6鐘
「この道好きなの?」
手に猫じゃらしを持った彼女が、坂の上で町を眺めていた青年に話しかけた。
青年は、驚いたように彼女を見た。彼女をどこかで見たような気がしたのだ。
しかし、そんなはずはないと、青年はすぐに思った。そして一言だけ呟いた。
「うん」
すると彼女は顔をほころばせた。
「私もこの坂道好きなんだ。なんだか懐かしい気持ちになるの!」
青年は驚いたように、わずかに目を見開いた。
「俺も、何か懐かしい気がするねん」
そう呟いて、嬉しそうに微笑んだ。
彼女はその笑顔を見て、何だか無性に泣きたくなった。
何故かは分からなかった。だけど、涙が溢れそうになったのだ。
ずっと迷子になっていて、やっと母親に見つけてもらえたような、そんな気持ちがした。
逢いたかった人に、やっと逢えたような、そんな気持ち。
彼女はそれを悟られまいと、わざと明るく声を上げた。
「関西弁だ。引っ越してきたの?」
「うん。昨日越してきて、昨日散歩に出たらここを見つけたんや」
「そうなんだ……どこの学校に通うの?」
彼女がそう聞くと、青年は彼女の制服に指を指した。
「同じとこ」
彼女は驚いて声を荒げた。
「本当!?」
その彼女に少年はこくりと首を縦に振った。
彼女は何だか嬉しくなって、右手を差し出した。
「私、猫田葉子」
差し出された右手を、青年は掴んだ。
「俺、中山時人。よろしくな」
握手をかわず二人を夕日が優しく照らし出す。
その時、さあっと優しい風が吹いて、
付近にはないはずの草原の匂いが駆け抜けた。
二人は自然と見詰め合った。
そして、どちらともなく微笑むのだった。
完。