ポバティーの戦いは続いていく
ポバティー辺境伯領 ポバティー城
国庫にはロヨラからのお金が届いていた。歳入のうち、3,000ダカットを返済に充て、残りの1,500ダカットづつを市場建設と農業に回した。
「ようやく第一回目の資金返済が始まった。この調子で借金を減らしていこう」
「まったくさすがは伯爵ですね。3,000ダカット、ありがたく頂戴します。債権団も喜ぶでしょう」
とロヨラは今度は借金の徴収人の立場から発言。なんともややこしい。
「借金は10万ダカットを超えていたが、今後どんどん返済されていくはずだ。軌道に乗ったな」
『もはや貧困ではない』
税収の増加によってそう言われるようになった。貧困貴族ポバティーは、貴族でもなくなったが、貧困でもなくなったのである。
「伯爵、喜んでくだせえ!」
とリューリクが走りこんでくる。その手には書状が握られていた。
「なんだ、お主まで伯爵呼ばわりとは嫌味か?」
「とんでもねえでがす。こいつを見てくだせえ!」
ポバティーをポバティー伯爵に命ず、と書いてある。
「何故そんなことが?いまだに王には許されていないはずだが」
「わからねえでげす。ただ、イアーゴも再び臣下の礼をとって伯爵の下につくそうで」
ポバティーはくすりと笑い、こう切り出した。
「リューリク。お前がやったんだろう。全て、何もかも」
「は、何でげすか?」
「知っているぞ。これだけじゃない。ヘンドリクスを殺害し、エスカドロン公国では砂糖と塩の買占めを行った。監獄から脱獄するわしを助けたのもお主だろう。あまりにわしに都合の良すぎる展開だった」
「旦那様、一体藪から棒に何でございますか?」
「エスメラルダよ、おかしいとは思わないか?リューリクの広く深い知識、その勇気、行動力。只者ではない」
「……」
「なぜそれほどまでにわしに尽くしてくれた?」
「ばれちゃあしょうがない」
それまで手もみをして上目遣いだった男が、今度は身長が十センチも伸びたように堂々として見えた。
「やはりか」
「いかにも、俺は伯爵の言うとおりヘンドリクスを殺し、砂糖と塩の買占めを手助けした張本人だ。伯爵を脱獄させたのも俺だ」
「何故そんなことを?」
「伯爵は知らなかっただろうが、俺は小さい頃親を戦争でなくし、ここポバティー村に流れ着いた」
「孤児だったんですわね」
「そうだ。そしてある日死にそうになっていたとき、伯爵に助けられた。ありったけの金とメシを恵んでくれたんだ」
「確かにまったく覚えとらん」
「俺は生き延びた……それでずっとポバティー城の周りで伯爵の目に留まるのを待っていた。算盤をはじいていたのはたまたまだ。しかし何かに秀でていれば目に留まるだろうとは思っていた」
「そういうことだったか……いや、人助けはするものだな。知らないところで蒔いた種が、知らぬ間に花を咲かせるとはな」
「俺は一生をかけて恩を返す。誰に頼まれてやったことじゃない。俺がそう決めたんだ」
「その功績に報いよう……お主を筆頭家老に命ず。イアーゴよりも立場では上だ」
リューリクが筆頭家老になってポバティー村は変わりつつある。富国強兵に勤めるポバティーは、やがて借金を返済し貴族としての力を伸ばすことだろう。しかしそれはまた、次のお話。