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王から手紙が届きました

サンバイン公国 ルイジャンドルの町


「集合!」

ポバティー伯爵以下三人して顔を寄せ合いひそひそ話が始まった。

「どうされますの旦那様?何か変なのに嗅ぎ付けまわられてるようですわ」

とエスメラルダはまるでストーカーに付きまとわれているかのような厭わしい顔をしている。


「まず塩の買い付けについてだ。これはこれでよい。そもそものわれらの使命を考えよ」

「市場に流れる塩と砂糖を少なくし、値段を吊り上げ、国民生活に悪影響を与える、でしたね旦那?」

「その通りだ。だから誰がやったにせよ、買占めが起きているということは塩の値段が上がる。結果オーライなわけだ」

「でも今後はやりにくくなりますわね?こうなっては少しでも買い付けを行えばすぐ話が広がっていきそうですわ」

「なるようになるわい」


「あー……失礼」

置いてけぼりを食らったレインボと名乗った男が話に割り込んできた。

「名刺を渡しといてなんですがま、今のところ公正取引委員会は公式には動いておりません。ご安心ください」

「はあ」

「これはまあ、個人的に調査を始めたと言いますか、ああそれだと名刺は渡しちゃまずかったかな……まあ何せカミさんがうるさいのでね」

レインボは頭をポリポリと掻いている。

「何かご存知だったらいつでもそこに書いてある事務所にいらしてくださいな。お茶くらいご馳走しますよ」

外にびっくりするくらいボロボロの馬車がとめてあり、それに乗り込むと、それじゃ、と言い去っていった。


「いったいなんだったんでしょう?」

「わからん。しかし見たかあの馬車」

「旦那、そっちですかい」

「うちのオンボロとどっこいだぞ」

「そんなことよりサンバインにも伝えたほうがよろしいんじゃありませんか、旦那様」

「そうしよう」


三人はもはや用のなくなったルイジャンドルをさっさと後にした。残るは砂糖の買い付けだが、一旦首都ゴンドピアに戻ってサンバインと今後について相談することにした。もちろんレインボと変わらぬくらいボロボロの荷馬車に揺られて、である。大きな石に乗り上げるたびリューリクは頭を天井にぶつけた。悪態をついていたがじきにおとなしくなった。諦めたのだろうと伯爵は理解。一行はなんとか首都ゴンドピアにたどり着いた。



ゴンドピアの朝は早い。夜が白み始めるころ既に町は起き始めており、薄ぼんやりとした景色の中お店の明かりが煌々とついている様は少し幻想的である。その分夜は早く19時にもなると大抵の店は店じまいを始める。


そこかしらでせりの声が聞こえる。やはりフルーゼン中央市場はとっくのとうに目覚めていた。ゴンドピア首都圏各地から集まってくる青果生花、畜産物、工業品が売り買いされているのだ。口角泡を飛ばす商人達をわき目に徒歩で15分のところ、古風な家並みが立ち並ぶミーチノ旧市街にフルーゼン砂糖・塩商会は立地している。そこへ一行がやっとこさたどり着いたのは朝8時ごろであった。


「いよいよ奴が動き出しましたか」

サンバインは朝食を三人に勧めつつ、懸念を口にした。


「ありがてえ。この一週間まともなメシを食ってねえ」

「わたしなんて4キロもダイエットできましたのよ」

「わしに感謝しろエスメラルダ。最近良い暮らしに慣れてふくよかになってたからな」

「大きなお世話ですわ旦那様」

「しかしこのベーコンは贅沢すぎるな。脂身だらけではないか!」

「それなら旦那、それをあっしにくだせえ」

「バカ言うな!」

まるで動物園である。サンバインもどこから話をしていいやら若干困り顔であった。


「あのー話を続けてもよろしいでしょうか?」

「うむ構わん続けたまえ」


「……レインボというのは火のないところに煙は立たぬ、が座右の銘の男。なかなか鋭いところがあります。公正取引委員会が表立って動き始めたわけではなさそうなのでまだいいですが、用心するに越したことはないでしょう」

「どうしたらよいだろうか?」

「今のうちに買占めを進めましょう。正式に公取が動き出す前に」


サンバインと腹がくちくなった三人は再びフルーゼン中央市場に向かった。公国において砂糖を生産する土地はなく全量を輸入しているため、売買は全て中央市場で行われ、実際の品物もそこを経由する。あちこち回らなくて良い分買占めはラクだった。


「エスカドロン公国の人民の平均砂糖摂取量は一日あたりおよそ50グラム、ゴンドピア首都圏には30万もの人民が住んでいるので少なくとも約1,500トンもの砂糖が中央市場で取引され一日で消費されているわけです」

「すさまじい胃袋だな」

「公国は全量輸入でまかなっていますが、私の想定ではそのうちの10%。つまり150トンほど買い占めれば価格に相当な影響を与えてくるかと」

「150トン買い占めるとすると、今の平均価格だといくらかかる?」

「今はキロあたり50フローリンですから、1トンあたり50,000フローリン。150トンございますから、7,500,000フローリンは必要かと」

「……為替レートはどうなってる?」

「朝見たときですと1フローリンで10ダカット丁度でした」

「75,000,000ダカット?七千五百万ダカット?いくら王が資金援助を約束してくれているとはいえそこまでかかるとはお考えになっていないに違いない」

「しかしそれくらいは最低限必要です。いくら小さな国とはいえ一つの国の経済を止めようとするとここまでの力が必要となるのです」

「ひとまず王に聞いてみるとするが……」


伯爵の資金援助のお伺いは即日速攻で返事が返ってきた。


「早いな。で、答えは?」

「書面をご覧ください」

「おっけー、とだけ殴り書かれておる。王は遊びのつもりでやっているらしい」

「砂糖不足で苦しむが良いと王は仰っておられたそうな」

「王は鬼か」

巨大な取引が目前に迫っていた。

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