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ランク詐称は許さない!!  作者: 山内海
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パストールの説得


 


 グアラカンの角は折れなかった。

 折れなかったが、竜の頭は激しく傾き、衝撃で意識が遠退いたグアラカンがよろめいて後退った。


「ウギィ!」


 剣士アヴァンに取り憑いた悪魔マルキス・ヴェルキスは、グアラカンの頭に激突した後、クルリと身をひるがえして着地し、四つ足を駆使して竜の足元へ駆け寄り、膝裏の筋に爪を突き立てた。

 

『バシュ!』


 バランスをとるために引き伸ばされた足の腱に、マルキスの爪が通り、血飛沫が舞う。


「やったわ! アヴァン!!」


 グアラカンは膝を付いてうずくまり可動部を隠して丸まってしまった。

 

「阻害魔法が解除された! やれる! 今ならやれるわアヴァン!!」

 

 マルキス・ヴェルキスは立ち上がり、追撃を加えるために駆け出そうとする。

  

「あー、マルキス、ヴェルキスさん?」


 背後からパストールが声をかける。


「な、なによ神父?!」


 アヴァンに取り憑いたマルキス・ヴェルキスは振り返る。


「……見るに、既にアヴァンは、失神しているようですぞ」


「……え?」


 恐る恐る指摘するパストールの言を受け、胸元から目玉をのばしたマルキス・ヴェルキスはアヴァンの顔を覗き込む。


──チ~ン。


 半ばマルキス・ヴェルキスに浸食された面兜の隙間から見えるアヴァンは、白目を剥いて泡を吹いていた。


「このまま竜を倒しても、アヴァンが討伐したとは……。ご主人(ミスランティア)様も、兄従僕(クープ)様も、納得されますまい」


「……わ、私は……、坊やのために……、」


 彼女の決意が揺らぐのに呼応するかのように、アヴァンを包むマルキス・ヴェルキスの刺々しかった外骨格が緩み、ブヨブヨした肉の塊のようになってしまった。


「彼のためを想うなら、仕切り直しましょう! さあ、治療魔法をかけますから、一度拘束を解除してください」


「……、このまま回復呪文をかけて。坊やの手足はぐちゃぐちゃなの。私が補正するから」


 アヴァンの手足は肘、膝の先で綺麗に折れ、まるで関節が増えているように曲がっていた。

 マルキス・ヴェルキスは今一度ハッキリとした形になり、横たわったアヴァンを覆ったまま、彼の四肢を伸ばす。


『ボキ、コリッ、パキッ』


「あがががが!!」


 痛みで覚醒させられたアヴァンが、獣じみた叫び声をあげた。

 マルキス・ヴェルキスは、バラバラになったアヴァンの骨を正しい位置に動かしている。


「さあ、治療魔法をかけますよ。固定してください。残念ですが、この後すぐ戦うので痛み止めはできません!」


「うぎぎぎき、」


「ううう、ごめん、ごめんねぇアヴァン」


 黒いキャソック(神父の着る詰め襟の服)の腕をまくり、パストールはアヴァンの唯一素肌が露出している口元に手を添えた。

 片手にはエル・ファランの護符を握っている。


挿絵(By みてみん)  

「冥府の聖母エル・ファランよ、黄泉路より闇の息吹もて、死への旅路を急ぐ者を吹き戻したまえ!! 暗黒冥府教会魔法『闇治癒(ダークヒール)!!』」

 

 パストールのなんだか妖しげな治療魔法が発動する。


「うげえ!!」


 変なうめき声を上げてアヴァンの体がのたうつ。


身体強化(ビルドアップ)!!」

克己(ダンディズム)!!」

(コーリング)(ミスター)(ファーレンハイト)

敏捷化(チョコ・マッカ)

感覚延長(トマッテ・ミ・エルゼ)


 パストールは立て続けに強化魔法をアヴァンにかける。


「ふんぬぐあー!!」 


 アヴァンは立ち上がりゴリラっぽくドラミングをする。


「さあ、マルキスさん、アヴァンから離れて」


「う、うん」


 アヴァンを覆う悪魔の外骨格は緩み、液体となって床に滴り落ち、彼の隣で裸身の女の姿をとった。


『カラン、カラン、ガラン』


 アヴァンが元から着ていた金ピカの鎧も、何故か彼の足元に散らばった。

 

「ああ、俺の鎧が!」


「無茶な動きをしたから、留め金が全部バカになったのね」


「仕方がありません。マルキスさん。アヴァンの剣と鎧に擬態してください。でも、あくまでもアヴァンの動きを妨げないように!! あなたは道具に徹してください。そうでないと、マルキス。そうでないと彼の為になりません。彼のことを想うなら、……判りますよね? 出来ますよね?」


「……判ったわよ」


挿絵(By みてみん)  


 既に尻尾を剣の形に変形させながら、マルキスは唇をとがらせてそう言った。


「でも、私はアヴァンを死なせはしない」


 アヴァンにしなだれかかり、そう言ったマルキス・ヴェルキスは、そのまま彼の着ていた鎧そっくりに変形し、再び彼を覆った。


「アヴァン。準備運動」


「あ、ああ」


 赤盾を拾い、赤いヒモ状の触手で籠手とつながってはいるが、あとは普通の大剣と変わらないマルキス・ヴェルキスの尻尾を構え、アヴァンは二、三の素振りをし、左右にステップを踏む。


「ああ、まるで普通の剣と鎧だ、普通だ」


 剣と盾の感触を確かめるアヴァン。


「今までが異常だったのです。アヴァン。わたくしがあなたと過ごした期間は、そんなに長くはないですが、あなたはわたくしが今まで見てきた剣士の中でも、類い希な才能を持っています。あなたは悪魔に頼らなくても、十分に竜に打ち勝つことが出来るのです」


「そ、そうかなぁ?」


「そうです! 兄弟子(デルモンド)様の言葉をよく思い出し、そして……」


「そして?」


「かの竜の角を狙いなさい」


「角?」


 パストールの言葉にアヴァンは首を傾げた。



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