第一章 虎殺しの少女 十一
「楊将軍様。
もしや父が、無理矢理あなたさまをお連れしたのではございませぬか?」
伽羅がそう優しく問うと、楊堅は首を振る。一応、自分の意志で来たようではあった。
しかし、それきりまた、沈黙が流れる。
伽羅は、再びこちらから話しかけることにした。
「わたくしのことを父は、あなたさまにどのようにお話ししていたのでございましょうか?」
そこは少々気になるところであった。
小さなころからお転婆で、一番の趣味は狩猟である。
姉たちと比べて著しく気が強いうえ、書を読ませれば年かさの兄たちを飛び越えて難しいものを読みまくる。
あまり男受けする性格とは言い難かった。
さて父は、愛娘をどのようにして売り込んだのであろうか。
伽羅が様子をうかがっていると、楊堅がやっと重い口を開いた。
「それが、貴女の父上様は……実は貴女のことを……」
なにやら細々と続けるが、伽羅には聞き取れない。
長身の若者が発するとは思えぬような、蚊の鳴くような小さな声なのだ。
「何とおっしゃいまして?
将軍様でしたら、もっと堂々と大声で話されるものですわ」
伽羅がそう言っても、楊堅は目を反らしたままだ。
無口なこと自体は問題ない。
そういう無骨な者は世に多いと聞く
だが、夫となるやもしれぬ者の人となりや考えは、もっと知っておく必要があると伽羅は考えた。
今は北魏の時代と違い、民族固有の文化も大事にしようというのが国策であるが、漢文化の影響は計り知れない。
まさかとは思うが、漢族風が大好きな父が『従順な女』として売り込んだやもしれぬのだ。
女らしさや従順を強要され、泣き暮らすようなことにだけはなりたくない。
しばらく待ってみたが、やはり楊堅は口をもごもごとさせたままだ。
ここにきて、伽羅は少しいらっとしてしまった。
「わかりました。
きっとお父様はこうおっしゃったのでございますね。
『名家の娘だ。変わり者だが、娶っておけば出世も思いのままに出来ようぞ』
それであなたさまが、わたくしを利用しようと屋敷においでになられた、というわけですのね」
楊堅は、ハッと顔を上げた。
「違いまする!
ただ、先日貴女のお父上様と二人きりで話す機会がありまして、女の好みを問われたのです。
それで…………」
「それで、どうのように答えたのでございましょう」
伽羅は身を乗り出して、問い詰めた。
果たしてこの男の好みとは如何に。




