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エスカドロン公国潜入

国王から下命があった後、早速伯爵は疾風のごとき行動に出た。

「エスカドロン公国に参る!」


とにかく敵を知らなければ何もできない、というわけでエスカドロン公国の首都ゴンドピアに潜入したのである。エスメラルダとリューリクを連れてスパイ旅行であった。


エスカドロン公国の入管では天真爛漫に嘘をついた。

「入国の目的は?」

「観光です!」

「エスカドロン公国へようこそ!」

まだ敵対国でないため、このように入国審査で大嘘をついても特に問題は起きなかった。しかし伯爵はそんな敵国にも手厳しい。

「とはいえ戦争の可能性のある隣国人をこうも易々と入れるとは。どうやらザルらしいな」

「そのようで」


人口十数万。エスカドロン公国は四方を山に囲まれた盆地にできた国である。エスカドロン公が国を支配しており、そこそこの軍隊となかなかの鉱山資源を有していた。特に鉄鉱石が有名である。


「えーと、ここには世界の歩き方はないのか?」

「地球の歩き方、ですわ旦那様」

「気にするな同じようなものだ」

「あっしが少し調べておきやした」

「さすがリューリクだ!褒めてつかわそう!」

「褒めるのはいいから給料を払って下せえ」

「……」

「……旦那?」

「出た、旦那様の常套手段、『困ったら無言』ですわ!」

「……えーゴンドピアにも市場はいくつかありやすが、一番でかいのはフルーゼン中央市場でがす。国の中心的市場で、この小さな公国の経済にとって重要な場所だそうで」


「ほほう、ポバティー村のオンボロ市場とは比べ物にならないのか?」

「何でもあのボロ村を基準にするのは田舎モンみたいだからやめて下せえ。ここで揃わないものはなくて、棺桶すら取引されているそうで」


『えーいらんかねー!魔法の秘薬ー!』

『体力回復に良く効くポーションだよ!』

売り文句を連呼する行商人の群れ、歩けば肩と肩が触れ合うほどの雑踏、そこここで舌鋒激しく交渉する商人達。


「小さな国のくせに活気があるな」

「そりゃ当然ですよ旦那。この国の人口は構造的に首都に一極集中してるんですから」


しばらく歩くと、人通りがまばらになった。軒下には色とりどりとまではいかないが、それでも家庭料理に多少の華を添える色彩豊かな野菜や果物が並んでいる。しかしまた少し歩くとそういった店はすぐに姿を消し、代わりに干し芋や塩漬け肉などといったものが並んだ店が現れた。


「ジャム屋が多いな。そこらじゅうで行列してるし」

「保存食ばかりですわね。土地が痩せてるんだと思いますわ」

「珍しいジャムがいっぱいあるな。おみやげにいくつか買っておこう」

「来たばかりでもうおみやげですかい。荷物が多くなりますから帰るときにしてくだせえ」


その後しばらくほっつき歩き手がかりを探したが、結局ただの観光に終わる。宿へと引き返すことになった。


夕食にはジャムがたっぷりと出た。噛み応えのある黒パンにべったりと塗り、香り高いコーヒーにも投入、ステーキの付け合せやグラタンの中などにと大忙しである。

「どうやらこの国は甘党が多いみたいですわね」

「……」

「旦那様?」

干し肉のスープにもブドウのジャムが勝手に投入されていることには伯爵は閉口せざるを得なかった。


「旦那様、これからどうなさるおつもりですの?」

「あ、ああ。うむ。まあわしに考えがある。今日それが1つ確認できた」

「と言いますと?」

「まあ楽しみに待っているがよい。今にわかる」

「はあ」

「明日は地方を回ってみるぞ」


部屋に戻って伯爵は地図を広げた。四方を山に囲まれた内陸国である公国において、外界と結ぶ東西南北四本の幹線道路は普通の国以上に重要だった。その中でもゴンドピア街道と呼ばれる道は公国を東西に横断し、道幅は広いので非常に歩きやすいことで知られる。


「これはなんだ?」

ゴンドピア街道を一直線にさえぎる線が引かれている。

「これがネスニチェフの関所でさあ。このあたりは難所で知られておりまさあ」

「難所か。今後この国を攻めるとき戦場になりそうだな」

「そういえばさっき宿屋の女将と話をしたんですが、ゴンドピア街道以外にも山中を通る抜け道が多数あるそうです」

「ゴンドピア街道封鎖できませえん!てか」

「なんですのそれ?意味不明ですわ」

「さあな。昔そういった人がいたとかいないとか」

と伯爵は謎を言いつつ就寝した。


とりあえずゴンドピア街道を西へ進み、一行はやがてゴンドピア首都圏の最西端に位置するグムの町にたどり着き、またもや投宿となった。


「しかしどこ行っても塩っけの少ない食事ばかりだな」

「その分砂糖で我慢してるんでしょう」

「あら、旅のお方ですか?珍しい」

と宿の女性旅人が話しかけてきた。

「この国で塩は取れるのかい。塩気のある食事がしたいんだが」

「ええ、北のルイジャンドルという町でいい岩塩が取れますの。ただ他の国に比べると少々値が張るそうです」


「……それはここの料理がお口に合わなかったということかい?」

話を聞いていた宿のおかみが顔を出す。


「いやいやそんなことはないよ、おかみさん。うん。うまいうまい。生きてきた中で一番うまい」

と地雷を踏みかけた伯爵は被害を最小限にとどめた。


旅人はまだ話したそうな顔をしていたので伯爵は興味本位で質問をぶつけてみた。

「砂糖は国産かい」

「いえいえ。砂糖は輸入品ばかりですわ。でもご存知の通りこの国には甘党がたくさんおりますので、政府が補助金を出して砂糖については値段を低く保っているんです」

「なるほどね」


これも耳寄りな情報である。伯爵は気づいたことを加えつつメモを取った。そのときである。まるで推理モノであるようなひらめきが伯爵の頭を貫いた。


「決まったな」

「何がです旦那」

「カギは塩と、砂糖だ」

「はあ」


一行がゴンドピア盆地をうろうろしているうちに月が変わった。任務に対する公爵の考えがまとまるにつれて、借金は無常にも雪だるま式に増えていっていた。一刻も早く内政にとりかからなくてはならなかったのだが……。

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