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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

単発恋愛系

誘拐されたけど逞しく元気に生きてたりします。

作者: 柏いち

 

 ギンディスク国の公爵貴族の娘が誘拐された。そのニュースが街に流れた時その公爵が治める土地に住む民達は涙を流した。なぜなら娘____エーファは民達にとても優しかったからだ。そしてその家族も良い政治をし、民に愛されていた。さらにエーファが誘拐されたことは王族さえも悲しませることになる。国を挙げて調査した結果わかったのは一つ、エーファは見つからなかったということだった。エーファの両親、公爵と公爵夫人はそれはもう悲しんでしまったそうだ。その兄のテンファとリンファも拳を机に叩きつけて壊してしまった。エーファが10歳の頃に誘拐されて五年。ギンディスク国は隣国に攻められ窮地に瀕していた____。



 *****



「エーファぁ………オレもう疲れたわ、あとは頼んだ。」


 そういってごろんと地面に寝転んだのはアークと呼ばれる今年十八になる男だ。頭のてっぺんで結んだ長い銀髪が土で汚れる。


「は? 私だって嫌ですけど。ボーンの解体なんて。」


 金色の髪をこれまた頭のてっぺんで結んだエーファは綺麗な顔をくしゃりと歪ませて解体していたナイフを振り回す。なんだこいつ、そんなひどい顔である。

 アークはナイフをひょいひょいっと躱すと座り直しいかに自分がこの作業が面倒臭いかを語り始めた。


「だからさ、わかる? オレもう十八な訳。エーファちゃんより三歳も年寄りなの。若い人に任せてちょーっと楽したいな、なんて思うわけよ。だからエーファちゃんちょっと一人で頑張っ」


「エーファちゃんって呼ばないでくださる? 気持ち悪い。」


「そこ!? そこなの!? そんなウジ虫を見るような目で見ないで。傷つく……。」


 つべこべ言わずさっさと解体しろとエーファはナイフを無理やりアークに持たせた。ボーンの解体は大変だが解体して売れば普通に売るより三倍の値がつく。そもそもボーンという獣が狩れるのはほんの一握りの実力者なので元の値も中々なものなのにこの二人は満足しないらしい。


「ったっくめんどくせぇ………。ところでお前の国大丈夫なのか? こんなにのんびりしてても。」


「煩いですわね。こっちだって心の準備がいりますのよ。」


 まあ、そうか。アークに戻る国はないし家族もいないからわからないが普通はそういうものなんだろう。五年だ、五年も会っていなければ戸惑うのかもしれない。それも自分の家族がいる国が滅ぼされそうになっているのだ____。アークは少しだけ反省し黙々とボーンを解体する。


「……だって私、こんなに美しく育ってしまいましたから。お兄様方にも気付いて貰えないかも……。」


「オレの反省を返せ。十倍にして返せ。」



 こうして軽口を叩き合う二人だが最初の頃は気まずかったのだ。主にアークが。


 五年前、アークはぶらぶらと物乞いをしながらなんとか生き続けていた。村も家族も全て焼け残ったのはアークだけ。死に物狂いで獣と闘い殺し、それでなんとか十三まで生きてきた。口で言えば簡単に聞こえるが凄く辛い人生。そんな中アークは森の外れで倒れている女の子を見つけた。それがエーファだった。最初の頃のエーファは人を怖がり命を助けたアークにさえ警戒を解かなかった。それでもアークはエーファの世話を焼き続けた。自分が持つ技術を教え一人で生きていけるように剣も教えた弓も教えた解体も教えた料理も教えた。貴族の娘であったエーファに出来るのは少ないかと思われたが予想を裏切り自分を超えるのではないかというほど成長した。

 今では彼女は自分にとって相棒である。それだけは言える。


 エーファはきぃきぃと怒るアークに無視を決め込め五年前を思い出す。


 エーファは公爵家の長女だった。優しい両親や兄達、そして民に愛されてごくごく平和な生活を送っていた。そんな中世話役が少し離れた間にエーファは四人の男に誘拐された。怖かった、凄く。やめて、と言えば殴られナイフで兄達に褒められた髪を切られ、両親から貰った服をズダズダに切り裂かれた。地獄のような日々は一ヶ月ほど続いた。そんな時だった。ナイフを手にしたのは。たまたま男達が酔っ払い寝ている時に鍵がかかっていない箱を見つけたのだ。それで全員を一刺しし、動けないようにして逃げた。死んではいないだろうがそれだけでこの地獄の日々から抜け出せたなんて、エーファは唇の端を歪める。

 そして森の中を逃げ疲れて倒れた時、アークと出会った。最初は不気味だと思った。あの男達は地位のある自分を誘拐したがこの男は違う。今の私には何もない、それなのに何故世話を焼くのか____。結局絆されたエーファはアークが自分を手放そうとした時もアークの元へと戻ってきた。

 彼は恩人であり、相棒である。


 時間は流れつい一ヶ月前。エーファは衝撃を受けることとなる。

 家族がいる国_____つまりギンディスクが隣国のジュノンに攻められ奪われそうになっているらしいと聞いたのだ。

 それを聞いた時のエーファの反応は凄まじかった。 持っていたダイヤモンドで出来ているナイフをポッキリと折ってしまったのだ。かなりめにアークはひいた。

 それから二人で話し合って結局ギンディスクから四つ国を跨いだ地からこのギンディスクまでやってきた。


 二人の目的は二つ。

 一つはジュノン国の王を暗殺すること。ジュノン国の暴挙はアースとエーファが属するギルドからも目に余ると考えられている。力の弱い国を吸収し、奴隷を禁じられているこの世界でその禁忌を犯している。そのため正式にギルドから御達しがきたのだ。彼等が所属するギルドはどこかの国に属しているわけではない。だからこそ自由、多少ギルトの人間の私情が入ったとしても問題はない。


 二つめはエーファと家族を会わせる事だ。帰るタイミングを逃したエーファは自分から家族に会いたいとは言わない。それに気付いているギルトのメンバー達はエーファに内緒でアースに任務を下した。任務を下されなくともアースならばそうしたであろうが。ギルドのメンバー達から見てもアースとエーファの絆は一等強い。


「わかってるよな。」


「ええ、勿論。」


 アースがジュノンの王を暗殺し、エーファがギンディスクの王子を保護する。それが二人の計画だった。

 ボーンが綺麗に解体されて辺りが暗くなる。


「ま、気楽にいこうぜ。」


「ヘマでもして殺されないように気をつけてくださいまし。」


「お前もな。」


 軽口を叩き会った後、エーファとアースはそれぞれの任務を果たすために別の方向へと走り出した。




 ******



「はははは…………はは!!!!」


 ジュノンの王____フリオスは赤く塗られた地図を見ながらワインを飲み愉快そうに笑った。笑う度、肥えた腹が揺れる。赤く塗られた地図が示すのは今まで自分が略奪した土地だ。そこに大国であるギンディスクが入るなどなんと愉快な事であろうか。

 ギンディスクは手強かった、だが所詮は平和ボケした獣と同然。毒を川に流し込み、混乱させたあと襲えば難なくこちらが有利に立つことが出来た。毒のせいで水も満足に補給できないギンディスクはそれはそれは弱かった。


「あと何日あれば陥ちる。ああ、早くギンディスクの王や王子が奴隷へと落とされて屈辱に震える姿を見たい……。そうだ、あそこの姫は美しかった。少し味見をしてもいいかもな。」


 フリオスは舌なめずりをする。


「____楽しそうですね。」


「誰だ?」


 背後から声がし、振り向いた瞬間首筋にひやりとしたものが当てられた。

 それに焦り護衛を呼ぼうとするがもう遅い。ドアを見ると倒れている護衛を見つけてしまった。


 ____馬鹿な、あれはジュノン一強い………。


 首筋に当てられたものはやはりナイフのようだ。

 男の顔は覆面を被るわけでもなく素顔のままで美しい。


「何が目的だ! ………金か? 金ならたくさんある!」


「はじめまして。トゥルーギルドから派遣され、やってきましたアークと申します。」


 フリオスは自分の話に耳も貸さず淡々と笑顔で喋り続ける麗しい男に恐怖した。

 トゥルーギルド、それはこの世界に生きている人間ならば誰でも知っているギルドだ。唯一、国に属さず世界各国の優秀な人間が揃っているギルド。また世界の秩序を守っているギルドでもある。

 ギルドという表現よりも力のある世界の警備隊といった方が似合うかもしれない。


「貴方は少しやり過ぎました。」


「待ってくれ! 俺は………。」


「それでは永遠の眠りを。」


 その瞬間鮮血が飛び散った。

 アークは顔に飛んだ血を汚らしそうに舌打ちをし、拭うと部屋の奥にある窓から何処かへと消え去っていった。


「やっべ、意外と高かったわ。ここ。」



 ******


 追い詰められた、テンファは痛む右脚を庇いながら弟のリンファを見やる。リンファも頭から血を流していて絶好調とは冗談でも言えやしない。テンファとリンファはギンディスクの王国騎士だ。そして二人の仕事は王子の護衛である。


「テンファ! 私から離れろ。こいつらの狙いは私だ。」


 自分たちの後ろでそう叫ぶ王子の言葉を不敬ながらも無視しテンファは剣を構え直す。

 敵の数は二人に対し、五十人近く。その中には手練れもおり、とてもじゃないがテンファとリンファで始末できるような数ではない。どうにかして王子だけでも逃さなければ。


 ただ、リンファもテンファも心残りが一つある。

 愛しい妹にもう一度会いたい。願わくばそれが天国ではなく生きているうちに。


 テンファは大剣を振るい、二刀流のリンファは二つの剣を振るう。


「リンファ!」


 敵に腹を切られたリンファが体勢を崩す。

 テンファが駆けつけようとするがそれよりも速く、敵の剣がリンファの首へと___。


「あら、私の兄様に手を出さないでいただけます?」


 可愛らしい鈴のような声が聞こえた。

 その瞬間リンファへと降ろされていた剣は吹っ飛び反対に敵から血飛沫が飛び散る。

 テンファは目を大きく見開いた。兄様、そう呼ぶのはただ一人。昔誘拐された愛しい妹だけだ。

 同様にリンファも目を開き驚いている様子だ。


「私の国に手を出したこと、後悔してくださいな。」


 エーファは銃を持つとそれで敵を撃ち殺していく。百発百中、全てそれは敵へと吸い込まれていき息の根を奪っていく。その鮮やかな腕前にテンファは唖然とした。あれが、エーファ?


 半分ほど撃ち殺した後だろうか、エーファの弾が無くなった様だった。

 敵はそれを見てエーファへと襲い掛かる。


「っ危ない!」


 リンファが叫んだ。

 エーファは焦る様子もなく敵からの剣を素手で止める。そして一発蹴りを入れると敵は一瞬で意識を刈り取られた。


「やっぱりこっちの方がしっくり来ますわ。」


 そう言って笑ったエーファの顔が相手には死神同然に見えたのだろう。敵は悲鳴をあげ逃げようとした。

 だが、それも叶わずエーファの拳と蹴りの餌食となる。

 全ての敵がそこに倒れたあと、王子もテンファもリンファもただ呆然とするしかなかった。


「エーファ、なのか?」


「ええ、お兄様。貴方の妹のエーファですわ。お久しぶりです。会いたかったですわ。」


 少々、というかかなりお転婆な様子だがエーファが生きていたことにテンファとリンファは涙を流しエーファを抱き締めた。

 エーファの幼馴染であった王子もまた、涙を流し再開を喜んだ。



 ******


「エーファ!」


「お母様! お父様!」


「生きてたのね、よかった………。貴女にもう一度会うことが出来て本当に本当に嬉しいわ。」


 ここはある公爵家の屋敷の中。あの後テンファとリンファに連れられエーファは数年ぶりの自宅に戻っていた。久しぶりに会う両親は少し老けていてエーファの目には涙が滲んでいた。


 エーファと両親は抱きしめ合い再開を喜んだ。

 それをテンファとリンファと王子は微笑ましそうに見つめる。


 ギンディスク国はというと、ジュノン国の王が死んだという一報が入った途端急速に押し返しジュノンに勝利を治めた。指導者を失ったジュノン国はみるみるうちに弱体化していき、今まで吸収して来た小さな国々にも敗戦をしている様だ。ただ、その王を殺したのは誰なのか____それだけは闇の中にある。


「エーファ、おかえり。これまでのことを話して貰ってもいいかい?」


 エーファの父がそう言うとエーファは今までどうしていたのかを話し出した。但し、危険だったことは伏せて。


「そうなのか………。その助けてくれた人にお礼をしないとな。」


 だから言えたのは誘拐犯から逃げた後人に助けて貰い、そこで暮らしていたと言うこと。間違ってはいない、ただその過程で殺されそうになったことだとか、トゥルーギルドへ入ったことなどは話していない。多分、話したら母親がぶっ倒れる。


「これからはずっと一緒にいれるな。」


 テンファが笑顔でそう言う。

 それにきょとんとした顔でエーファは首を傾げてみせた。


「私、その方の元へと戻りますわ。」


「「「は?」」」


「私、もう死んだことになっているでしょう? まだ、あちらでやり残したこともありますし………。」


 テンファとリンファは物凄い速さで否定するとエーファの手を離さないとぎっちり握った。

 両親や昔からいる執事も行かないでくれと懇願する。


「元々、私王子の婚約者でしたけどもう新しい婚約者もいますでしょう? 私がいても混乱を招くだけですわ。」


 王子が慌てて否定する。初恋を拗らせた王子は15歳になった今も尚新しい婚約者を迎えようとしないのだ。


「お母様、これが私の住んでいる住所です。何かあったら連絡してください。」


 そう言ってエーファは紙切れを渡すとテンファとリンファの手からするりと抜け出しエーファの背よりも高い大きな大きな窓を開ける。


「それでは、また。必ず会いにいきますわ!」


 トン、とそこからおもむろに宙に浮いたエーファはそのまま重力に逆らわずに落ちていく。

 ここはかなり高い、落ちたら無事では済まないだろう。エーファの母は腰を抜かし悲鳴をあげ、王子やテンファ、リンファはそこの窓へと駆け出した。


 下を見るとエーファは誰かに抱かれていた。世に言うお姫様抱っこというやつで。

 王子の窓のさんを握る手がギリギリと悲鳴をあげる。

 自分をみる兄や王子に気付いたのかエーファは手を振り、そしてエーファを抱く銀髪の男はそのまま走り去った。



「っ追えーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!」


 テンファの声が屋敷中に響く。そして王子も王城へと使者を使って至急連絡を取るのであった。




「なあ、エーファ。ちょっとお前太っ、いだだだだだだだっ悪いっ悪かった。申し訳ありません!」


「ふんっ、わかればいいのですわ。」


「………はあ。いいのか? もう家族は。」


「会おうと思えば会えますし、それに……。」


「それに、なんだよ。」


「なんでもないですわ。」


「……ま、こんなお転婆なお嬢様と居られるのもオレくら、いたいいたいいたい! 蹴るな! お前の蹴り痛いんだって!」


「調子に乗らないでくださいまし。」


 そう言ったエーファの顔が赤くなっていたのをアークだけが知っている。


お久しぶりです。

何故かエーファさん、ツンデレ感出てますね。

二人の間にまだ恋愛感情はないと思いますがもしかしたら………。

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