ガニシカ・アルマン首が折れる
「……、……、……???」
破邪覇道プラス坊主対、三竜の戦いが始まった。
黒っ娘改め深緑っ娘魔女ソシエールに、魔法知識を伝授するため、杖の先のミーちゃんは、脳転写の魔法を使おうとしていた。
おでこ同士をくっつけて、ダウンロードするはずなのだが、一向になんの変化もないので、訝しんだソシエールがミーちゃんを見ると、またまたミーちゃんはただの杖の彫刻に戻っていた。
「あ、あれ? ミーちゃん?」
振ったところで無反応。
「ち、チョット! どうすんのよ??!」
しようがないので、ソシエールは杖を振り回してほかの三人の応援を始めた。
ソシエールの持つ杖の先のミーちゃんは、迷宮の外からミスランティアが遠隔操作している。
実はこの時、外で一悶着があり、ミスランティアがミーちゃんを操作できなくなっていたのだ。
※※※※※※※※
旧デール候国方面から、所属不明の一団が峠に迫る。
ミスランティアとクープは、峠の頂上を要塞化して迎え撃とうとしていた。
ミスランティアは魔法で木材と石材を積み上げて、街道左右の崖と崖を渡す巨大な壁を作った。
クープは何処かから自分の配下の悪魔を召喚し、呼び寄せた悪魔の一人に、死体の兵を集めさせる。
そして、その命を受けた悪魔死霊使いガニシカ・アルマンが、しばらくして洞窟の中から出てきた。
彼女は何かを先導している。
「おいっち、にい、おいっち、にい、あんよは上手、転ぶはお下手、おててが、ないない、あし、ないない」
後ろ歩きのガニシカに続いて、ヨタヨタ歩きのゴブリンのゾンビが続く。
継ぎ接ぎだらけで、手や足がどこかしら足りないものが多く、五体満足なゾンビはほとんどいなかった。
そんなゾンビの列に続き、ゴブリン由来なのか人間由来なのか判別がつかないが、白骨死体の群が付き従う。
更にその後に、陽光の下に似合わない、霞のような揺らぎが、生暖かい風と共に洞窟から吹き出してきた。
それらは、定まった形を持っていなかったが、ある時は慟哭する人間の顔の様にも見え、また、ある時は憤怒するゴブリンの様にも見えた。
それら、死霊の群れを率いて、死霊使いの悪魔、ガニシカ・アルマンは、馬車の近くで閻魔帳に何やら書き込んでいるクープの元までやってきた。
「伯爵様ぁ。みんな粉々で、全然死体が集まんないよう!!」
ピンクの巻き毛を揺らしながら、ガニシカはクープに泣き言を言う。
「ふむ、そうか。まあ良い。もうすぐここで死体が大量発生するから、それらを使えば良いだろう」
「はぁい……、あ、そうそう、伯爵様」
ガニシカは背後のゾンビに振り向き手招きをする。
ユラユラしながら待機しているゾンビの群の中から、一体が進み出る。
そのゾンビは赤子を抱いていた。
「ん? その赤ん坊、生きておるのか?」
クープが近寄り覗き込む。
「洞窟に入ってすぐ横に曲がった奥に、たくさん部屋があったの。そこのね、台所っぽい所のね、かまどの中にね、入っていたの。人間なのかなぁ? ゴブリンなのかなぁ?」
「グールの襲撃の際、赤子を隠したのじゃな。……あの小僧ども、見逃したのか……」
「でもね、伯爵様ぁ」
ガニシカはゾンビに抱かれた赤子の片足をつかんで、逆さ吊りに引き上げた。
「もう死にそうなの……、ヒギッ!!!」
ぐったりとした赤ん坊を、逆さのままガニシカはプラプラと振っていたが、背後から真っ黒な巨大な腕が、ガニシカの首をつかみ、彼女を強制的にひざまづかせた。
黒い片腕がガニシカを押さえつけ、もう一方の腕が赤子を奪うと、首をつかむ片腕に更に力が入り、彼女はうつ伏せに倒れ、顔が地面に半ばめり込むように押さえつけられた。
先ほどまで、自分の構築した巨大な城壁の上で、独り言を言ったり、変なジェスチャーをしていたミスランティアは、いつの間にかガニシカのすぐ近くにいた。
憤怒の表情である。
肩口から両腕の他に二本、黒い霧のような大きな腕が生えている。
「い、イイイ、ヒギギギ、」
黒い腕にひねりが加えられ、ガニシカの首が不自然に曲がる。
「師匠! お許し下され!」
あわてて黒腕をつかみ、懇願するクープに向けられたミスランティアの視線は、虫けらを見るように冷ややかであった。
「クープ。私は赤子を助けます。あなたのシモベにはよく伝えておいて。わたしは、幼子に乱暴する者をけっして許さないと……」
激情を抑え、静かにミスランティアは言った。
『ボキン!!』
鈍い音がガニシカの首元から聞こえた。
黒腕にがむしゃらに抗い、無理矢理拘束から首を引き抜いたために、彼女の首は中ほどで折れ、顔は、自分の胸の谷間に埋もれていた。
「モガ! モガガ?!」
「ガニシカ、だ、大丈夫か?!」
クープはガニシカの首を持ち上げ、悪魔用の治癒魔法をかける。
「ブハッ! い、息が詰まったわ! ひーん! 伯爵様ぁぁぁ!!」
首が元に戻ったガニシカは、目の前のクープにすがるように抱き付く。
いつの間にかミスランティアの両肩から生えていた黒い腕は消えて、彼女は自前の両腕で死にかけの赤子を抱き、馬車に向かって歩き出した。
「すまんのう、ガニシカ。師匠は赤ん坊を見るとおかしくなるのじゃ」
「うえぇ、悪魔より怖いよぉ! 伯爵様ぁ、何であんなおっかないエルフの言いなりなのよう! 伯爵様が帰ってこないから、魔界の領地は滅茶滅茶になっちゃったのに」
クープにすがりついたままガニシカ・アルマンは泣いている。
「全てはワシのワガママじゃ。お前も見限って、何処ぞに行っても良いのだぞ?」
泣きじゃくるガニシカの頭をなでながらクープがそう言うと、ガニシカはフルフルと頭を振った。
『可哀想な伯爵様をこのままに出来るわけないじゃない! いつかあのエルフを火山口にでも叩き落として、伯爵様を救ってみせるわ』
クープに抱かれながら、ガニシカはミスランティアの後ろ姿を睨み付けた。
クープの手前、口には出せないが、不穏当な考えを抱きながら。




