ヴェルキスを、竜の角に打ち下ろした。


 

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