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買占めはやめようね

ポバティー辺境伯領 ポバティー城


そこに男が立っていた。ボロボロのフロックコート、もじゃもじゃ頭に小柄な体格。目つきは柔和でどこか近づきやすい雰囲気。そして伯爵が口を開くまで待っているようだった。


「お前は、確かエスカドロン公国の……」

「どうもレインボです。覚えやすい名前でしょう?」

それはかの国の公正取引委員会の調査官、レインボだった。

「しかし、なぜここにいる?お前の国とは戦争中だろう?」

「へえ、おやっさんはまだ知らないみたいですね?」

お客様だと思ったエスメラルダがすばやくコーヒーを持ってくると、レインボはなぜか手刀を切りつつそれを受け取った。ふうふうと息を吹きかけ、ズルズルと音を立ててうまそうに飲む。


「エスカドロン公国とあなたの国ではもう休戦条約が結ばれたんですよ?」

「なんと、それは知らなかった」

「それで、お互いの国で人事上の交流をするということで、わたしがあなたの国の公正取引委員会の調査官に出向になったというわけなんですよね」


まだ熱いだろうに、レインボはコーヒーをくいっと一気に飲み干した。そして衝撃的にこう切り出した。

「早速なんですが、ポバティー伯爵、あなたを公正取引法違反の疑いで逮捕させてもらいますよ。イシス伯領で穀物を買占め、平民を苦しめている罪でね」


伯爵は面食らったどころではない。

「そんな馬鹿な!」

つい声まで大きくなった。

「まあ話は署の方でゆっくりと。あそうそう。もう一つ余罪があった。数ヶ月前ゴンドピアで起きた砂糖と塩の買占めについても令状が挙がっていますよ」

「おい!これは何かの間違いでげしょう?」

「旦那様は無罪です!」

リューリクもエスメラルダも悲鳴に近い叫びを上げる。レインボはタバコを取り出し火を付けようとしたがマッチを持っていなかった様子。


「間違いでも何でもないんですよ。ところで、火、あります?」

「大丈夫だ。こういうときのためにわしは王のクエストをこなし信頼度をMAXにしてきた。王に言えばすぐに疑いが晴れて釈放されるはず。ここにマッチがある」

「いやいやすいませんね」


自信満々な伯爵だったが、レインボがタバコを一吸いしたところで飛び出した発言によってその自信はすぐに打ち砕かれた。

「それがねえ。残念なことに、その王様直々の命令なんですよ。まったくもって申し訳ない」


レインボが後ろを向いておい、と声をかけると屈強そうな男二人が入ってきた。

「それから家宅捜索もさせてもらいますよ。ほい、これが裁判所の令状です」

と言いながら体を探っているが、なかなか令状が出てこない。ついにフロックコートを脱いで振り始めたが出てこない。

「調査官どの、じつは俺が」

「あ、通りでなかったわけね。しかしこりゃ酷い。せっかくの令状がくしゃくしゃだ」


しわを伸ばし、改めてレインボは伯爵に令状を突きつけた。

「ふん。そんな馬鹿げたことに付き合っている暇はない。わしはイシス伯領の人民の窮状を救わねばならんのだ!」

「またまたあ。まだとぼけるつもりですか?その人民を苦しめているのがあなたじゃなかったのですか?」

「そんな馬鹿な!証拠はどこにある!」

「まあ話は署の方でゆっくりと」

そうしてポバティー伯爵は連行されることになってしまった。

「出る杭は打たれる……か」

レインボがこうつぶやいたのを伯爵は聞き逃さなかった。


王都クペルチノ 公正取引監視所

「だからわしは知らないと言っておろう!」

「こちらには証拠もあるんですよ。まだしらを切るおつもりで?」

提示された証拠は全てが伯爵のあずかり知らぬものであった。顔も見たことのない商人が伯爵の命を受けたと証言し、伯爵の倉庫には確かに食料がうなっていた。それはイシス伯領を飢饉から救い出すには十分。伯爵は色を失った。


「有罪になるとどうなる?」

「王様の気分次第ですな。まあ領地没収は免れ得まいでしょう」

レインボは暇なのか留置所で臭い飯を喰らう伯爵の話し相手となっていた。

「聞けば最近ハールーンとかいう町を味方につけ、ポバティー村も大規模な開発を進めていたようじゃないですか。勢力を伸ばすということはそれだけ目立つということですからな」

「王との間柄は水を漏らさぬ堅密なものと考えていたが、それは間違いだったということか」

「借金がたくさんあるらしいですな?所領没収なら破産申請できるじゃないですか」

「そんなわけにはいかん!」

しかし伯爵に打つ手がないのは確か。公正取引委員会の思うがままだった。


刻一刻とイシス伯領は餓えていく。無策はどんな下策より劣る。餓死者が出てからでは遅かった。


伯爵は、脱獄を決意した。

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