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ランク詐称は許さない!!  作者: 山内海
35/48

母性の暴走

「えへん、おほん、あー。ミスランティア先生?」


 コンコン、


 若返ったクープは、馬車のタラップを数歩上がり、咳払いの後、扉をノックした。


「入ってきて……」


 ミスランティアの妙に艶っぽい返事が返ってくる。

クープは生唾を飲み込み、そっと馬車の扉を開いた。


「一命はとりとめました」


 カーテンを閉じたキャビンは薄暗く、客室中央に座るミスランティアの周囲だけ、微かに明るかった。

 魔法の光なのか、蛍のように宙を漂う明かりが、ミスランティアを照らしている。

 彼女の前にはタライがあり、そのタライには湯が張られていた。

 先程ガニシカ・アルマンがゴブリン城塞から発見し、ミスランティアが強奪した生き残りの赤ん坊が、湯浴みをした後であろうか、今は柔らかな布に包まれて彼女の胸の中にあった。


「アステル。あなたの名に似せて、この子は『エステル』と名付けます」


 聖母の微笑みをたたえ、赤子を見下ろしながらミスランティアはそう言った。


 ────これで、一体何人目の『エステル』か……。


 嘆息を飲み込み、アステルことクープはミスランティアの胸で眠る赤子を見た。 

 

「先生。この赤ん坊の人相を見るに、ゴブリン……、と云うより、エルフのようですな。ゴブリンがさらった女に産ませた子だと思ったのですが、果たして親は誰なのか……」

 

 眠る赤子は、ゴブリンに多い緑掛かった灰色の肌はしていなかった。

 湯浴みをした赤子は、まるで本当にミスランティアの子であるかのように、彼女と同じ白磁の肌と銀髪をしていた。


「もしや、ハイ・エルフ、なのか……?」


 クープは更に子細を調べようと、手を伸ばしたが、


「私の子です!」


 ミスランティアはクープの追求から赤子を庇う。

 

「誰も取りはしませんて」


 クープは諸手を挙げて後退った。

 ミスランティアが動かした拍子に、赤子は目を覚ましたらしく、よわよわしい泣き声をあげ始めた。


「ホワアア、ホワアア、」


 声はかすれ途切れ途切れである。


「あらあら! ごめんなさい!」

 

 ミスランティアは赤子に頬を寄せ優しく揺らす。


「見たところまだ乳飲み子。このままでは(かつ)えて、生きながらえる事は出来ますまい。どうされます?」


 赤子は痩せ衰え、今にも息絶えてしまいそうだった。


「ご心配無く。魔法で体質を変え、乳を出しますから。デルモンドの時だってそうしましたもの」


 そう言うやミスランティアは、幼女時よりは若干成長したとはいえ、それでもエルフの運命(さだめ)か、厚みのない自分の胸元に、魔法の術式を打ち込む。


「無階位魔法『豊饒化』!」


 ミスランティアの乳房は途端に大きくなり始め、幼女時から着ていたワンピースから、はちきれんばかりに肥大化した。


「うくく、あう」


 急激な膨張は痛みを伴うのか、彼女は苦悶の表情を浮かべる、

   

「辛いでしょうに! 何故そこまでなさいます?! おとどまり下され!」」


 クープは慌て制止するが、ミスランティアはワンピースの脇から、腫れ上がったように発達した乳房の片方をボロンと出した。


「いや! いやよ! この子は私の子。私が、私の乳で育てるの」


 首を振ってそのようなことを言ったミスランティアは、自身の乳房をそっと赤子の口元に寄せてゆく。


挿絵(By みてみん)    

「いけません!」


 クープは手を伸ばし、ミスランティアから子供を奪おうとする。

 ミスランティアはクープの手首をつかみそれを阻止した。


 そのミスランティアの手に込められた力は尋常ではなく、クープの手首を締め上げる。


「ぬぐっ!」


 彼の口からは呻きが漏れた。

 

「アステル……」


 ミスランティアの瞳は赫々(かっかく)と光る。


「ジャマは、サセナイ……!」


「ミスランティア!」


 しかし、魔界伯爵の顔には意を決した凶相が浮かび、彼の脇の下からは、燕尾服を突き破り外骨格の悪魔の腕がもう一本生えて、彼の手首を掴むミスランティアの手首を掴む。


「母乳は血の変化。デルモンドのような怪物を、これ以上お造りあそばすな」

 

 渾身の力を悪魔の腕に込め、それでもなお静かな声で、諭すようにクープはミスランティアに語り掛ける。

 

「グググ、」


 しかしミスランティアは、まるで言葉の通じぬ野獣のように、うなり声をあげながらクープを睨み返した。


「ミスランティア! 諦めるのだ!!」


 クープは赤子ごとミスランティアを抱きしめる。


「もう、貴女にはこの子の成長を見届ける時間は無い。この世にこれ以上の未練を残しますな」

 

 さらに低く、クープはささやく。

 

「…………」


「…………」


「…………。ごめんなさいアステル」


 ミスランティアの体から強ばりが消えたのを確認し、クープはやっと彼女を拘束する力を緩め、三本目の腕をわき腹に格納した。


「どうしたのです? 貴女らしくない」


 ミスランティアを抱いたまま、クープはその頭をなでる。


「……アステル、この子、死んじゃうよ……」


「今、乳母のつとまる者を呼びます。心安らかに。死なせはしませんから」


 赤子を挟み、向かい合い見つめ合うクープとミスランティア。


「失礼いたします、……???」


「えへん、おほん、母上、父上、これはまた、間の悪い事で……」


「え? え?! ここ、どこ?」


 客室の片隅に置かれたクローゼットが開き、ククルカン戦僧『ハインツ』、イスカンダリア冒険者ギルドマスター『シグマイネン』、リンドンの魔法騎士『ユーフェン』の三人がそこから出てきた。



☆★★登場人物紹介(更新)★★☆


ミスランティア(幼女) 

挿絵(By みてみん)  

↓↓↓

ミスランティア(大人)

挿絵(By みてみん)  

↓↓↓

ミスランティア(豊饒化)

挿絵(By みてみん)  


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