華麗
くぅぅ
気がつくとやはりお腹がペコペコだったので
夫に見つめられたまま、1人食事をとるのは
なんとなく気恥ずかしかったが、
ふと、運ばれてきた料理の食器に目をやると
それはフタつきの少し深さのあるグラタン皿だった
ヵ、
(カレーだ!!!)
思わず声に出しそうになったのを彼女は慌てて飲み込んで、心の中でそう叫んだ!
彼女はカレーに対して大きな思い入れがあり、ある種特別な感情さえも抱いていた
思い入れ
それは夫と初めて出会った日のエピソードのことだった
初めて会ったのは彼女が生まれ育った街だった
「私が案内するわっ」
得意げに彼女はそう言って夫の先に立って街を案内してくれた
『少し買い物とか出来ればうれしいんですが・・』
そういう夫の要望に応えるかのように
彼女はこの街で一番の繁華街に夫を案内しようとした
『結構都会ですよね~ この街は~』
そう言いながら
この時、実は夫はとてつもない不安に襲われていたことを彼女は知る由もなかった
この街は日本でいう
大都会>都会>それなりに>いろいろあるよ>コンビニあるよ>自給自足
この図式のいわゆる『都会』に少なからず当てはまる
しかし夫の住む街は
いろいろあるよ>コンビニあるよ
のどちらの部分にも当てはまる
彼女の住む街並み、
行きゆく人たちの約8割程度の人間が赤いキャップを被っていること
トゥクトゥクが道路を走っていないこと
クルマのナンバーの約8割程度が山口ナンバーではないこと
これらの情景は、夫にとって新鮮さを通り越してもはや異端であった
(なんかえらい高級ブランド店が集まっている場所に連れてこられたな・・)
手持ちの財布には現金はおよそ200万ウォンほど入ってはいるものの
何かをオレにねだって買ってもらおうとでも考えているのだろうか
結構そういうタイプなのかな、このコは
そんな夫の心配もお構いなしに
彼女は繁華街のショッピング通りを横目にどんどん突き進んでいく
やがてだんだんと人通りも少なくなり
二人の目前にはなんとなく緑が広がってきた
どうやら完全に繁華街は抜けたように思える
夫は恐る恐る彼女に聞いてみた
『あのー・・・まだ歩くんですか?』
彼女はすぐにこう答えた
「この先に公園があるんです!そこは桜も咲いてて気持ちいいか・・」
「ん なんかいい匂いしますね」
そう言って彼女が後ろを振り返った先には一軒のカレー屋さんがあり
独特の芳醇な香りが辺り一帯に広がっていた
「わぁ美味しそうな匂いしますね あたしカレー大好きなんですよ!」
『えっ!?そうなんですか 実はボクもカレー大好きなんですよ』
後にも先にも
プロポーズに近いコトバはこれだけだったと彼女は記憶している
その、カレーを
彼女だけではなく
おそらく夫にとっても大きな思い入れのあるカレーを
夫は今、私に作ってくれて食べさせようとしてくれているんだわ
その気持ちがうれしかった
ただただうれしかった
彼女の二重の瞳が二度三度とまばたきをし、
その度に涙の粒が食器のフタの上にこぼれ落ち『ジュウジュウ』と音をたてた
『ほら!早く食べてしまわないと冷めてしまうよ!』
そうね
「私たちの愛がさめないうちにいただくわね」
彼女はその涙が蒸発しかかり、
泡状にまだ踊っている食器のフタをすっと持ち上げワクワクしながら中を覗き込んだ
中には美味しそうなボルシチがアツアツの様相で煮立っていた