スパイ大作先生
「表の松の木陰にいつも一人隠れているわ。」
富羅は、窓からそっと表を見たが、誰も見えない。
「見えない?よく、松の根元の草むらを見てごらんなさん。なにか気付かない。」
そういわれて、再度、まばたきもせずに目を凝らす。風は、右から左へ吹いている。それにあわせ地面の草むらも左から右へと揺れている。
あれ?いいんだっけ?
「最近のスパイは、忍者と同じ。テントの表面に周りの風景を写してるのよ。」
映画のようなハイテクだ。EUでは同じようなスーツがすでに使われているらしい。
「湖に行くと、浮き板の上に腹ばいになって見張っている。緑の迷彩柄を着て葉っぱをつけたヘルメットをかぶり、中央がくぼんでいる甲羅のような浮き板を背負ってつけてくるわよ。最近は暑いからヘルメットに水をかけながら冷やし胡瓜をかじってる。まるで河童ね。」
古いのか新しいのかわからない。
「Mr.大作は今のところ、私達の見方。日本政府がつけたボディーガードってとこかしら。元地元の体育教師。そっちが本職らしいけど。」
富羅は、その名前に聞き覚えがあった。中学で彼女の担任だった。小淵沢大作先生。新任で入ってきて三年間もちあがりで、一緒に卒業した。一身上の都合とかいってたけど、こんなことをしていたとは。とりあえず、知り合いということは伏せておこう。
「あの子はずっと施設で大人たちと暮らしていた。同年代の友達がいなかったら、失礼な振る舞いがあるかもしれないけど。」
確かにある。言いたい。でも、親に告げ口するほど卑怯者にはなりたくない。さらに、息子以上に、親も気になる点が多いけど。
今日は重要な話があったんだ。両親の考えが時々わからなくなることがある。
「私が寮暮らしなので、両親は普段、二人暮らしなの。だから、また、息子さんが倒れると大変だから家に来てもいいと伝えてくれって。」
富羅は、目の前の女医の顔を覗きこんでゆっくりと話した。
「ありがとう。でも、やめておくわ。迷惑がかかるし、あなたたちまで監視されるわよ。」
富羅はホッとした。
「やっと、緊張が解けたみたいね。」
いけない。本音が顔に出てしまっていた。
「とにかく、あの子は知識は大人でも、生活の経験は子供なの。色々教えてあげてね。」
色々って、富羅は顔を赤らめた。変な意味じゃないことはわかってる。わかっているけど、体が勝手に反応する。




