表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンデラの森の黒き魔女  作者: 暫定とは
プロローグ『伝承』
1/77

1

 ――かつて、そこに森はなかった。


 遥か(いにしえ)のことである。

 広き世界の何処(いずこ)かに、漆黒の衣を纏いし、(あか)き瞳の命があった。

 血脈は持たず、呼吸のない、神霊(しんれい)の類の者である。

 その身の丈は至大(しだい)にて、人々は()れを畏敬崇拝(いけいすうはい)す。


 この者、人の世の(けが)れを喰らい、浄化、再生す特異の力を持つ。

 また、此れを守護する眷族(けんぞく)の人々もあり。名を巫女の一族と称す。

 巫女の者共、()の者の力の一部を借り受け、その力を振るわん。

 代償として、その爪、髪、瞳は黒く変色す。


 人の穢れを喰らう中、穢れによりその姿は(おぞ)ましく変わりゆかん。

 人の為にとその力使えど、その忌まわしき姿を恐れる人もあり。

 黒き巫女の一族と共に忌み嫌われ、(やが)て人々はこれを『魔女』と呼び、迫害す。


 魔女と巫女の一族は新天地を目指し、人里離れた()()へと根付く。

 人の世からは見放されど、人の世の為、その力振るうことを惜しまず。

 然してそれも長くは続かず、隊列を成した鎧の者共、この()()をも追う。

 逆らうも逃げるもその(すべ)はなく、対話の時すら与えられず。

 蛮族(ばんぞく)の剣と弓矢にて、とうとう虚しくその命を散らす。


 幾つ穢れをその身に重ねど、人を恨まぬ魔女であったが、死を以て積年の穢れと共に、呪いをその地に振り撒かん。

 魔女の命は泉となり、魔女の怒りは森となった。

 泉湧くこと嗚咽の如し、森萌ゆること火の如し。


 泉を棺として魔女は眠り、木々は巫女を除くすべての人を喰らった。

 魔女を失った人の世は、この(のち)、長きに渡り、激しき戦乱に見舞われん。


 終天(しゅうてん)の時は過ぎ去れど、未だ森に人は寄り付かず。

 然して史実を知る者は凡そなく、文献の類もそれに同じ。

 根葉(こんよう)のない噂噺(うわさばなし)と、(ふる)き名だけがその地に残されん。


 森の興りに畏れた者が、ぽつり口から零したそうな。

 人々への、祈りを忘れた報いの炎、――『終末の(エンデラ)』と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ