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個性的な臣下達

「うむ、今日も緑色が美味いな」


例のごとく、今日も魔王は王座に座り緑水を飲む。魔王としてはこのまま何時ものようにダラけてしまいたい所ではあるが、今回はそうはいかなかった。ある件について話し合う為に魔王直属の部下達に召集をかけていたのである。魔王は自身の周りで何かの動きがある度に、こういった召集を掛け会議を開いていた。この議会自体、当初魔王自身はほのぼのとした空気で行っていたのだが、ある一人の男がその情けない姿にひどく憤慨し、魔王に殴りかかるという事が起こった為、それ以来この議会においては真面目に行う事となったのであった。


「そんなに美味しいのですか?私はやはり、あまり好きになれないのですが……」


そう少し申し訳なさそうに口を開くのは、隣で控えるように立っているアリシアだ。


「何だと?こんなにも心落ち着く飲み物は何処を探しても無いというのに。良さが分からないとは何とも勿体無い限りだな。そう思わないか、"ナクイ"?」


魔王の視線の先、そこには東方に伝わる"ジンベイ"という涼しげな衣服を身につけた、何処か飄々(ひょうひょう)としている男が一人いた。その者はテーブルに足を乗せて椅子に座り、魔王と同じく緑水を飲んでいた。


「そりゃあ、間違いねぇな。これが駄目なんてのは人生の3分の1は損してるぜ、嬢ちゃん?」


「ナクイさんは黙っていて下さい。それと何度も言うようですが、魔王様の前でその様な態度は(いささ)か無礼ではありませんか?足を下ろして下さい。」


「おいおい、そんな恐い顔してっと折角の美人が台無しだぜ?そんな肩肘張らずに、もう少し気楽にいこうや。そんなんじゃあ、愛しの魔ーーーうおぉ!?」


ナクイが何かを口走りそうになった瞬間、アリシアの手から何かが放たれた。それに気付いたナクイが慌てて避けると、 それはナクイの頭上を掠め飛んでいき、カッという小気味の良い音を鳴らし扉に刺さる。刺さった位置にあるのは目を凝らさないと分かりにくい程の細さを持った、長さ10センチ程度の針のようなものであった。


「……じょ、嬢ちゃん。今、殺気を込めて"あれを"俺に投げなかったか?」


避けた勢いで椅子から転がり落ちたナクイが恐る恐る尋ねる。


「ええ、だって殺気を込めて投げれば避けれるでしょう?本当に良かったです。ナクイさんが避けて下さって」


そう言うアリシアの顔は眩しい程の笑顔だ。ただ、1つ付け加えるのであれば、目は全く笑っていなかった。


「オイ魔王。何だァ?この騒ぎはよォ。殺気がおもっきし漏れてやがったが」


そう言いながら扉を開けて入ってきたのは、少し目つきの悪い赤い髪の男であった。その、少し乱暴な口調と細身ながらかなり引き締まった体躯からは、戦闘が好きなイメージを持たせる。しかし、そんなものより分かりやすい物を彼は持っていた。それは、彼が背負っている、彼の体を優に越える大きな剣である。その剣の存在は、彼のイメージをより強固なものにするのに一役買うのは間違いないであろう。


「なに、いつものだよ。私は気にしないと言っているんだがな」


「何を(おっしゃ)いますか!魔王様は"仮にも"私達の主人なのですよ?そうでありながらあの態度、見過ごせる訳がないではありませんか!?」


「…….アリシア、何気に私に対して酷いことを言っていないか?」


「普段から真面目にして下されば、私も"仮に"などを付けたり致しませんよ?」


「成る程、それは厳しい相談だな」


緑水を飲みながら呑気に構える魔王にアリシアはため息を吐くと、入ってきた男に顔を向ける。


「"グランズ"、貴方からも魔王様へ言って下さい。もっと真面目に魔王をやる様にと」


「あァ?俺は別に構いやしねェよ。魔王がどういうやり方しようがなァ。ただーーー」


グランズは言葉を切ると、明らかに(まと)う雰囲気が変わっていく。それは、一般的な者なら失神してしまう程の殺気であった。そしてその殺気は、魔王へと静かに向けられていた。


「俺を"ブッ倒した奴"が、腑抜けたツラァ見せるってんなら、俺の命を()けてブッ潰すがな」


それは一瞬であったか、それとも数秒のことであったか。グランズは殺気を消すと、


「まぁ、俺の前じゃなけりゃどんな腑抜けたツラァしてようが、どうでもいいことだがな」


そう言うと、ナクイと反対側の椅子へと歩いていく。すると、グランズの背後に隠れ今まで見えていなかった者が出てくる。


「あら、ステラではないですか。どうして入って来なかったのです?」


「……魔王に…言わ…れたから」


「ふむ?私はそんなことを言ってはいないが」


両者の食い違いに、興味が無さそうに欠伸をしているグランズを除く全員が、頭の上に「?」を浮かべる。


「え〜と、魔王様には何と言われたのですか?」


そんな疑問に対しステラは、ペタペタとグランズの隣の椅子の方へと歩いていくと、ぺたんと座り小さな口を開く。


「……前に…誰、かが…並んでいる時は……追い越しちゃ…駄目って、言ってた……よ?」


魔王は理解しているのか苦笑しているが、ナクイとアリシアはイマイチピンと来ていないのか、説明を求める視線が魔王へと向けられる。


「前にステラと"ブルキナガラ"に行った時の事を言っているのだろう。そうだろうステラ?」


ステラは小さくコクリと頷く。しかし、それを聞いたアリシアとナクイは少し慌てている様子だ。


本来、ブルキナガラに行ったからと慌てることなど何もない。何故なら、ブルキナガラは魔界の中心部にある魔界唯一ある都市であるからである。この都市は、魔王のランク制度が作られたのと時を同じくして第1位の魔王によって設立されたもので、戦闘行為の禁止を掲げる都市でもある。その為、多くの戦闘を好まない一般の魔人達はここに移住し、又多くの産業も発展を見せ都市内部は大きな賑わいを見せている。


そんな中で今回2人が危惧しているのは、その街の中で流れるある噂についてであった。


「おいおい、そんなこと俺は聞いてないぜ?"例の噂"もあって、お前さんを狙う奴なんざ山ほどいるんだ。それを自覚して動いて貰わねぇと困るってもんだぞ」


「ナクイさんの言う通りです!それに、ステラとふ、2人でなど!」


「……おい、嬢ちゃんよ。そこじゃないだろ?」


「え?ーーーあっ」


アリシアは、自分が何を言ったのかを理解したのか真っ赤になりかけた顔を身体ごと直ぐに背ける。数秒後に顔を戻すと、何事も無かったように振る舞い、


「申し訳ありません。先程の発言も含め、少々取り乱しました。それで何があったのでしょうか?」


そう言って、少し呆然としていた魔王を促した。


「あ、あぁ。それでだな。ステラが、美味しいと評判の出店の物を食べたいと言い出したんだ。しかもその出店はかなりの行列でな。そこで私は、「待っているから買ってきて良いぞ」と言ったのだがーー」


「ええ、それでどうしたのです?」


「そこでステラが、「待たせる…のは、嫌だか、ら」と言って並んでいる者達に催眠を懸けて順番を譲らせたのだ。だから、追い越しはいけない事だと言ったのだが、まさかこう極端に捉えてしまうとは思わなかったぞ」


「成る程、そういった事があったのですか。確かにそれはいけませんね。そのような事をすれば嫌でも目立ってしまいますから。やるならば"もっと目立たない方法を取るべき"でしたよ、ステラ」


「うむ……ん?」


「失敗……"誘導"に、する…べきだった」


「……おや?」


「確かにそれならば、目立たずに自然にその場から離れさせることが出来ますね。今後この様な事がありましたら、何が最善かを選択して行動をお願いしますね?魔王様の不利益になるような事はしてはいけません」


「うん……分かってる」


「……ナクイ。この2人の会話に疑問を持つのは、私がおかしいからだろうか?」


「いやぁ、なんつうか。"一般的"に見りゃあ、魔王様が正しいんだけどよ。まぁ、そこで疑問を持つ辺りがお前さんらしいぜ」


ナクイと魔王、ステラとアリシアがそんな話をしていると、今まで全く話に加わって来なかったグランズが「何でもいいけどよーーー」と欠伸混じりに一言。




「ーーー会議始めなくていいのかよ」




「「「あっ」」」



こうして、意外な人物の一言により会議は元の流れへと戻ったのであった。









































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