新種
ある日、変わった形のウィンガロンが島の隅で産まれた。島には、時として、野生の翼竜たちがやってくる。家畜化されたウィンガロンは母性が強く、つがいで子育てをする。しかし、翼竜の中にはかれらの巣に卵を残して去ってしまうものがいた。託卵。現代ではカッコウなどの鳥類に見ることができる。島の隅の巣に産み落とされた卵からは真っ白な翼竜の子が生まれた。その子はやがて他の卵や雛を巣から追い出し、自分の子だと信じて疑わないウィンガロンの両親に大切に育てられた。緋色の体の両親から生まれた白亜の子は、すぐに地底人シナプスに発見された。
「こんな雛は初めてじゃ。」
光沢の無い茶色い鱗の地底人が言った。彼女はここの地底人の長であった。かれらの鱗は年とともに鮮やかな緑からくすんだ茶色へと変化する。
「よくないことが起こらねばよいが。」
家畜となるウィンガロンは、自力で餌が食べられるようになると親元を時折離れ、シナプスとともに暮らし始める。白亜の子はベシカの息子のジャバヤに預けられた。
シナプスとウィンガロンの信頼関係を築くには、子供のころから一緒に育てる。そうすることで、阿吽の呼吸が身につくのである。白亜の翼竜はパイソンと名づけられた。
パイソンの食欲は半端なかった。日に自分の体の半分ほどの肉を食べた。翼竜たちは通常1年ほどで飛びはじめる。しかし、パイソンは飛ばなかった。彼の体はすでに彼の両親の倍以上はあった。その体を飛ばすためには翼は通常の4倍以上の大きさが必要だ。彼の羽は貧弱過ぎた。
ある日、島で1頭のウィンガロンが消えた。家畜であるウィンガロンが島の外へ自力で出て行くことは無い。彼らは海からの上昇気流に乗るために崖から飛び立つ。そのため、たまに飛行に失敗して海に落ちるものはいた。その数日後、パイソンは飛んだ。かれの翼は赤くなり、飛行するのに十分な大きさとなっていた。