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「ソシエールちゃん止まって!!」
アヴァンの後ろをポテポテついて走っていたソシエールは、自分が手に握りしめている魔法の杖の先っぽに彫られた精霊人形、ミーちゃんから制止を受けた。
「???」
立ち止まったソシエールが真意を質そうと口を開く前に、前を走っていたアヴァンが消えた曲がり角のさらに先、合流点の横坑道側から炎が吹き出して辺りを赤々と照らした。
熱気がソシエールの顔に襲いかかる。
「第二階位魔法『亜空間創造』、第一階位魔法『熱移動』」
杖の先でミーちゃんが立て続けに呪文を唱えると、周囲に充満しかかった熱さは、まるで杖に吸い込まれるように引いていった。
「いいわ、ソシエールちゃん!! アヴァンちゃんはこの先で竜と対峙しているわ。私達でサポートするわよ」
再び走り出したソシエールは、程なくアヴァンの背中に追いつく。
足元には、パストールの頭が燃えていたが、ソシエールはまだそれが何であるか気付いてはいなかった。
「アヴァン!!」
「ソシエール!! こいつはヤバい。本坑道まで戻れ!」
ソシエールはアヴァンと並ぶため前に出ようとしたが、アヴァンは振り返りもせず、マルキス・ヴェルキスを横に出して、それを制した。
「いいえ、坊や。熱をどうにかしないと、坊やは近寄ることも出来ずに焼かれるだけ。ミスランティア様の制熱魔法が必要よ!!」
刀身を震わせて、マルキス・ヴェルキスはアヴァンに訴える。
「制熱と強化は私が、回復は従僕パストールが行います。攻撃に加わると称号は与えられません。ドレイクナイト、アヴァン・ガルド。見事竜を倒しドラゴンナイトになるのです!!」
ソシエールの杖の先で、精霊人形に憑依したミスランティアが、横坑のかなり先に立つグアラカン・マッハバアニィと名乗った赤竜にペロペロキャンディーを向けている。
「俺が敵うわけないだろ?! それにパストールは既に燃やされたんだぜ!」
吐き捨てるようにアヴァンはそういうと、盾をかまえたままジリジリと後ずさった。
「うそ……、パストール死んじゃったの?」
ソシエールは杖を握りしめ、その場にへなへなと崩れ落ちそうになったが、後ろから支えられ尻餅を回避した。
「え? 燃えてないですよ?」
「パストール!!」
いつの間にかソシエールの後ろにパストールが立っていた。
顔はススけ、服は焼失し、全ての体毛は縮れていたが、首から下は再生していた。
「……盛大に燃えてんじゃん。……服着なよ」
慌ててパストールの焦げた裸身から視線をそらしながらソシエール言った。
「嘘だろパストール! お前、燃えて首だけになっただろ?!」
「アヴァン気を付けて。あの竜人は見た目よりずっと重いですよ。振り下ろす一撃は受けてはいけません」
「……やんのかよ。あんなブレス喰らってんのに、ってか何で生きてんの?」
「やりますよ。って云うか、やるのは貴方ですよ、アヴァン・ガルド。大丈夫、私達には力強い後ろ楯がついています」
全裸神父の励ましを受けたが、先程のドラゴンブレスを目の当たりにしたアヴァンは及び腰だった。
「大丈夫、大丈夫!! 炎と熱からは私と御主人……、ミスランティア様が守りますから」
「そうよ坊や。私達が貴方をおとこにしてあげるわよ」
魔剣マルキス・ヴェルキスはグンニャリ曲がり、アヴァンの顔の横まで切っ先が来る。
刀身の輪郭は歪んで、アヴァンの目の前で女の頭部に変形した。
少し幼さが残るが、白磁の肌とを持つ妖艷な美女の顔が、至近でアヴァンの瞳を覗き込んでいる。
「竜を倒したら、ね。ごほうび。あげるから」
「うへぇ、」
そう言うと、マルキス・ヴェルキスの頭部はアヴァンに口づけをした。
アヴァンは逃れようとしたが、唇を塞がれて呻き声を漏らし、さらに舌を突っ込まれて目を白黒させていた。
「……オホン。さて、前祝いをいただいたことですし、一丁やりましょうか。アチラも口が冷えたようです」
パストールが示す先で、竜人は地響きをたてながらこちらに歩きはじめた。
「配下を呼ぼうともしないとはかなりの自信家のようですね」
ミーちゃんはそう言うと、アヴァン何個かの肉体強化魔法をかけた。
「…………」
パストールは念話を通じてクープから何事かアドバイスを受けている。
「竜が走り出したわ」
ソシエールの叫びを聞き、アヴァンは反射的に飛び出した。
「待って!!」
ミーちゃんか叫ぶが、既にアヴァンとグアラカンは距離を詰めていた。
「ちぃぃ! せっかちね!!」
マルキス・ヴェルキスは小言を言いながらアヴァンの手の中で凶悪な刃に変身する。
アヴァンは得意の横薙ぎフルスイングを敢行し、丁度最高速で刀身と竜鱗は衝突した。
※※※※※※※※
ガキッ!!
「ちっ!」
遠く、馬車の客室でクープは舌打ちをする。
彼はリンドンからトンボ返りしたデルモンドと仲良くならんで床に拡げられた羊皮紙を覗き込んでいる。
「……弾かれたぞクープ。ミスリル以外はバッサリなのではなかったのか?」
「ミスリルより固いとバッサリ出来んと言ったのじゃ……」
「では、お主の使い魔では、あの竜鱗は切れぬのか?!」
クープはデルモンドそう言われて、ムムムと唸り声をあげる。
「あの竜はかなり強そうですね。門番竜の血族ではないかしら」
ミスランティアが話に加わるが、彼女は丸眼鏡を光らせながら少し離れたところにクッションまみれで座っていた。
「……撃破は可能なハズじゃ。まあ、キンキラ剣士の頑張り次第ではあるがな」
「大丈夫か? 拙僧が行こうか?」
早速デルモンドが腰を浮かせるが、クープは僧衣の裾を引っ張って座らせる。
「あの竜は恐らくAAAランク相当じゃろう」
「トリプルAランク……。つまりSランクでなんとか撃破可能か。……では、どう転んでもあの剣士では勝てぬではないか! やはり拙僧が!!」
再び立ち上がるデルモンドの僧衣を再びクープは引っ張った。
「三人で討伐できたら、三人ともAランクをあげましょう」
クープとデルモンドはそう発言したミスランティアを揃って見る。
「剣士、僧侶、魔法使い。破邪覇道の編成は奇しくも私達と同じです。ここで名を上げて、あの子達に、ゆくゆくは五侯国ギルドの一翼を担ってもらいます」
ミスランティアはそう言うと立ち上がった。
「とは言え、勝敗は予断を許しません。いざという時には転送して乗り込みます。クープ、デルモンド。宜しくて?」
「うむ」
「応」
短く返事をしたクープとデルモンドの間にムリムリ割り込んでミスランティアは床に座り直した。




