素晴らしき徴税官
ポバティー辺境伯領 ポバティー城
「旦那、7,000ダカット黙ってりゃ入ってくるって思ってるんじゃありやせんな?」
「もちろん」
「さすが旦那様ですわ!」
とここまでためを作っておいてポバティーが高らかに宣言する。
「もちろん知っているわけがなかろうて!」
「えっっっっ!」
と皆がびっくり。ロヨラもびっくりだった。見るとまだ帰っていなかったらしい。
「何故貴様がまだここに!」
「仕方がないだろう、伯爵から支払いがあるまで帰ってくるなとの債権団のお達しだ。彼・彼女らもついに業を煮やしたんだろう」
「ううむ。何たるはた迷惑な輩達なのだ、債権団とは!」
「旦那、金を借りておいてビタ1ダカット返さないのもどうかと思いやすぜ」
「全ては貧乏が悪い。わしだって金は返したい!というか大分前に返したではないか!」
「……それで、どうすれば7,000ダカット入ってくるんだ?」
「それは旦那、徴税官を雇わないといけませんぜ。徴税人は世間じゃボロクソに言われてますが、王侯貴族からすると奴らがいないことには経営がなりたちやせん。実際、優秀な徴税人は大変重宝がられ、徴収した税の一部が報酬になっているので莫大な富を手にする輩もおります。貴族の名義が金で買える時代では平民がのし上がる夢の職業だったんでがす」
「どうしますの旦那様?わたし達に徴収なんてことができましょうか?誰かの助けが必要ですわ」
「……まてよ、それはつまりこういうことか?」
ポバティーはにやりと笑いロヨラを見た。
「な、何をニタニタしている!気持ち悪い!」
「ロヨラほど優秀な借金の取立て屋もいないと考えているが」
「わたしが優秀とな?」
「ああ、仕事はきっちり、そして美人、この上ない女性だよまったく!」
「ふむむむ」
すぐにロヨラは相好を崩した。
「よほど褒め言葉に餓えていたんでげしょうな」
とリューリクは小声で言う。
「借金の取立てならば相当嫌なことも借財人から言われるでしょうし、ずっと独りで行動していらっしたみたいですから、仕方ありませんわ」
とエスメラルダ。
「どうだろう?そんな素晴らしい人材を目の前にしてわしとしては放っておく訳にはいかんのだ。徴税官としてわしの元で少し働いてみないか?」
「ふむ?!」
ロヨラは少し考えているようなふりをしていたが、実際のところは答えはもう決まっていたのだ。
「まあ仕方があるまいよ。そんなに私が入用ならば協力しよう……して」
とロヨラは身をポバティーに乗り出して言った。
「報酬はどれほどになる?」
「結局報酬かい!」
「当たり前だ!お金に換わってこそ才能の価値が証明されるというもの。そんな私をいくらで雇うつもりなのだ?!」
「なんだか面倒なことになってきやしたね……あっしなんて結局給与をもらわずじまいなんでげすが」
「わたしは旦那様にお仕えできるだけで十分ですわ」
「んん?もしや伯爵の職場は、……ブラック会社?」
「そんなことはない!皆いきいきと楽しく働いておるわい!」
「旦那、言い訳はやめましょう」
「わかった!わかったからもう静かに!……リューリク、こういうときの相場はいくらなのだ?」
「時と場所、場合によりけりでがす」
「……わかった。徴収額の3%でどうだ?」
「安すぎる!」
「ここは都会ではないぞ?7,000ダカット集めれば210ダカットもらえる。210ダカットあれば数年は生きていける」
「まあ、いいだろう」
とあっさりロヨラは引き下がった。リューリクが不安げにしている。
「しかし旦那、徴税官は自分の私腹を肥やす輩にとっては天職のようなもの。旦那には7,000ダカットを徴収したと言いつつ、実際は8,000ダカット集めるような奴も履いて捨てるほどおりやす」
「差分はどうするんですの?」
「もちろん懐にするんでさ。それでいて報酬もしっかりもらうんだから人々から忌み嫌われるのも頷けるもんでがす」
「わたしを疑っているのか?」
「いやいや、そんなことはない。公正盛大な奴だと思っておる。お主を信頼しきっているからこそ、新税の徴収というこの重大な任務を請け負ってもらうのだ」
「そうだろう、そうだろう!」
とロヨラは鼻を鳴らし満足げである。もう今にも徴税にすっ飛んでいきそうな気配だった。
「まあ待て。はやるな」
「それでは結果を待つが良い!」
そういい残すとすぐに出て行った。
そしてその年末、初めて人頭税がポバティーの金庫に納められた。総額5,801ダカット。
「さすがはロヨラだ!」
これをいかに使っていくか、そしてお金がお金を生ませていくサイクルにいかにして仕組みを作っていくかが当面の問題だった。
「何にせよ、今日は祝勝会だ!」
「旦那、給与をくだせえ!」
「旦那様ばんざーい!」