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鉄屑インテグレーション


 アリアの体調は次の日にはすっかり良くなった。

「元気はつらつ!」

 鶏よりも大きな声をあげ、布団をはねのけてアリアは伸びをした。

「おはよう! ロク!」

 十一月中旬の朝はひどく冷え込んだ。柔らかい朝日を浴びながら、リビングでエフピーシックスに微笑む。

 制服に着替えたアリアは、鼻歌混じりに朝食をたいらげると、勢いそのままに学校に向かった。

 飛ぶような足取りも学校に近づけば近づくほど重くなる。

 仕方がないことなのかもしれない。

 アリアは学校が嫌いだった。

 特有の息苦しさが田舎効果で相乗している、と以前不機嫌に語られたことをエフピーシックスは思い出した。

 アリアは教室の後ろのドアからこそこそと教室に入った。


☆☆☆☆☆


 学校は嫌いだ。

 転校生として最初はちやほやしてるくせに、私がつまらない人間だとわかるとすぐに手のひら返して、潮が引くように去っていく連中ばかりだからだからだ。

 どうせまたすぐに転校するんだろ、みたいな態度をとられると私だってさすがにおざなりな対応をとらざるを得ない。

 陰口悪口を愚痴愚痴と陰湿なつまらない話を延々と語る連中も死んでほしい。自分達の声がでかいということをまず自覚すべきだ。

 そんな人たちばかりの都会の学校から、私はいま身内にはとことん甘く外からきた人間にはとことん厳しい田舎の高校に通っている。

 都会だろうが、田舎だろうが、高校生は等しくクソみたいな人間ばかりだ。

 だけど、我慢しなくちゃならない。円滑な人間関係は目立つことを嫌う私には必要不可欠なのだ。

 それに、今日は一つの目的があって、来たんだ。

 胸を覆うモヤモヤが晴れるかどうか、私は密かに期待している。


☆☆☆☆☆



 教室は嘘のざわめきに満ちていた。アリアに違和感を与えないための措置である。

 クラスメート二十人。人型をしているが全員機械である。簡単な受け答えしかプログラムされていない。アリアがコミュ障で良かったとエフピーシックスは常々思っていたが、

「おはよう、花ちゃん、太郎の様子はどう?」

 今日はなんだか様子が違った。

 アリアがわざわざ隣の席の女子に声をかけたのだ。こんなことは初めてであった。

「太郎は元気だよ」

 生気のない表情で女型アンドロイドは答えた。精巧にできているが、彼女に意思などはない。簡単な受け答えをおうむ返しのようにするだけである。

「そう。それなら良かった」

 アリアが話しかけたアンドロイドはかつてのクラスメートの外見を模しただけの存在である。データの集積は外星生命体が行ったので詳しいプロセスはわからないが、あまり深く突っ込むとボロが出る。

「いま、何歳だっけ?」

「わかんない」

「え、あんなに溺愛してたのに?」

「そうだね」

「ふーん……散歩は毎日行ってるの?」

「そうだね」

「そっか。最近見ないからさ」

「そうだね」

「なんで?」

「なんでだろう」

「……」

 アリアの瞳が静かに曇った。これ以上はまずい。

「犬の散歩は毎日すべきって花ちゃん前に言って……」

「はい。みんな、席につけ」

 教師型のアンドロイドが入ってくる。会話を中断させるためだ。

「淵野辺。はやく席につけ」

「はい」

 しぶしぶといった風に席に戻るアリアを見届けると教師型アンドロイドは抑揚のない声で出席を取り、教室を出ていった。

「おかしいよ……」

「なにが?」

 アリアの独り言に後ろの席のエフピーシックスは反応した。

「全員登校してる」

「なにもおかしくなくない?」

「一学期休みがちだった石田くんや不良の水無月くんも休まず登校してるんだよ。先生はそれに対して誉めるとかないし、……おかしくない?」

「べつに学校に毎日行くのは普通じゃない?」

「そうだけどさ……。みんな、あんまり学校楽しそうじゃないだもん。私が言えたことじゃないけどさ」

 ロボットに楽しいという感情は備わっていない。エフピーシックスだってわからないし、アリアもおんなじはずだった。

 そのはずなのに。


☆☆☆☆


 疑念が確信へと変わる。

 私はもっと早くに周りに目線を向けるべきだった。

 いまはただ、その後悔しかない。

 目をふさいで耳をふさいでばかりいたから、些細な変化を見逃してしまったのだ。いつからだ?

 決まっている。

 下らない学校行事で、足を滑らせ頭をうち、病院から帰って来てからだ。

 いまが異常じゃなければなんなんだ。


☆☆☆☆



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