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弱小貴族の憂鬱

ポバティー辺境伯領 ポバティー城


ポバティー村(人口約800)、イシス伯領(人口約1500)を直轄領とし、そこにハールーン(人口約2000)を傘下とした伯爵だが、まだまだ辺境伯領の掌握には程遠い。おまけに借金やその利子も財政に重くのしかかる。


「できることならイアーゴごとき叩き潰したいところだが……」

「今の状況じゃ叩き潰されるのは旦那の方でさ」

イアーゴ一人で数千の軍勢を呼び寄せることができるこの状態で、まともに戦って伯爵に勝ち目はなかった。伯爵が生かされているのは王宮とのコネであった。定期的に王のクエストをこなして信頼度をMAXにしておかなければとうの昔にイアーゴの反乱軍に踏み潰されていただろう。借金を返す暇がないのもやむなしな一面があった。


「今の段階でわしが兵を挙げるとしたら、どれくらい集まるだろうか?」

「まあ旦那様、妙なことは考えないでくださいな。私は平穏無事に旦那様と暮らせればそれでいいのですから」

「今ですと……まあせいぜい200人くらいが限度でしょうな。もちろん全員装備なしでげす」

リューリクの冷静な分析が重くのしかかる。

「そうだな……わしの財力では200人どころか自分自身の装備すら危うい。丸裸で戦いに参加させるわけにもいくまいて……」

「まあ!借金を返済するのが先ですわ」

とエスメラルダ。いつも話はここで堂々巡りしてしまうのである。


「そこで利権でしょう、旦那。手っ取り早いのは例えば王国のゴミ処理場を誘致すれば金がもらえやすぜ。昔のハールーンみたいに人の嫌がるものを引き受けるということはそれだけで金になるんでさ」

「誘致でどれだけ補助金がもらえるんだ?」

「そうでげすな……大型の処理場なら月に30,000ダカットは軽くもらえるでしょうな。今1ケ月につき30,000ダカット赤字ですからとりあえず財政の出血は止まりやすぜ」

「ううむ……しかし住人達に負担が……」

「反対運動でも起きた暁には私達は村にいられなくなりますわ」

「そうやってだらだらしていてはいつまでたっても豪族達に頭があがらないんでさ」

「……わかった。11人評議会に諮ってみるとしよう」

「そんなものがあるんでげすか?」

「うむ。ポバティー村の有力者から選ばれた会議体だ。兵士階級から3人、農民階級から6人、商人階級から2人が出席する。今度からはイシス伯領とハールーンからも代表者を迎える予定だったから、11人評議会とは呼ばれなくなるかもしれんが……」

「なるほど。まずは旦那の小手調べといきましょうや」


そして会議は踊る、されど進まず。

「おらたちの領主様が借金を返すのはいいことですだ。ただうちの村にはやめてくだせえ。新入りの奴らが負担すればいいことですだ」

とはポバティー村の主張。

「借金を返せば税金が軽くなるのは理解しました。ただそうなると私どもだけが過分な負担を負うことになります。他のところにしてください」

とはイシス伯領の意見。

「ゴミ処理場は誰かが負担しなくてはいけない大切なもの。ただ浄水場の復旧作業が続いている中でさらに負担増となるのは承諾しかねる」

とはハールーンのヒュームの発言だった。


「やっぱりこうなりやしたか」

「ううむ。まあ誰もが自分以外のところにしてほしいと思うものだしな……」

「無理に通すと反乱を起こしかねない雰囲気ですわね」

じゃあと言って提案を引っ込められるかというとそういう訳にもいかないと伯爵は気づいた。否決されることで各拠点への影響力低下は避けられないだろう。難しい舵取りだった。


「いっそ発想を転換させるか?全部の拠点にゴミ処理場を誘致するとか」

「少なくともヒュームの奴が反対するでしょうな」

「じゃあハールーン以外の村で」

「そうなると他が不公平だと騒ぎ出すのは目に見えてますわ」

「ふーむ……」


各代表者は固唾を呑んで3人を見守っている。結論を出すのは尚早と伯爵は見た。


「一度散会とする。一週間の後また協議することにする」


ほっとした空気が流れた。どの代表者もひとまずこの案はなくなるのではないか、という観測を抱いたことだろう。


ポバティー城に戻り、居室に入ろうとした伯爵はドアが半開きになっていることに気づいた。誰かが中にいる。


「ご機嫌いかがですか?伯爵?」

「その声は……ロヨラか!」

「この前は大層な目に遭わせてくださいましたが……。ご用件はお分かりですね?」

「ああ……」

「今回は容赦しません♪」

この間も容赦しなかったではないか。そう思いつつ伯爵は胃の辺りが痛むのを感じていた。



「この一週間で決めなくてはなるまい!なんとしてもだ!」

エスメラルダとリューリクは驚いた。伯爵が頭に大きなたんこぶを作って現れたからだ。

「そんな漫画チックな……」

「誰がこんなひどいことを!?私がとっちめてやりますわ!」

とエスメラルダは腕まくりまでしてみせた。伯爵が押しとどめなければすぐにでもすっ飛んで行ったことだろう。

「まあまあそれはいいとして……リューリク、もう一度整理してみよう。今回の問題点は何だ?」

「各拠点が自分の拠点にだけはゴミ処理場を設置するのをやめてほしいと言っていることでさ」

「ただどこも理解は示していましたわね」

「交渉の余地があるな……。我々にできることはないか?」

「こうなったら、もらえる補助金の一部を使ってはいかがでげすか?地域振興でげす」

「お金をもらっても嫌だというところが出てくると思いますわ」

「きめ細やかな支援プランを考えれば何とかなるやもしれやせん」

「ふーむ……」


ポバティー村か?イシス伯領か?それともハールーンか?

伯爵は手を打たねばならない。


「よし。これでいこう。リューリク、奴を呼び出してくれ。根回しといこう」

「承知しやした」


7の月のポバティー家の帳簿

収入の部:32,000ダカット

支出の部:51,000ダカット


伯爵の現金:121ダカット

新規借入金:50,000ダカット

借入金の総額:530,000ダカット


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