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補助金バブルと天邪鬼

ポバティー辺境伯領 ポバティー城


「お呼びか、伯爵?」

「よく来てくれた。ヒューム」

居城に呼んだのはヒュームだった。切れ長な目に端整な顔を持つ彼女は伯爵が口を開く前に先手を打ってきた。

「もしやゴミ処理場の件か?それならばお断りする。さきの11人評議会で申し上げたとおりだ」

「待て待て。そう尚早に結論を急ぐでない」

伯爵は両手を広げた。

「まあ雑談でもしようではないか。そう言えば浄水場と研究所の再建は進んでおるのか?」

「ふむ……?」

ヒュームは訝しげに、しかし何かひっかかるものを覚えているようだった。

「研究所については問題ない。何せ研究者と技術者は被害を受けなかったからな。しかし浄水施設の部分が問題だ。それに今まで古かったものを刷新してしまおうと計画しているから余計に時間がかかる予定だ」

「なるほどな。各地からの汚水の受け入れは止まっているのか?」

「いや、そんなことはない。それは契約で決まっていることだからな。こっちの事情で顧客を困らすわけにはいかない」

とヒュームは胸を張った。

「どこかに溜めてあるのか?」

「そうだ」

しまったという風に表情を変え、手を目の前でぶんぶんと振って見せた。

「しかしこれはいたし方のないことなのだ。ゴミ処理を一緒に引き受けられるかというと別問題だ。個人的には受け入れたい気持ちはやまやまなのだが、浄水場の再建中にさらに問題を抱え込むのは皆の理解を得られない」


「ほほう。では皆の理解が得られればいいのだな?」

「……と言うと?」

「浄水場の増築・改築には多大な資金が必要だろう?ゴミ処理場を引き受けることでそれがかなりの部分解決するとしたら?」

「……ふむ」

「即金で20万ダカットを用意できる」

「……!しかし」

「札束で頬をはたくような真似になり申し訳ないと思っているのだが、しかしそれならば皆がハッピーだろう?」

「……うむ。ここで私の個人的な感情を云々すべきでないことはわかっている。大事なことは実利を取ることだ」

「さすがに辺境伯領第二の勢力を誇る豪族の当主だ。話がわかる」

伯爵が手を叩くとリューリクとエスメラルダが部屋に入ってきた。ペンと紙をささげ持っている。

「これが小切手だ。今サインするから持って行ってくれ」

「待て。私はまだ一族内での了解を取っていない。その金はまだもらうことはできない」

「なあに。お主ならばやってくれる。それを見込んでのことだ」

「しかし」

伯爵はサインを小切手に書き付けた。

「盟友都市に投資するのも大事なことだ」


しかし手は伸びてこなかった。

「ダメだ……やはり私はその金を受け取ることはできない。皆の賛同を得られていない段階で、空約束はできない」

「なんと頑固な奴だ……リューリク、何か良い案はないか?」

「そうでがすな……」

リューリクもしばらく首をひねった。がそこは策士、すぐに何かを思いついたようだった。

「旦那が言った投資するという言葉、それがカギでげす」

「そういうことか」

「新たに会社を設立してもらう。ハールーン浄水株式会社とでもしよう。浄水場や研究所を資本として株式を発行するのだ」

「……」

「その会社に我々は20万ダカット投資する。換わりにいくらかの株式を受け取る。あとは投資なのだから、その金をそちらがどう使うかは自由だ。もちろんそれで損しようが構わない。代わりにゴミ処理場を引き受けてもらう。……汚水処理技術を応用して新たな分野に参入するとか何とか言ってな。そうすれば少しは家内を説得しやすいだろう?」

「……ふうむ」

「とりあえずこの小切手は預けておくぞ」

ヒュームは煙に巻かれた様子で出て行った。小切手はちゃんと渡したのだから伯爵は目的を全て果たしたことになる。

「しかし旦那も悪でげすな」

「そうか?お互いウィンウィンのいい案だったと思うんだが?」

「新たな会社に20万ダカット出資するということは相当な持分の株式を受け取るということでさ。今後ヒューム家のハールーン浄水株式会社が儲けを出すたび、出資額分だけ旦那が潤うということ。金のなる木、延々と恵みをもたらす乳牛でさあ」

「まあこれも長年の知恵という奴だ。ようやくわしも賢くなってきたわい」


しかし伯爵がいい気になっているのもつかの間、そもそも全てがうまくいくはずもなく、不吉な知らせをエスメラルダが持ってきたのである。


「旦那様。ハールーンが20万ダカット受け取ることに対して領内からはかなりの反応が上がっておりますわ」

「イシス伯領の奴らなら新参者だからそう文句は言わせないが……」

「ポバティー村の11人評議会がどうやら20万ダカットもらえるならぜひうちの村に、と言い出しているようですわ」

11人でなくなっても11人評議会の大半はポバティー村の者が占める。それが反対するとなれば反対多数。つまり否決なのである。

「奴らの気性はよく知っておる。何せわしが生まれたときからの因縁だからな……。まったくこういうときにいつも邪魔するのが奴らなんだよ!」

「旦那、落ち着いて下せえ。まったく本当に邪魔以外の何者でもありやせんな…。どうしやすか?」

さすがの策士リューリクも案が出ない様子。

「仕方あるまい。わしが直接交渉に乗り出すまでよ」

幾分どころか大分気の進まないところであるが、ポバティー村の天邪鬼村民達との交渉に臨むのであった。

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