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億万長者への道

ポバティー辺境伯領 ポバティー城


「第21回ポバティー庄11人評議会をこれより開催する!」

集まったのは11人のポバティー村代表団。農民代表6人、兵士代表3人、商人代表2人だ。拍手はまばらだった。

「やる気がないでげすな」

「何せ搾り取られる税金を決める会ですからね。それぞれがやる気をなくしていても不思議じゃないですわ」

とエスメラルダは忙しそうにコーヒーをついで回っている。なぜか楽しそうにしている。

「しかしわしには勝算があるのだよ」

とポバティーは自信たっぷりに答えた。


会場はポバティー城で一番広い大広間で行われている。コの字型に長机を並べ、その中央にポバティー以下3人の席がある。そしてオブザーバーとして1人そばに座っているのがいる。妙にニコニコしている。

「早く始まらないかなー」

「お主、キャラが変わっていないか」

「そんなことありませんよ」

と平然としているのは借金の取立人、ロヨラだった。

「税金が入ればその分借金が返せる。債権団も好意的に私をここに送り出したんですよ」

と足をパタパタさせていた。

「やっぱりキャラ変わりすぎだぞ」

「旦那様、そろそろお時間ですわ」

「む」


ポバティーは咳払いをした。それまでざわついていた広間が静かになる。皆顔色が悪いのを見回しながらリューリクがはじめた。

「まずは皆に今後のポバティー庄の課税システムについて通告する。まずは人頭税、これは一人当たり年50ダカットと定める。次に土地税、これは所有する土地1ヘクタールを超えるごとに1ヘクタール当たり年1,000ダカットとする」


会場からため息が聞こえてくる。誰も発言しそうにないことを確認すると、リューリクは怯まず焦らず続けた。


「次に出生・結婚・死亡税。これはそのイベントが起きるたび課税する。一律20ダカットとする」

「反対です!」

とまだ最後まで言い終わらないうちから会場からついに反対意見が飛び出た。見ると農民出身の評議員、ルマルクという者だった。眉毛が太く、鷹のような目。口をきっときつく結んでいる。

「搾り取るだけ搾り取って我が領主は何をするというのですか?まったく農民に仇なす悪法です!」

「何をするのか、だと?」

そういってポバティーはほくそ笑んだ。まさに待っていましたとばかりの質問だったのである。

「今回の新税、全てを合わせると、月に7,000ダカットばかりの収入増になる。それを村のために使うのだ。一人ひとりではできないことも、皆で協力すればなんとかなる。一人ひとりでは解決できないことも、7,000ダカットあれば何とかなるのだ!」


「ちょっとちょっと待ってくださいよ。借金返済は?」

とロヨラが何かもごもご言っているがポバティーは気にせず続けた。

「ルマルクよ、お主の最近の困りごとは何だ?」

「それは……うちの小麦の育ちが悪いことです」

「原因は?」

「それがさっぱり」

「皆のもの聞いたか?それに対して我らがどう対応すべきかわかるか?」

会場はしんと静まり返っている。ポバティーは自分に衆目が一つに集まっていることを感じつつさらに続けた。

「王都から農業の専門家を呼ぶことにしよう。そしてアドバイスを受けるのだ。その金がどこからくるかって?それが税金から支払われるのだ」

「わがポバティー庄の農業生産性は王国と平均しても低くとどまっているでがす。それは逆に言えば伸びしろがあるということ。生産性が上がれば、それだけ皆が豊かになりやす」

ルマルクが黙った。おおーと声が農民代表から上がる。感触は悪くない。農民代表が11人のうち6人を占めているのでこれだけでも新税法は可決される見込みだ。


「とはいえ数で押し切ったとなっては未来に禍根を残すだろう。全会一致を目指すぞ」

ポバティーが目で促すと、リューリクが続けようとした。しかしまたもや乱入者が現れた。


「我ら兵士はどうすればいいのですか!戦争になれば村のために命を賭して戦い、村に帰れば税金を払う。そして老いればもちろん戦うこともできない、土地もなく働くこともできず路頭に迷う。これでは兵士はされたい放題ではないですか!まったく損な役回りだ!」

そう立ち上がったのは兵士階級のジェロームという者。ポバティーはまたもやほくそ笑んだ。どいつもこいつも思い通りの反応をしてくれる。そこはポバティー村で幼年期から青年期を過ごしたポバティーならではで、村民との付き合いも長いから気持ちがよくわかったのかもしれない。


「兵士になって何が不安か?ジェローム、わしは戦場に出たこともあるからよくわかるぞ。それは自分が死んだとき残された家族はどう暮らしていけばいいのか?大怪我したり老いたりして兵士として働けなくなったらどう暮らしを立てていけばいいのか?」

ジェロームがうんと頷いている。心を掴みかけていることを感じつつポバティーは続けた。


「今回の税収見込みから、いくらかを兵士年金の創設に当てようぞ。皆はいつもの給料に加えて積み立てる年金分の金を受け取る。それを年金基金が徴収する。だから年金ができたからといって給料が減るわけではない。そして年金は兵士の皆のためのものだ。もし若くして戦死した場合は家族が生活に困らぬよう、大怪我したり老いれば皆が老後を楽しめるようにな」


またもやおおーと、今度は兵士階級から驚嘆の声が巻き起こった。ポバティーは再び満足した。

「ちょっとちょっと?!何考えているんですか伯爵?借金の返済はどうなるんですか?」

「うるさい!部外者は黙るでげす!」

「それにわしはもう伯爵ではない」


リューリクが再開する。

「最後に、ポバティー庄に出入りする商品について、関税を導入する。基本的に物品の3%を目処に導入する。とはいえ小麦などの生活必需品は低く、金などのぜいたく品には高い関税を課すこととする」


ポバティーは商人階級の二人の顔を見つめた。一人はサンバイン商会のポバティー村支店長、ガリエル。もう一人は地場のポバティー商会の会長、マンスフェルトだった」


「どうしやすか、旦那。商人の奴らは黙ったまんまですぜ」

「関税に関しては税収が一番読めない税金だ。今回の7,000ダカットという税収見込みからも省いているくらいだからな」

「先手必勝でいいのではないでしょうか」

とエスメラルダが言うので、ポバティーは先に手をうってやることにした。


「もちろん商人階級にも今回の新税の恩恵はある。例えば、村と外界をつなぐ街道の整備は先だって行われたが、今度は市場を新設する」

商人階級の二人がふむふむと言っている。


「人が集まれば商人、行商人が集まる。さらに多く集まれば金も集まる。ヒト、モノ、カネが集まることで商人階級にも金儲けのチャンスが多くなるということだ」

「さすがに二人は用心して何も言ってこないでげすね」

「でも反対という雰囲気でもありませんわ。採決なさったらどうですか?」


「では採決を取る。反対者は挙手せよ!」

手は挙がらない。どの顔も未来の村の発展に期待を寄せている。拍手が巻き起こった。

「今日は諸君の理解に感謝する!ポバティー庄に栄光と繁栄あらんことを!では散会!」

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