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いきなりですが領地に帰らせていただきます
むかしむかし、ある国にポバティーという伯爵がいた。
彼は自分の帳簿を見ていつも巨大なため息をついていた。
「金が、ない!」
なんたる悲痛な叫び。なんというシンプルかつ悲しい叫び。そう、まったくないのである。金が。
身分は貴族のはずなのに、余りに貧乏なので王宮の晩餐会に着ていく服がない。戦争となっても武装した従者を連れて行くことができず、ぼっちで参加する。毎日の食べ物にすら困る有様。
「何でこんなに貧乏なんだろう?……よし、決めた!」
ある日伯爵は自分の領土に帰って内政を本気でやることにした。今までろくに施策を打ってこなかったのは、貴族は王宮に勤めなくてはならず、自分の領土は家来に任せっきりだったのだ。
「王様。と言うわけで、一週間ばかり領土に戻ります」
と王様にお伺いすると、
「いいよ」
との返事。ポバティー伯爵は領土へと戻っていく。もちろん徒歩で。馬車などというブルジョアなものは持ち合わせていない。
目指せ億万長者、ポバティーの戦いの火蓋が静かに切って落とされたのだった。