Re:復讐 ~胸切~
あなたの学校にはいじめがありますか?
いじめを主題にしたホラーです。
彼女は、いじめにあっていた。
「きゃははは、こいつ便所の水飲んでんよ!」
取り囲む女子四人の中心には、彼女が居た。
「マジいいオモチャじゃね?」
「ていうか死ねよ」
「汚いから近寄んじゃねーよ」
一人の女子が蹴りを入れて、彼女は倒れこんだ。
その中に居て、ただ彼女は笑っていた。
いじめが始まったのは、クラス替えで今のクラスになってからだった。
常ににこにことしている様は、一部の女子の嗜虐心を煽った。
そして、彼女は標的になったのだ。
時期はもうすぐ夏。
じわじわと暑さが迫ってくる。
ある日、彼女の机には花瓶に入った花が置かれていた。
それでも彼女は笑うことを止めなかった。
「何笑ってんの? イミフなんだけど」
「この意味知らないんじゃねーのぉ?」
「きゃはははは、それじゃ単なるバカじゃん」
「あっはは、だってこいつバカじゃん!」
四人が嘲笑う。
それでも彼女は辛そうな顔を見せることなく席に座った。
四人の顔を見て、微笑さえ浮かべたのだ。
「何こいつキッモ」
「笑うんじゃねーよマジキメェ」
「キチってんじゃないのぉ」
「やめてよー、あたしたちまでおかしくなるじゃん」
甲高い声を上げて笑う四人。
「おい、みんな席に着けー!」
「やべっ」
担任の声が響き、四人は慌てて席に戻った。
「ん? 何だこの花は」
「…」
担任が彼女の席に近づき、四人は顔を見合わせる。
いじめがバレたら、今後が面倒くさい。
「お前らか?」
四人のリーダー格である女子のところに行き、担任は聞いた。
「違いますー」
「来たら置いてあったよ、ねぇ」
「そーそー」
「隠すこと無いだろ、…いい事するなお前ら」
「…!?」
破顔して言ってくる担任に、四人は再度顔を見合わせた。
そしてホームルームが終わり、担任が出て行くと、四人は吹き出した。
「マジィ?」
「笑えるんだけどー! いじめ容認派かよ!」
「担任も意味知らないんじゃね?」
「ねぇ…なんか変じゃない?」
一人が言う。
「何が?」
「担任の態度だよー。寛容に見せといて親とかにチクったりすんじゃない?」
「そんなん即コロスに決まってんじゃん」
「親バレはまずいよねー」
ちらりと四人は彼女を見た。
彼女は変わらず微笑んでいる。
「相手アレだよ? 大丈夫だって」
「心配しすぎじゃね?」
「そーそー」
「うん…」
一人の心配は相手にされずに終わった。
次の日。
四人の机には、前日の彼女の席と同様に花が置いてあった。
「な、何これ…」
「ちょっとあんたでしょ!」
「何ナメた真似してんのよ!」
「マジムカつくんだけど!」
ぐいっと詰め寄る四人に、悪びれることなく彼女は笑っていた。
「何笑ってんだよ!」
すると、彼女は顔を伏せた。
周囲は静まりかえっている。
誰も、四人と彼女に関わりあいたくないようだった。
「なんとか言えよ!」
「………よ」
彼女は、初めて口を開いた。
「聞こえねーよ!」
「はっきり言えよ!」
「…私じゃないよ…」
バンと机を叩いて言う二人に、彼女は震えた声で言う。
「嘘言ってんじゃねーよ!」
「お前以外にこんな事するヤツいるかよ!」
きゃんきゃんとよく吼える犬のように言うのに彼女は、堪えきれずに顔を上げた。
その顔は、笑いを堪えたように歪んでいた。
一瞬、四人が怯む。
「あははははははは!!」
突然何かが切れたように哄笑を上げる彼女の迫力に、四人は後ずさった。
「な、な」
「何コイツ…」
「おかしくなったんじゃないの…?」
「こわぁ…」
響く甲高い笑い声に、四人の頬に一筋の汗が流れる。
ひとしきり笑い終えると、心底楽しそうに彼女は言った。
「おかしいのはあんた達でしょ」
「は、はぁ? 何言ってんの?」
同意を求めるように四人の内の一人が三人を見ると、こくこくと頷かれた。
それをじろりと見ると、彼女はふぅと芝居のように大袈裟にため息をつき頭を横に振る。
「もう笑い堪えるの疲れちゃった…。ずっと耐えてたのに。滑稽すぎちゃって」
「なっ、何が滑稽なのよ!」
また一人が吼えた。
すると、また彼女は高笑いした。
「あー、おかしい。これを滑稽と言わずしてどうするのよ」
四人が顔を見合わせる。
あまりにも普段と打って変わって様子がおかしい彼女に、気圧されているのだ。
「なんで私がいつも笑ってたんだと思う? 全てこの時の為よ」
彼女の瞳は、四人の顔をかわるがわる映していった。
「もう、あんた達も私もとっくに死んでるんだから」
「…はぁ?」
「だ・か・ら、クラスの人たちが花を供えたのよ」
心底楽しそうに、彼女は言い放つ。
クラスの人間達は、その様子を見て俯いた。
そうして、彼女は事件の概要を語った。
…事件が起きたのは五月の事だった。
クラス替え以降ずっといじめを受けていた彼女は、とうとう耐えられなくなり、四人を包丁で刺し殺し、自身も首を切って自殺した。
四人は、一人ずつになったところを狙われた上で心臓周辺を何度も刺され、ほぼ即死の状態だった。
現場検証が行われた後、通常授業に戻ると、彼女達は教室に現れた。
クラスは騒然となったが、彼女達に触れようとはしなかった。
不思議なことに、死んだことを自覚しているのは、いじめを受けていた彼女だけだった。
即死だったからこそ、自分が殺されたことに気づかなかったのだろうか。
それは、彼女にとって喜ばしいことだった。
きちんと自分の手で四人を絶望に陥れることが出来るのだと。
それ以降、何事も無かったかのようにいじめは繰り返された。
彼女は、死してなおいじめを受けていた。
殺されたのを気づかずにいじめを続ける四人を、狂おしい程憎く思い、そしてほくそ笑んでいた。
この人たちが死んだのを気づき絶望した時、自分の復讐は終わるのだと。
「あたしらが…死んだ…?」
「はっ、意味わかんね!」
「こいつに殺されたとか、マジ笑えない冗談なんだけど」
「ていうかあたし達足もあるし、物だって普通に触れるんですけど。バッカじゃないの」
見せびらかすように、足を出す。
「ホラー映画とか見たことないの? 触れる幽霊なんていくらでもいるじゃない。ポルターガイストって知ってる?」
「だって、だって、みんなにも見えてるじゃない!」
一人が焦りだす。
「ああ…全く見えないなら心霊番組なんか存在しないと思わない?」
「っ…!」
「それに…このクラスの人も同罪ってことで見えてるんじゃないかなぁ」
彼女がクラスを見回した。
すると、クラスの人間達は誰しもが顔を伏せた。
彼女を助けなかったクラスの人間も、いじめの同罪だと言うことなのだろう。
「ねぇ、嘘でしょ?」
縋るように周囲を見回すが皆俯いたまま誰も視線を合わせない。
それは彼女の全ての言葉を肯定していた。
「うそだ…」
「嘘って言えよぉっ!」
手近に居た生徒に掴みかかるが、その生徒もまた口を閉じたまま目線を合わせようとはしない。
あまりのショックにふらっと倒れかけた一人を、もう一人が支える。
「そんなの…ないよ…」
「なんでそんな事に…!」
そして、思い当たる。
自分達のしてきたことが、いかに残酷で人をどれだけ追い詰めていたのか。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「だから…お願い助けてよぉ」
四人が崩れ落ちて泣き叫ぶ。
「そう言って、あんた達が私を助けてくれたこと、あった? まぁそもそももう死んでるんだから助けようないけどね」
彼女が極めて冷酷に言い放つと、四人は絶望した。
そして後悔した。
自分達のしでかしたことを呪った。
「腕が…透けてく…」
「あたし達消えるの…?」
「いやぁっ、消えたくない!」
「やああああぁ…」
そして、四人は掻き消えた。
後には四人の声の残響と彼女だけ。
「…消えたか」
「先生…」
いつの間にか背後に立っていた担任に、ふと視線を合わせる。
「お前のこと、助けられなかったのは俺も同じだ。申し訳ない…」
「いいんです。あいつらが狡猾だったんですから」
視線を逸らして言う彼女に、担任は涙を流す。
「もう気は済んだかい? さぁ、そろそろ成仏しなさい」
「一つだけ、心残りがあるんです…。いいですか?」
「なんだい?」
「この教室で暫く普通の生活を送りたい…。普通に授業を受けて平穏な日々を送りたい…」
「そうか…」
担任が頷くと、彼女は初めて可愛らしく笑った。
そうして彼女は、まだこの教室にいるのだ。
本当に幸せそうに笑って…。
「Re:復讐 ~無救~」の救いを求めたバージョンです。
救いがあるかどうかはあなたの判断次第です。
閲覧ありがとうございました。




