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臣下の想い

「全くアリシアは……何故分からんのだ。魔王らしいことなど、どれを一つ取ったところで厄介な状況にしかならんだろうに」


ほぼ日課と化している言い争いを終えた魔王は、自室へと足を運んでいた。アリシアとの戦い(口論)は毎回白熱する為、自室へと戻り戦闘での傷(精神的な傷)を癒す為である。


「言いたいことは分かるんだがな…」


魔王自身、何故アリシアが毎日駄魔王と言ってまであの様に食い下がってくるのかも理解はしているのだろう。それでも頑なに何もしないのには、何か理由があるのかも知れない。


「最近は"第10位"であるルハンドが動きを見せているようだし、見えている蛇をわざわざ突くこともないだろう。まぁ、あいつは蛇ではなく"オーガ"だがーーん?」


そう呟きながら魔王が自室へと入ろうとすると、その部屋には明らかな違和感が滞在していた。書斎兼寝室である魔王の部屋は、そんなに大きくない為幸い違和感の正体はすぐ見つかる。


因みに誤解が無いよう弁明すると、この部屋の大きさは魔王自身が望んだものだ。


というのも魔王も最初は城の中で一番広い部屋を使っていたのだが、部屋が広すぎて眠れないというなんとも魔王らしからぬ発言があった為、この部屋への変更となった。その際、ある人物と一悶着(もんちゃく)あった事は言うまでもない。



そして魔王は、何時ものことであるかのように迷い無くその違和感の正体へと近く。その先にはベッドの上で気持ち良さそうに眠る、白のワンピースを着た可愛らしい少女がいた。


その光景に魔王は仕方なさそうな顔をしながら、(おもむろ)にその小さな頭に手を置くと、澄み切った青空のような髪を撫ぜる。


「全く……気軽に俺のベッドで眠りこけるような奴は、この城ではお前位のもんだぞーーてい!」


「うッ!」


魔王が間抜けな声を出しながら軽く少女の頭を叩く。突然感じた無視出来ない衝撃に少女は呻くと頭をさすりながらベッドの上に座り、綺麗な青い瞳を持つ目を(しばたた)かせた。感情の読みにくいその少女の顔には、微かに驚きが見える。


「痛い…どうして、叩くの?」


「軽く叩いたんだから痛いはずがないだろう」


「私の心…は痛い。魔王にまさか叩かれるなんて……思わなかった」


「おい"ステラ"、風聞の悪い事を言うんじゃない。お前はただ寝たフリに気付かれたのに驚いただけだろ?」




「………うん…そう。何で…分かったの?魔法?」


本当に不思議そうな顔しながら小首を傾げるステラに魔王は苦笑しながら「違う違う」と否定の言葉を口にする。


「じゃあ…何で?」


「ステラの頭を撫ぜた時に、呼吸の時の身体の動きが寝ているそれとは少し違ったんだよ。それで分かったんだ」




「……変態?」


「いやいや何でそうなる!?俺の観察眼の賜物(たまもの)だろ!?」


「そうだと…しても、女の子を…ジロジロ見る…のは…変態、みたいだ…よ?」


「うぐッ……た、確かにそうか。分かった、今度からは気を付けるようにする」


「うん、でも…私には別にいい…けど」


「結局俺はどうしたらいいんだよ」


「元気…出す」


ステラは、肩を落とす魔王に何故か声援を送ると、とてとてと部屋の外へと出る。そして「またね」と言うと、そのまま何処かへと行ってしまう。


「本当に読めないなあいつは。というか、そもそも何故あいつは俺が部屋に戻ると高確率でベッドに寝てるんだ?何も言ってこないから、用があって待っている間に寝てしまったという風では無いとは思うんだが」


そうして少し考える魔王であったが、あいつに関しては考えるだけ無駄だという結論に達すると、先程のアリシアの事に加えステラによる精神的疲労もあり、そそくさとベッドに横になる。唐突に魔王は鼻をスンと鳴らすと、何かに気付いたかのような顔を見せ、途端に顔を(しか)める。


「これじゃあ本当に変態みたいじゃないか」


そう言うと、暫くは落ち着かない魔王だったが、自分とは違う甘い香りに安らぎを覚えたのか、やがて魔王は自然と深い眠りへと落ちていった。




○*○*○*



魔王が自室のベッドで深い眠りについている頃、厨房では2人の女性が話をしていた。


「全く、魔王様にも困ったものです。ランク第3位という称号はそんなに軽いものではないのですよ?それですのに、他の魔王を襲撃するでもない、王国の姫を(さら)ってくるのも面倒くさい…。はぁ、どうしてやる気をだして下さらないのかしら」


そう言って愚痴(ぐち)(こぼ)しているのはアリシアだ。しかし、憂いた表情とは裏腹にその仕事は速い。数百はある汚れた食器を次から次へと綺麗に洗い、磨かれた食器が素早く重ねられていく。これだけで、アリシアの能力の高さが(うかが)える。


「私…は、このままでも…良い。動か…なくても、済むから」


隣でアリシアの愚痴に答えたのは、ステラだった。ステラは話しながらも積み重ねられた食器を、幾つも浮かせて元の場所へと戻していく。


ステラはこれを何でもないようにやってのけるが、多少魔法に精通しているだけでは中々出来る事ではない。まず、この魔法の構築には"浮かせて移動させる"という2つの行程が必要だ。これはあるけどイメージ出来れば簡単である。

しかし、それを複数同時に行うのであれば話は変わってくる。その魔法を1つ構築したとして、それが例え同じ魔法であったとしても同時に幾多も行使出来る訳ではないのだ。頭の中で並列して幾つもの構築をしていかなくてはならない。

右手と左手で同時に同じ文字を書こうとしている感覚であると言えば、少々分かりやすいかも知れない。ステラの場合、二本同時どころの話ではないが。ともあれ、それを表情1つ変えずに行使するステラは規格外な存在と言えるだろう。


「ステラ、貴方がそんなだから魔王様も堕落するのですよ?」


「魔王は…最初から、ああ…だった…よ?」


「うっ…確かに、そうですが…」


「大丈夫……」


「何がですか?」


「魔王…は、優しい…から」


「ステラ、それ答えになっています?」


「……?」


首を傾げるステラにアリシアはため息をつくと、いつの間にか止めていた手を動かす。


「でも、そうですね。確かに…お優しい方なのは間違いありません」


「……ん、そう」




2人は何かを懐かしむようにそう言うと、それから暫く口を開くことはなかった。その2人を包む空間は端から見ても何か感じ取れるものがあったのか、そこを通りかかった見張り達が彼女達に声を掛けるようなことは、一度もなかった。








































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