ご利用は計画的に
ポバティー村。人口は800あまりのそこそこの村である。広大な領地を有しているはずのポバティー伯爵だが、実質的に支配下に置いている拠点はこことポバティー城のみであった。残りは譜代の家臣達が勝手に支配していたのである。そして肝心要のポバティー城の状態は酷く、城壁に人が余裕で通れるくらいの巨大な穴が開いている箇所すらある。
「ここがポバティー城ね」
そして謎の女がそのオンボロ城の巨大な穴の前に立っていた。きりっとした顔立ちで、いかにもできる人といった様子。そして一言。
「こりゃあひどい」
一方城内では……。
「とうとうこの日がやってきましたぜ、旦那。審判の日ですな」
リューリクは壁にかけてあるカレンダーを指差した。今日の日に当たるところにドクロマークが書いてある。
「ん?何のことかな?」
「とぼけても無駄です。借金の返済期日が迫ってるんですぜ」
「そうか」
見た目のんきであるが伯爵は心中かなり焦っていた。とにかく金をかき集めなければ。しかし金はない。
「200,000ダカット用立てないと我が家は破産です」
「先月まで何千万フローリンを動かした旦那様がたったの二十万ダカットで悩まなければならぬとは……おいたわしや旦那様」
「また借り替えるしかあるまいよ。任せたぞリューリク」
「金の借り換えなんて旦那に出てもらわないことにはどうにもならんですよ」
「そうか」
国王のクエストばかりこなしてきたポバティー伯爵にツケが回ってきたのである。借金にもがく他の貴族達は必死で利権を拡大したり、領地を開発したりしていた。国王のお使いをしているどころではない。その分一見暇そうな伯爵にクエストが回ってくる。
「で、何行の銀行から金を借りてたかな?」
「読み上げますぜ、旦那。王立銀行から90,000ダカット。コルビン信用金庫から40,000ダカット。キュペルチノ銀行から40,000ダカット。イシス銀行から30,000ダカットです。」
「王立銀行については王に頼めばなんとかなりそうだ。しかし他がことだな」
「利息の支払いだけじゃもう乗り切れそうにありません。このままじゃ抵当に入っている領地を銀行に分捕られてもおかしくねえですぜ」
「それは困る!父祖から預かった領地は一平方メートルたりとも手放したくないものだ。たとえ実効支配していなくても!」
「そこを何とか銀行に言ってくださいな」
「仕方あるまいな。ではまず王立銀行の件にけりをつけよう。王宮に行って来る」
「いってらっしゃいませ、旦那」
猛ダッシュで伯爵は王宮に着くや否や速攻で王との面会を申し込んだ。
「王様、王立銀行から借りているお金の件なのですが……」
「借り換え?いいよ」
とこれまた速攻で片がついてしまったからさすがの伯爵も驚いた。ここは国王のクエストをしっかりこなした甲斐があったというものである。信頼度はMAXであった。
「で、後は個人銀行への借金だが……とりあえず60,000ダカットが手元にある」
「50,000ダカットばかり足りませんぜ」
「うるさい奴め」
「あっしだってただ働きしてるんだから少々はご勘弁を。もう何ヶ月も給金をもらってませんぜ」
「いま流行のブラック企業というやつですわね」
「……」
痛いところを突かれた伯爵にとって運が良いのか悪いのか、衛兵が走りこんできた。
「伯爵様!なにやら債権団代表代理と申す女が面会を申し出ておりますが……」
「追い返せ!」
「そんな無茶な……」
外が少々騒々しい。衛兵の誰何する声が聞こえてくる。その女は既に城内にいたのだった。
「あなたがポバティー伯爵殿ですね」
ブーツの音をカツカツ言わせながら女が一人。
「何奴?!」
「わたくし、このたびの債権団代表代理に任命されました、ロヨラと申します」
そして胸の辺りをごそごそやる。
「ああ旦那様、なんと破廉恥な!」
と数枚の紙切れを取り出した。
「そんなことよりその紙切れはなんだ?」
「伯爵殿、今日債務をお支払いいただけない場合、」
と女はためを作って言う。
「債権団代表代理として、ポバティー村と同城を接収いたします」
伯爵はため息をついた。ついにホームレス貴族の誕生か。そして天を仰いだ。かつてそこにあったシャンデリアはとっくのとうに二束三文で売り飛ばされていたから、一つのたいまつが薄暗く周囲を照らしているのみであった。