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紅葉センチメンタル


 遠くから見る山は赤や黄色に色付き、田舎が嫌いなアリアも、この季節は好きだった。

 アリアは教科書に書いてあった紅葉のメカニズムを思いだし、静かに膝を抱えて項垂れた。


 季節が冬に近づくにつれ、日照時間が短くなり空気も乾燥していく。木々は葉を落とすことで、無駄なエネルギーの消費をおさえ、幹に水分と栄養を蓄えようとするのだ。

 葉を切り離すために一切の養分を送らなくなった葉の内部に閉じ込められた光合成に必要な葉緑素は徐々に崩壊し、それと同時に閉じ込めれら糖類がアントシアニンという赤い色素に変化する。

 落葉樹は生きるために葉を落とす。

 紅葉は血に染まった葉っぱの無言の叫びなのかもしれない。

「なんてね……」

 自らを紅葉に投影していたアリアはくすりと笑って立ち上がった。

 日は落ち、辺りはすっかり宵闇だ。

 どんなに色鮮やかな世界だろうと、夜が来れば真っ黒に塗りつぶされる。

 これは、何千年経とうと変わりようのない事実。

 子供の頃のアリアは夜を極端に恐れた。父が帰宅するのはいつも日を越えるギリギリだったからだ。

 でも、いまは怖くない。

 いや、正確には寂しくないのだ。

「ロク……」 


 ただ一人の人類であるアリアの横には常にエフピーシックスがいた。

 未知なるウィルスを恐れて大気圏に引きこもる外星生命体が先行調査体として送り込んだ自立思考型アンドロイドである。

 無自覚な箱庭のなかでアリア以外に意思を持つ唯一の存在だ。


「ねぇ、ロク。相談があるんだけど……いま、すこし、いい?」

 夕飯を食べ終わり、本日分のレポートを自室でまとめていると、お風呂上がりのアリアが声をかけてきた。

「なに?」

 脳内で優先事項を切り替えて返事をする。

 レポートといっても時間をもて余したエフピーシックスの手慰めであり、用は日記だ。書かなくても、読む人なぞこの世にはいない。

「こんなこと相談するのもおかしいかなって思ったんだけど、なんかね、最近見られてる気がするの」

「見られてる?」

「うん。別に自意識過剰とかじゃなくて。なんとなく、……こう、視線を感じるの。こんな田舎に、ストーカーとかはいないと思うんだけどさ」

「……」

 不味いことになった。

 彼女の生活圏、至るところに小型カメラが隠されている。違和感を与えないよう微小な存在なので通常ならばバレるはずもないが。

 どうやらアリアは人一倍感が鋭いらしい。

「ロク、なんか知らない?」

 さて、正解はなんだろうか。

 母艦の連中に意見を求めてはいけない。彼らはあくまで観察者であり、アリアの感情の揺れを宇宙の神秘に結びつける真性の電波たちだからだ。

「ごめんね」

「え、どうゆうこと。なんで謝るの?」

「気づけば君のこと見てるから」

「……」

 引かれただろうか。まあ別に構わない。

 一番合理的な返答ができたとエフピーシックスは考えた。

「私も、……ロクのことは好きだよ」

「?」

 アリアの頬は赤く染まっていた。紅葉のように真っ赤だった。

 好き?

 なんの話だろう、エフピーシックスは混乱した。

「……」

「……」

 なんと、言葉をかけるのが、正解だろうか。エフピーシックスにも、少女の心の機微はわからなかった。

「……あ」

「……」

「お、おやすみ!」

 アリアは端的にそれだけ告げると、半ば駆け足で自分の部屋に戻っていった。

 残されたエフピーシックスは視覚野をシャットダウンして、録画映像で残されたアリアの動きを瞼の裏のスクリーンに投影した。


☆☆☆☆☆☆☆☆


 どうしよう。

 どうしよう。

 どうしよう。


 胸の高鳴りが止まらない。

 いままで、こんなことはなかった。私はヘンタイになってしまったのだろうか。

 わからない、わからないけど、私から見てもロクはかっこいい。優しいし、時々ドキドキしちゃうのはたしかだ。だけど、そういうのな憧れで、まさか私がそんな感情を抱いてるとは思わなかった……し、思いたくなかった、けど、どうにもこうにも心臓は早鐘でスローペースになる気配ない。

 お風呂上がりだからだろうか、体が火照ってきた。湯あたりだろうか。どうも意識が朦朧としてきた。もう夜も遅いし、はやく寝よう、

 だけど気が高ぶって寝れそうにないなぁ。


☆☆☆☆☆☆☆☆



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