戦争、そして借金
ポバティー城を接取された伯爵。もはや戦功を挙げ報奨金を得ることでしか取り戻す方法はなかった。
しかし従者は二人。魔法も腕っぷしもない三人。どうしようもなかったがとにかく戦場でがんばるとスポ根魂を全力で見せつけ士気を高く保つしかなかったのである。
エスカドロン公国 ネスニチェフの関所
王の陣幕にて
「ええい、まだ落ちんのか!もう一か月は足止めを食らっておるではないか!」
いら立ちを隠せない王。会議席に揃う貴族たちはばつの悪そうな、もぞもぞした顔をしていた。
「何せネスニチェフの関はエスカドロン公が十万の兵が来ても一年耐えて見せると豪語する天下の険峻、そう簡単に通してはくれますまい」
「そんなことはわかっておる!しかしそこを何とかするのが貴様らであろう!」
「はっ……面目ありません……」
並みいる大貴族たちも一様にうつむいた。下手に王を刺激してはまずい。これで無理やり攻勢をかけるとなると、死んでいく兵士は貴族たちの農奴なのだ。王の利益より自家の利益を優先させたい思いが透けて見え、いまいち士気も上がらなかった。とはいえ王の隷下だけで突撃するには兵士の数が足りなかった。
「なんか微妙なバランスの上に我が国は成り立ってるんですねえ」
と末席でつぶやく小貴族。ポバティー伯爵もため息をついた。
「しかしどうするんだこの戦い……だいぶグダグダだぞ」
「この局面を打破できるものはおらんのか!」
王は周囲を見回した。しかし一様に目を合わせない貴族たち。それは学校で教師が難問を生徒に答えさせようとしたときに似ていた。
「はい!」
声がする。女性の声だ。ざわめきが大きくなる。
「誰だ!その勇敢なるものは!名を名乗れ!」
「へ?」
ポバティー伯爵は全身から汗が止まらなかった。
それもそのはず、なんと手を挙げていたのは自分自身だったからだ。伯爵の後ろにはロヨラの姿が。伯爵の手を取って挙手させたのだ。小学生のやることであった。
王は満面の笑みを作った。
「やはりお主か、ポバティー!」
「え!いえ、あの、その」
覆水盆に返らず。一度名前を呼ばれ、王の機嫌が上々なのを見ると、ここで『いや、ただのいたずらです』なんて言えるわけがない。即日処刑に違いない。
「一週間やろう!それまでにこの状況を打開させれば望みの褒美を取らせる!」
「やったあ!これで債権回収ね!」
と喜ぶのはロヨラだけである。伯爵は顔が土色になっていた。
「して、伯爵、いかほどの手勢でもってことに当たるつもりか」
王の言葉に伯爵はしどろもどろになった。
「え、えーと。えーあーうー、……三人です」
幕舎は爆笑の渦に包まれた。三人で何ができるのだ。しかし王だけは真剣そのものだった。
「なんと、自ら関に潜入し攪乱するつもりか!」
「ま、まあそんなところです」
R.I.P.、万事休す、アーメン。様々な言葉が去来する。
「して、いつ潜入する?」
「今晩です!」
ロヨラが勝手に叫んだとき、伯爵はもうヤケであった。
「わしの人生終わった!」
そう叫んで幕舎を飛び出して小一時間戻ってこなかった。少し泣いたらしい。