救出
「あきらめないで あなたのお肌」
その懐かしくも優しい声は彼女の折れかかった心を奮い立たせた
そういえば夫が結婚当初に、
ううん婚前付き合っている頃からよくこう言っていた
「どんな苦境や困難な時にでも、心さえ折れなければなんとかなるもんだ」
「昔、この地方の大名である毛利元就が三人の息子たちに言った・・」
「一本の矢ではこのようにして簡単に折れてしまう」
「しかし、この矢が三本重なれば、ほうらなかなか折れないだろう」
「だから三人の息子よ、お前たちもどんなに苦しい時にでも・・」
「決してあきらめないで あなたたちのお肌」
そう言って夫はそばに置いてあった色鉛筆の赤色と水色と群青色を無造作に取り上げ
三本重ねて一瞬のうちにへし折った!!!
まるで、自分はアラフォーになった今現在でも
ちょうど洗いたての肌着をつけているかのような
柔らかソフラン仕上げの美肌を持っていることを一所懸命誇示しているかのように見えた
その時、彼女は
(あぁ、このヒトは今まで周りのヒトたちから美肌を持っているが為にずっと不遇な扱いを受けてきたんだわ!)
と、即座に感じ取った
だってそうでしょう
誰だって吹き出物に悩んでいるその隣り辺りで
つるつるお肌のガタイのいい男に
プロアクティブのCMソングを一言一句、ワンフレーズの間違いもなく
完璧に歌い込まれたら
やっぱり彼女だって(私に対する)嫌味なのかしら?って感じるはずでしょうそうでしょう!
しかぁーも(クレアラシルふうに読むこと)
その歌声が、ガタイのいい筋骨隆々のおっさんからは想像できないくらいに
美声なんです♪♪
神の声の持ち主なんです!
私にとってのMUSIC LOVERなんです!
あきらめない!
私、この夫の想いに応える為にも、
こんなところでは終われない!終わるわけにはいかない!!
意識を失い倒れゆく彼女に
かりんとう型のKH-01たちがおいでおいでと手招きをしている
はっ!と意識を取り戻した彼女の目前すぐには
床の木目と木目の間のちょうど真ん中にまるで計ったかのように平行に
かりんとうのひとつがポトリと置かれており
右と左でキレイなシンメトリーを形成していた
「あぁ、キレイだな」
「もう・・眠いや・・夫には悪いけど・・少しだけ休ませてもらおう・・・」
彼女の心の中の色鉛筆の三本目が折れて、中から赤い芯が飛び散った
心が折れてしまった今となっては、
その肉体を無意識で支えることは到底できない
彼女の体の一部がいよいよ床面のかりんとうに触れようとしていた
その時!ふいにトイレのドアが開いた
『あきらめたら そこで試合終了ですよ』
夫はガッシと彼女を受け止め、抱き起こしてからほっぺに軽く抱擁をした
見ると、パンツ一丁に上はラクダシャツというなんともジジくさい格好の彼で
彼女は開口一番
「まあ!とんだ格好悪いヒーローがいたもんね!」
『おいおい、助けてもらっておいてそんなセリフはないだろう~』
『こいつぅ』
そう言って夫は右手の人差し指で妻の鼻先を軽くこづいた
彼女にとって、
トイレ用足し中の その少し臭う夫の指先の存在がなぜだかうれしかった
ガラス戸向こうのリビングでは、
ワン ワン と吠えまくる犬の鳴き声がかすかに響いていた