頑張れソシエール
「第二位階火魔法『火球』!!」
『バシュ!』
「火球! 火球! 火球! 火球!」
『ドン! ドン! ドン! ドン!』
余りにも大きいので塞ぐことも出来ない、縦坑と『闘技場』を結ぶ出入口に、リザードマン軍団が殺到する。
立ちふさがるは魔法使いソシエール。
沈黙したままの喋る杖『ミーちゃん』を振るい、得意の火魔法を連発する。
お昼ご飯を食べて、MPが若干回復したらしい。
しかし相手は普段から火竜に仕えるリザードマンなので、火への耐性が無い者は既に淘汰されている。
更に戦士級のリザードマンは、火竜の鱗から削り出された、無類の耐火、耐熱性能を誇る盾を装備している。
リザードマンの反撃を最初に察知したソシエールは、魔法で出入口をふさぐ炎の壁を作り出したが、そんな物はまるで無関係とばかりに、蜥蜴軍団の前衛は火を踏み越えた。
ソシエールはすぐさま第一階位魔法『火弾』を連射する。
しかし火弾は避けようともしないリザードマンに命中しても、傷一つ付けることは出来なかった。
ソシエールは「うぐぐ」と少し泣きそうになったが、気を取り直して、今度は第二階位呪文『火球』を撃つ。
しかし、火球の爆発で一瞬たじろぐが、竜燐の盾は炎と熱を防ぎ、爆風に耐えた後、リザードマン前衛の前進は再開された。
「くうぅ! 全然効かないじゃないのよぅ!! ……ならば!! 第三階位呪文『火渦!!』」
差し向けた杖の先から、炎の奔流が沸き起こり、リザードマンの周りで渦巻いて、加速度的に加熱を促した。
しかし、そんな熱波も後衛のリザードマン魔法使い数人による冷却魔法で中和され、前衛は再び盾を構えてジリジリと歩を進めた。
ソシエールは「ふぐっ、だっはぁぁああ!」と結構な本気泣きを始めた。
圧迫に耐えかね、ジリジリと後ずさるソシエールの背中は、岩塊立柱のような物にぶつかる。
「どうした? 嬢。まさか、まだ杖は黙ったままなのか?」
「おじちゃん?!」
ソシエールの背後に立っていたのは、左竜ゴーシュを膝蹴り一発で沈めたデルモンドであった。
彼は『つーん』と、おすまし顔のまま固まっている、ソシエールが持つ杖の先のミーちゃんを一睨みして嘆息する。
「まったく、母上は何をしているのか。目をかけたなら最後まで面倒を見んか!!」
そんな呟きを残し、デルモンドはリザードマンの前衛集団の中に踊り込んだ。
「どうしよう、おじちゃん! あたしの火魔法全然効かない!!」
デルモンドの背中に向けて、ソシエールが弱音を吐く。
「ふーむ。……嬢。おぬし、『アルカンドラスの印』はもらったか? 打擲! 打擲! 打擲! 打擲!」
デルモンドはソシエールに語りかけながら、容赦なしの拳骨を連発する。
拳骨で失神したリザードマン前衛を、縦坑側に放り投げると、それを受け止めただけで、後衛も崩壊しつつあった。
『ゲヒィ!』とか『アバババ!』とか、そんな恨みがましい声を残して、リザードマン軍団の第一陣は気を失った者を引っ張って撤退を開始した。
しかし、縦坑上層の、横坑との接続部から、第二陣が既に階段を降り始めていて、続々と底部に集結している。
「……、で、どうなのだ? 先程隅でなんかやっとっただろう?」
攻撃が一段落したので、デルモンドは振り返ってソシエールの元に戻ってきた。
「うん、『魔法知識を転写』とか、何とか言ってたけど、でもなんか途中っぽかったし、」
「ふーむ。どれ、目を瞑ってみせい」
デルモンドばソシエールの前でしゃがみ、顔を覗き込んだ。
「な、何でよ?」
「『アルカンドラスの印』という、母さ……、ミスランティア師匠が、魔法を弄る時に使う『魔法錬成台』を起動する鍵だ。……、瞑目の暗い視界の端に、赤く仄かに明滅する光点と、対角にある白い光点が見えるか?」
両手をソシエールの肩に置きデルモンドはそんなことを言った。
「な、なによ、そんなもの……、あ、見える」
目を瞑ったまま、ソシエールは答えた。
「うむ。印綬は、為されておったか。……では、白い光点を動かし、赤い光点まで持って行け。なに、白い光点はお主の意志で操る事が出来る。コツがいるがやってみろ」
「……、動いた。ナニコレ?! あたしの頭の中になんかしたの?」
「……、母上と関わると云うことはこういう事だ、その点については申し訳なく思う。……お主の意志では無かったのだからな。光点が二つ重なったら、白玉を一つ煌めかせろ。動かせたのだ。出来るハズだ」
「…………、キラッ!!」
「く……、口で言うとは斬新だな、嬢」
ソシエールの『キラッ!』を合図に、彼女の前に見えないテーブルのようなものが展開され、そこに次々と大皿小皿が並ぶように、光る魔法陣と、光る文字列が現れて、端の方に整列する。
「ふおお?!」
「おお、そこまで出来たなら話は早い。どれ、拙僧が見本を見せてやる。良いか?」
ソシエールの錬成台にデルモンドは手を伸ばし、台の端に並ぶ文字列から、『熱』、『冷気』、『衝力』、『還元』などの単語に指で触れ、それに添わせたままソシエールの目の前まで引き寄せた。
「まず吸収魔法陣。衝撃、熱、冷気を魔力に変換して、お主の着る『宵待のローブ』にある魔法陣と繋ぐ。魔力を魔法陣の貯蔵庫に流して貯めるのだ。貯蔵庫には母上が長年貯めに貯めた魔力が、無尽蔵にある。多分大丈夫かと思うが、勝手に使うと拗ねるかもしれないから、今回の攻撃魔法の分をこれで貯める」
説明をしながら、デルモンドは単語と魔法陣を次々と寄せ集め、それらの構文は、最終的に魔法のシンボルとなって、錬成台の中程に置かれた。
「次は範囲冷凍魔法。『熱変動』、『範囲』、『流水』、『凝結』……、よいか? ただの『冷却』ではなく熱変動を使うのは、その方が魔力消費が少なく、取り出した『熱』を再び吸収魔法陣に吸わせれば、更に消費を抑えることが出来るからだ。『流水』を先に使うのは、ただ対象を冷やすより、効果が高いためだ。そして……」
更にデルモンドは単語や魔法陣を呼んではつなげ、『氷結の獄門』という、広範囲戦術魔法を錬成した。
「ちちち、チョッット待ってよおじちゃん!! ……あんたお坊さんデショ?? 何で、魔法が、使えるの?!」
目の前で躍る単語、魔法陣、魔法のシンボルと、デルモンドの顔の間を、忙しなく行き来させ、驚愕の表情でソシエールは呻いた。
「ああ、昔、リンドンの魔法アカデミーに留学したことが……、詳しい説明は後だ。そろそろ第二陣が来るぞ。先ず『宵待のローブ』の防御魔法陣を起動しろ。ここと、ここと、ここの、自動防御の魔法陣に触れて、起動式に魔力を通す。それからさっき組んだ吸収魔法陣……。後は適当に攻撃を受けて魔力を貯めて、貯まっていくと、ここの棒が伸びるから、このあたりまで来たら『氷結の獄門』のシンボルを『キラッ!!』だ」
「ふ? ふおおお?! 何? ナニコレ?!」
錬成台の真ん中で、『氷結の獄門』のアイコンが光る。
『ズズーン、ズズーン、ズズーン』
その時、縦坑側から腹に響く地鳴りが起き、リザードマン軍団から歓声と雄叫びがあがる。
遠くから、火竜程ではないが、馬の数倍はある大蜥蜴が縦坑底部に壁伝いで降り立ちリザードマン軍団に随伴して此方に近付きつつあるのが確認できた。
「ヒィィ! アッチにも竜が出た!」
ソシエールが悲鳴を上げる。
「いや、あれば『ファイアドレイク』だな。丁度良い。魔法の試し撃ちといこう。嬢。あ奴等の攻撃を喰らって、そして撃ち返してみよ」
バッと第二陣を指差してデルモンドは言った。
「え? えええ?! あたしが?」
「うむ。今のお主なら造作ない事だ」
「え、えええー……」
デルモンドに太鼓判を押され、ソシエールは一人で、第一陣に数倍する第二陣に向き直った。




