第六章 楊麗華と幼妻 四
宇文温は、結婚してからも尉遅熾繁をよく可愛がった。
先妻を失った悲しみも、幼げな笑みに段々と癒されていく。
童女の好みそうな品を度々取り寄せては熾繁を喜ばせ、時には人形で一緒に遊ぶことさえもした。
彼はその名の通り温かい人柄だったので、祖父も両親も、そして熾繁自身もホッとしたようだ。
このさい、年齢差などはどうでもよろしい。
しかしその四年後、皇帝邕が隣国である『北斉』との戦に親征することとなったので、熾繁の夫『温』も、皇帝の剣の一本として従軍することとなった。
温の父である杞国公・宇文亮もまた同様だ。
伽羅の夫である楊堅も、戦の要所を任された。
ここからがややこしい。
厳しい父帝が重臣を引き連れて親征したので、太子の頭を抑えられる者が宮中から居なくなった。
皇帝邕は、尉遅迥の意を読んで「尉遅熾繁が欲しい」とは言い出さなかったが、太子自身は『極上の美少女』と評判の尉遅熾繁を諦め切れていなかったのだ。
そこで、
「尉遅熾繁を我が宮に呼べ。一度顔を見てみたい」
と臣下どもに命じた。
父帝がおらぬので、近頃は気分伸びやか、常に上機嫌な太子である。
しかし臣下の一人が眉をひそめた。
「は。しかし、尉遅熾繁はまだ童女とも言える十二歳。
出征した夫の留守を守るのに精いっぱいでございましょう。
呼びつけるのであれば、西陽公(宇文温)のお帰りを待ってから、夫婦揃って御前にお召しになられるのがよろしいかと存じまする」
と、上言した。
実は『のびのび』と言っても、うるさい目付はまだ残されていた。
嫌な予感がしたので、彼は遠回しに尉遅熾繁を呼ばぬ方向に持っていこうとする。
そして、宇文温が戦から戻ってくるということは、すなわち太子の頭を押さえられる皇帝邕が宮中に戻ってくるという事だ。
「うるさいわ。ちょっと顔を見るだけじゃ。
臣下の宗婦(嫡男の正妻)が太子にあいさつも出来ぬのか?
夫が出征中であれば、一家を代表して太子のご機嫌伺ぐらいはするものじゃ。
幼い妻だと不出来じゃのう」
太子は自分の不出来さを棚に上げてそんなことを言う。
その言葉を受けて、左右の佞臣がしたり顔をした。
「幼妻に礼儀を教える良い機会でございますな」
「まったくでございますなぁ。早速人をやって呼びましょう」
と、こうである。
実は佞臣らも、美しいと評判の尉遅熾繁を一目見てみたかったのである。
さて、熾繁の運命やいかに。




