白羽の矢
テオティワカンは囮だった。大作たちが近くに野営を始めてすぐに、襲撃にあった。神殿の周囲には低い草とわずかな木が立っているだけ。
その陰に隠れるように野営しているところを、突如、無数の毒針が降ってきた。それは、テントをつきぬけ彼らの体にささった。アルマの仕業だ。彼の体で生成される毒針を、神獣組が上空よりドローンのような遠隔ロボットで発射してきていた。
大作たちも応戦したが、少量とはいえ血清のない神経毒に徐々に犯されていく。激しい銃撃戦の末に、ロボット操作をしていた一名を捕獲した。教授はチチェン・イッツァ近く、セノーテの洞窟に幽閉されていることが判明した。洞窟内は冷たい水が流れる迷路だ。案内なしでは進めない。今回は引き上げざるを得なかった。
負傷した大作とともに安蔵が泊に帰ってきた。春馬教授の状況の説明を兼ねて、大作を診療所に連れていった。
「神経細胞を再生して移植すれば大きな神経はつなぐことはできる。しかし、細い神経はとてもつなぎきれない。研究は日本が進んでますが、テストできるのはアメリカですね。とりあえず、大学病院にいくことです。」
春馬先生はメールを使って、どこかに連絡を取っていた。数時間後、引き受け先が決まったらしく、大作は仲間と診療所を後にした。
「セノーテとはやっかいですね。案内人はこちらで探します。」
先生は、心当たりがあるような口調だった。
安蔵は自宅に帰らずに、再び姿を消した。
「富羅。診療所から話したい事があるから来てくださいって。」
翌朝、言われた通り、瑠真を連れて診療所に向かった。
「シナプスという歩く植物を知ってるわね。」
突然の問いに、富羅は瑠真を見つめた。瑠真は感情を表にあまり出さない。首を振るわけでもなく、ただじっとしている。
「瑠真は大作の仲間に監視されてるからね。密かに原発の敷地へ帰した事もわかってるわ。国連がシナプスと直接コンタクトを取りたがってる。ほとんどのシナプスがアルマに協力しているけど、独自の行動も見られる。」
人々の生活は大きく変わってないが、それは人間達がアルマの提示した条件を受け入れたからだ。人間牧場。生活環境を保障する代わりに、飼われることになった。その事実は一部の権力者しか知らない。人類は反撃の機会をうかがっていた。安蔵たちの偵察によって、シナプスがアルマに支配されているわけではなく、小さな集団で、ゆるい協力体制にあることがわかった。コンタクトさえ取れれば、原発施設の開放ができるかもしれない。
「どうしてわたしたちなの?」
富羅としては、得体のしれないことにあまり関わりたくなかった。
「あなたが彼らと意思疎通できる可能性があるからよ。」
そのことは、家族と幼馴染みの数人しかしらないはずだ。どっから、聞きつけたのだろう。富羅は横にいる瑠真のほうへ勢いよく振り向いた。瑠真は相変わらず微動だにしない。
「この子は何も教えてくれない。」
「世界には何人か植物と話ができる人間がいる。かれらには遺伝子上の共通がみられる。この前、採血したときシステムが偶然にも、あなたのDNAにそのパターンを見つけた。だから、会話できる可能性がある。心当たりはないかしら。」
話ができる人間がいた、と過去形になっていた。気になる。
「他にいらっしゃらないんですか?」
自分より適切な人間がいるだろう。
「シナプスは人間を信用していない。でも、あなたたちが助けたシナプスなら話ができるかもしれない。」




