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第二話

「……ど、どういうこと? わ、私、何か悪い事をした? もしそうなら、あ、謝る。だから――」


 勇者は突然告げられた言葉に動揺を隠すことができず、震える声で問いかける。

 今まで共に苦難を乗り越えてきた仲間達。彼らから大事な話があると切り出され、別れを一方的に告げられていた。

 勇者の頭が混乱する。――何故。どうして。

 自分達が戦わなければ魔物を食い止める事は出来ない。魔物達は徐々に領域を延ばし、人間社会を圧迫し始めている。

 人間と魔物では身体能力が違いすぎる。そして繁殖力も。このままではジリ貧。人間は滅びる。

 だから女神に選ばれた勇者は必死に戦っている。ただ選ばれたというだけで、人間を守る為に必死に魔物を殺している。


「今申し上げた通りです。俺達はもう貴方についていく事が出来ない」

「申し訳ありません、勇者様。ですが、貴方の戦いに我々は追いついていけない。我々は普通の人間なのです。……貴方とは、違うのです」

「私達は私達なりに、この世界の為に尽くすつもりです。魔物との戦いの最前線に立ち続けます。……歩む道は違いますが、たどり着く場所は同じです。ですから……」


 三人の仲間達。勇敢で正義感に溢れる仲間達が、目を伏せて、だがはっきりと宣言する。お前とは今、ここで別れると。


「――そ、そんな。今まで一緒に頑張ってきたのに。わ、私がもっと頑張るから、だから」


 どんなに恐ろしい敵、険しい道のりでも、仲間がいたから戦ってこれた。

 一人では無理だ。旅は続けられない。一人で魔物の長たる魔王を倒す事など出来る訳がない。


「……もう限界なんですよ。以前から思っていましたが、今日確信しました」

「客観的に見て、我々は貴方の足を引っ張っている。先日の戦いでも、貴方は常に我々を庇いつつ戦っていた。我々は何もしていない。貴方が、“一人で”、あの恐ろしい魔物を倒したのです。残念ですが、最早我々は貴方の力にはなれない。いや邪魔者でしかない」

「勇者殿。貴方ならば、一人で魔王を討ち取れるでしょう。どうかこの世界に安息をもたらしてください」

「ひ、一人なんて、そんな、無理だよ」

「出来ますよ。あの恐ろしい二本角を討ち取った貴方なら。必ず、この世界に平和を取り戻すでしょう」


 一国を攻め落とした魔王軍の軍勢。人間の居城を根城とした魔物達。それを討伐し奪還するのが今回の目的だった。

 玉座にいたのは巨大な二本角の化物だった。化物の一撃で三人の仲間達は昏倒した。

 勇者は彼らの治癒を行ないつつ、戦闘を続行した。もう死なせてくれと泣き喚く仲間に必死に治癒を続け、最後まで戦い続けた。

 二本角の化物は、本当に強かった。勇者は何度も切り裂かれ、踏み潰され、引き千切られ、噛み砕かれた。

 血塗れになり、肉片をばら撒き、悲鳴と怒声の混じった金切り声を上げながら、狂ったように剣を振るって戦い続けた。

 そして夜明けと共に、二本角の化物の首を討ち取った。

 ――勇者は勝利した。人間の勝利だ。


「志半ばでこのような形になるのは、非常に心苦しいですが。――それでは失礼します。もうお会いすることもないでしょう。勇者様のご活躍を、心からお祈りしております」


 感情を押し殺した声で、仲間の一人が勇者に告げる。静かに頷くと後の二人もやがて続いて行く。

 勇者はそれを呼び止めようとするが、足が動かない。早く引き止めないと、皆行ってしまうというのに。


「み、皆。待って。ね、ねぇ、お願い、待ってッ!」


 ――お願いだから、私を一人にしないで。一人は寂しすぎる。辛い。これからも私が皆を助けるから。もっと頑張る。誰にも負けないくらいに頑張る。死んでも頑張るから。だから。だからッ。

 勇者は心の底から絶叫する。お願いだから一人にしないでくれと。何故私なんだ、全てを押し付けないでくれと。


「一人にしないで! 私は、私はッ!」


 三人が足を止めて勇者を振り返る。願いが伝わったのだろうか。希望を籠めて、必死で笑みを作り三人の顔を見つめる。

 彼らは脅えた様子で、まるで、魔物でも見るかのような表情で、一言だけ呟いた。





『――化物』






 その日、一人の少女が死に、一人の完全なる勇者が生まれた。









「……またあの夢か。相変わらず胸糞が悪くなる」


 乱れた呼吸を落ち着かせ、大きく深呼吸をする。

 隣のベッドには、マタリがすやすやと安らかに眠っている。何の悩みもなさそうな表情で。勇者は腹いせに頬を抓ってやろうかと思ったがやめておいた。

 ここはロブに紹介してもらった極楽亭の一室。勇者とマタリは相部屋ということになってしまった。

 アートの街の中でも、極楽亭は比較的大きな店構えのようで、中は迷宮探索者でごったがえしていた。

 繁盛しているせいか、一人一室で貸せるほど部屋数に余裕がないということで、勇者は渋々、マタリは二つ返事で了承したのだった。まぁ男女という訳でもないので、宿泊料が折半になるのならば損はない。お金に余裕もないし、むしろ望ましい。性格が合わないと判断したならば、そのうちマタリが出て行くだろうと勇者は納得することにした。

 盗まれて困るような物もないし、この娘の性格からしてそのような事はしないだろうから。


「やれやれ、完全に目が覚めちゃったわ。……気分転換に下の様子でも見てくるとするかな。なんだか喉も渇いちゃったし」


 誰にともなく勇者は独り言を呟く。悪癖だとは自覚している。けれど止める気も起きない。長い一人旅において、いつからか分からないが身に付いてしまったものだ。

 ――思ったことをすぐに口に出す。苛々したら怒鳴り声を上げる。魔物を見たらたらぶっ殺す。

 薄暗い洞窟やら、迷宮ではそうしていなければ気が触れそうになるのだ。

 もしかしたら、既に狂っているのかもしれない。だが特に問題はない。

 魔物を数え切れないほど殺戮し、そして見事に魔王を討ち取ったのだ。一人の人間の気が触れていようがなかろうが問題はない。

 そしてこれからも殺し続ける。それが何よりも重要だ。

 勇者は口元を歪める。

 鏡に映った自分の姿を眺める。粗末な白い下着を身に着けた少女がそこにはいる。戦闘に邪魔だからと髪は伸びてきたら適当に切り落としている。いわゆるボブカットというやつか。流行の髪型に興味などない。成長途中の身体に大きな傷はない。だがボロボロの満身創痍だ。刻まれたことのない部位などない。

 顔を見る。生意気そうな笑みを浮かべる女がそこにはいた。目には生気がないように見える。


「なるほど」


 どうしてかは直ぐに分かった。自分は死んでないだけで生きている訳ではないのだ。

 納得した勇者は着替えを済ませて部屋を後にした。

 部屋を出て、階段を下りていくとワイワイと喧騒が聞こえてくる。

 極楽亭の酒場はほぼ一日中営業しているらしく、朝方のわずかな時間だけ仕込みの為に閉店するそうだ。酔っ払った客はその間もグダグダしているらしく、実質二十四時間営業といえるだろう。

 なんともご苦労なことであると勇者は他人事に思った。

 酔っ払い達を尻目に、勇者はカウンター席につく。一人ならばここが最適の席である。

 酒場のマスターが怪訝そうな視線を送ってくる。簡単に言うと、なんでガキがこんな場所にいるんだ的な。


「いらっしゃい注文は何にする、と言いたいが……ここは子供の来る場所じゃない。さっさと部屋に戻って大人しくママのミルクでも飲んでな」

「私は子供じゃないし、ミルクは好きじゃない。いいからとっとと酒を出しなさい」


 勇者は催促するようにトントンとテーブルを叩く。酒場でミルクを飲んでどうするのか。そういうのはマタリにお似合いである。あの娘の場合、それでも嬉しそうに飲み干しそうである。皮肉が通用する性格には思えなかった。


「やれやれ、最近の子供は大人の言うことを聞きやしない。それにミルクを飲まないからそんなに小さいんだ。まったくやれやれだ」


 マスターは軽くため息を吐くと、適当に見繕った酒を提供してくる。

 勇者はそれをチビチビ飲んでいく。


(胸に染み渡るこの味。うーん、堪らない。やっぱりお酒は止められないわ)


 ぷはーっと飲み干して二杯目を催促する。金を持ってないと思われるのは癪なので、勇者は先に代金を支払う。

 この宿を後にする時は、ツケ払いにして好きなだけ飲み食いする予定だが。


「ねぇ、私この街に来てから日が浅いの。三杯目も注文するから、ちょっと色々と教えてくれない?」


 勇者は上目遣いにウインクする。それを見たマスターの顔がたちまち歪む。


「…………ゴホゴホ、風邪かな。最近疲れてるからな。とりあえず今日は早く寝たいもんだ」

「おい」

「…………」


 四十代くらいのマスターは、顔を顰めたまま新しいグラスを置いた。特に言いたい事はないようだった。

 ここで引き下がっては勇者の名が廃る。しつこく粘るのが交渉の基本、情報収集は旅の基本である。

 そして情報が集まる場所といえば酒場。これが定番だ。『人の話を聞く』、『人の話を思い出す』。これは忘れてはいけない。冒険者として当たり前のことである。


「ねぇったら」

「はぁ、子供の上に世間知らずと来たもんだ。こんなのが迷宮に入るなんて世も末だ。世界の破滅も近いのかね。地下から魔王が這い出てくるって噂もいよいよ現実味を帯びてきたな。そういや嘆きの祠が――」


 マスターはブツブツと失礼なことを言っている。客商売なのにとんでもない話である。勇者は抗議の声を上げた。


「うるさいわね。私は子供じゃないって言ってるでしょう」

「そうかそうか、子供は皆そう言うんだ。だがまあ良いだろう。一応お客様だ。俺の知っている事なら教えるとしようか。どうせこれから暇だしな」

 周りを見回すとマスターが嘆息する。

 もはや客は出来上がっており、テーブルの酒を適当にあおっているだけだ。料理の注文はこの先当分ないだろう。


「どうもありがとう。流石は大人ね」

「やかましい」


 苦笑すると、空になったグラスを下げ始めるマスター。

 三杯目を飲み干した勇者はお代わりを催促したが無視されてしまった。


「それで結局、なんで皆この街の地下迷宮に行くの? なんか美味しい話があるんでしょ? だって魔物と意味もなく戦うなんて普通は嫌だろうし。死んじゃうものね」


 勇者は単刀直入に聞く。小銭程度のために命の危険を冒そうとする者はそうはいない。世界の為、平和の為になんて胡散臭い物になればより顕著だろう。そんなくだらない物の為に戦うのは狂人か自殺志願者くらいである。

 マスターが心底呆れたように話し出す。その際につまみとして焼き豆を提供してくれた。


「……お前そんなことも知らないで、迷宮に行こうとしてたのか。世間知らずも程ほどにしないと、本当に命を落とすことになるぞ。魔物はガキだろうが女だろうが容赦してはくれねぇ」

「知ってるわ。嫌というほど」

「なら、そういうことは俺に聞かずに調べておけ。迷宮に入る準備をしてから、迷宮探索の意義を調べる馬鹿がどこの世界にいるんだ」

「お金がなかったから仕方がないじゃない。一番手っ取り早く稼げそうだったし。それに魔物をぶっ殺せばそれで良いんでしょ」

「――呆れて言葉も出ない。が、人それぞれだから構わないけどな」

「流石は大人」


 マスターがグラスを磨く手を止め、本当に仕方がない奴だと溜息を吐いた後、話し始める。


「早い話はまぁお前の言う通り金の為だ。魔物を殺して、部位を持ち帰ってギルドに渡すと金が貰える。ギルドはその部位から『魔素』を抽出して星教会へと納めるって訳だ。お前達探索者は一番下っ端の炭坑夫みたいなもんだ」

「星教会? 魔素?」


 何やら分からない単語が出てきたので、勇者は疑問の声を上げる。マスターは本当にこの世界の人間なのかと目を見開くが、親切に話し始める。


「まさかこの世界に星教会を知らない奴がいるとは思わなかった。もしかして、お前どこかに封じ込められていた魔物じゃないだろうな」

「私は勇者だから魔物じゃないわよ」

「それじゃ栄えある勇者様に乾杯だ」

「はい、乾杯」


 グラスを交わした後一気に飲み干す。かなり度数が強かったようで、少しだけ咽る。


「星教会ってのは、この街を仕切っている大陸一の信徒数を誇る宗教だ。『私は星教会を知りませんー』なんて街中で叫ぼうものなら、異端扱いされてぶん殴られるから気をつけろ」

「それは怖いわね。適当に気をつけるわ」

「星の導きがなんたらといってるだけで、特に生活を救っちゃくれないんだがな。だが三国に匹敵する財力に、屈強な教団兵を組織してるからな。睨まれないように精々気をつけろ」

「はいはい」

「それで魔素ってのは魔物の部位から抽出できる魔力の源さ。魔術師が魔法を行使する際に消費するのが魔力、それを結晶化したのが、魔素なんだっけ。なんか違うか? 俺もよく分からねぇがそんな感じだ。とにかくそれが金になる。魔素を手に入れて売って金にする。それが目的だ」

「凄く良く分かったわ」


 魔物をぶっ殺すと金になる。非常に分かりやすい。勇者の口元が思わず歪む。楽しくなりそうだった。


「下に行くほど濃密な魔素が手に入るが、魔物が徐々に強くなる。その代わり、なんだか訳の分からない魔道具も手に入るらしい。だから、正式な探索許可証を皆手に入れたがるのさ。自分に合った美味しい場所で、適度に魔素を手に入れてれば一生楽に暮らせるしな」


 長く話しすぎたと、マスターは手酌をして酒をあおる。勇者が空のグラスに催促すると、仕方がないと言った表情で注いでくれた。


「んで、魔素の元締めがなんだっけ、なんたら教会とかいう怪しい教団だっけ」

「星教会だ。しっかり覚えろ。それに、怪しいなんて言葉を聞かれたら、教会の奴らにぶん殴られるぞ。あいつら武闘派揃いの、ネジが一本イカれてる連中だからな。おっかねぇ」

「マスターの方がやばいこと言ってるじゃないの」

「俺は良いんだよ。褒め讃えているんだからな。何せ俺は星教会に魂を売り、星神様を心の底から崇め奉っているからな。我らに『星の導きあれ』ってな」


 全く本心には聞こえない言葉を口から垂れ流すマスター。天に向かって祈りをささげているが、態度が非常にわざとらしい。


「あっそ。じゃ私も祈っておこうかしら。この豆を捧げて」


 つまみの焼き豆を掲げた後、勢い良く噛み砕く。香ばしくて美味しい豆だった。


「俺を超えるほどの熱心な教徒は、この街には存在しないだろうな。むしり取られている金、いやお布施も凄まじい額だからな。うん、俺がお祈りを受けてもおかしくないな」

「苦労してるのね」

「生きるってことは苦労の連続さ。これは親父の受け売りだがね」

「経験者は語るってやつね」


 しみじみと語るマスター。マスターの人生についてはとりあえず置いておくとして、勇者は『星教会』について少し考えてみる。

 どうやら星教とやらは大陸を席巻している宗教らしい。邪教かどうかは知らないが、喧嘩を売ると面倒くさいことになるだろう。

 何かに魂を捧げ、人の話に耳を貸さない奴らが多いのだ。自分の事が正しいと、心の底から信じきっている。例え、崇拝の対象が悪魔やら魔王だとしても。

 だから、敵対するならば、完全に叩き潰すぐらいの覚悟でなければならない。それは面倒くさいので、勇者はあまり関わらないようにしようと決めた。


「まぁ、お前がいけるような迷宮上層じゃ、その日を暮らしていくだけで精一杯な魔素しか手に入らないだろうよ。腕を過信して無理した奴にはすぐに報いが与えられる。だからこの街は適正な数の冒険者が維持されているって訳だな」

「無理は良くないわね」


 勇者が他人事のように呟くと、呆れた表情でマスターが呟く。


「馬鹿でも分かるように言うと、上層部で辛いと思ったらとっとと故郷に帰れ。自分の分を知るってのも成長の一つだからな」


 暖かい言葉と生暖かい視線を向けてくるマスター。


「今私を馬鹿扱いした? ねぇ」

「気のせいだろ」

「そうかしら」

「もちろんだとも」


 勇者の言葉を軽く受け流し、余計なお喋りをしすぎたと首を回し始めるマスター。

 仕方がないので、機嫌をとる為にもう一杯注文する。情報収集には金がかかるのだ。それに酒は百薬の長である。苦しいこともお酒があれば忘れることが出来る。酒は人生の友である。溺れているわけではない。

 マスターが子供の癖にペースが速いと小言を漏らす。それでも注いでくれるのは商売だからに他ならない。


「ちなみにそこらで酒を飲んでる奴らが、お前の同業者だ。どうだ? どいつもこいつも良い顔してるだろう。壁にぶつかって挫折した奴や、仲間を失って途方にくれてる奴、手に入れた大金に笑いが止まらない奴。俺はそういった顔を眺めるのが、密かな生き甲斐なんだ。お前はいったいどうなるんだろうな。実に楽しみだ」

「嫌な生き甲斐ね。もっと楽しいことを探しなさいよ」

「ほっとけ」


 苦笑すると、マスターは仕込み作業に取り掛かり始める。朝食の準備だろうか。まだ外は暗いというのにご苦労なことだと勇者は酒を口にする。


「ねぇ、迷宮には皆一人でいくの? それとも仲間を探していくの?」

「一人でいきゃ魔素を総取りだが、まぁ厳しいな。ギルドで紹介を受けたり、酒場で見繕ったり、脅して従属させたり。まぁ好きなようにしろ。大人なら自分で考えるんだな」

「そうするわ」

「俺は酒場の業務しかやってないが、昼間はよろず業務をやってるリモンシーって奴がいる。情報を聞きたいなら、そいつに聞きな。事情通だから色々と教えてくれるはずだ。――金さえ出せばな」

「そっか。大体の事は分かったわ。どうもありがとうマスター。これからもよろしくね」


 グラスの中身を飲み干すと、勇者はフラフラと席を立ち上がる。酒が回っているようだった。顔は赤みを帯びて、いかにもな表情になっている。


「これからがあれば良いけどな。精々命は大事にすることだ。死んだら終わり、やり直しは効かないんだからな」

「死んだら終わり? 普通はそうよね。でも違う人間もいるかもしれないわね。そいつが本当に人間かどうかも怪しいけれど」

「……そういう話は星教会の奴らとやってくれ。お前が泣くまでありがたいお話を聞かせてくれるだろうよ。聞き終わった後は、目から星が飛び出るだろうがな」


 しっしっと追い払うような仕草をするマスター。

 勇者は軽く手を上げて別れの挨拶をする。


「それじゃあ、お休みなさい」

「……ああ。って、もうすぐ朝だけどな」


 ふぁーと大きな欠伸をしながら部屋に戻り、勇者は素早く服を脱いでベッドに潜り込む。

 隣にいるマタリは相変わらずすやすやと眠っている。こうして安心して眠れるというのは幸せなことだ。

 ……この娘もいずれ『汚れる』のだろうか。

 それともそれを知らないまま冒険を止め、幸せな生活を送るのだろうか。

 愛らしい子供を抱き、昔は剣を取って無茶をしたものだと、目を細めて英雄譚を語るのだろうか。

(まぁどちらでも良いけれど。それにしても眠い)





「――者さん、勇者さん! 起きて下さい!」


 身体を不躾に揺り動かされ、不快気な表情で勇者が瞼を開ける。

 世界が滲んでいる。意識が薄れて行く。もうすぐ世界は滅びるのか。仕方がないので勇者はもう一度寝る事にした。


「ごめんなさい世界は救えなかったわ。だから私は寝ることにした」

「何を言ってるんですか! 寝ぼけていないで起きて下さいッ!」


 暖かい布団を捲り上げられ、勇者はたたき起こされた。全身に肌寒さを感じて、勇者はようやく目を覚ます。


「寒いわ。というか、何でアンタ、私のベッドで寝てるわけ」


 勇者がベッドで起き上がると、直ぐ隣に呆れ顔のマタリがいる。下着姿だが色気を感じる事はできなかった。


「それは私の台詞です! なんで勇者さんが私のベッドに入り込んでるんですか!? あ、しかもお酒臭いです!」


 鼻をつまんで非難めいた視線を送ってくるマタリ。大きな声が勇者の脳を掻き回す。


「――おはようマタリ。あまり大きな声を出さないで。死ぬわ。それになんでお酒臭いんだろう。不思議ね」

「全然不思議じゃありません。夜中にこっそりお酒を飲んだんでしょう。そして酔っ払ったまま私のベッドに入り込んで寝てしまったというわけです!」

 指を勇者に突きつけるマタリ。朝から絶好調のようだった。

「見事な名推理ね。アンタ戦士じゃなくて探偵にでもなったらどう?」

「迷宮探索初日から二日酔いの人なんて聞いたことありません」

「歴史の証人になれて良かったわね。おめでとう」

「おめでたくありません! 良いから着替えて準備してくださいッ!」


 替えの服をテキパキと用意して勇者に渡していくマタリ。それをぼーっと眺めていた勇者だが、いよいよ動き出そうとした瞬間、気持ち悪さが限界を突破しそうになり咽る。


「……おエッ。うう、な、中身が出そう。今日はなんだか運気が悪いから出かけるの止めようかな。なんだか天気も悪いし。先行きが危ぶまれるわ。そうよ、無理することは全然ないし」


 窓からの強烈な日差しが勇者の目に突き刺さる。


「どこが天気が悪いんですか! 爽やかで本当に素晴らしい快晴です! お日様も私達を祝福してくれています! とにかくさっさと着替えて、顔を洗ってください。早くしないと、集合時間に間に合わなくなりますよ!」


 あくせくと動き回るマタリ。自分の着替えを終えた後は、勇者の着替えまで手伝っている。


(お節介の上にお人好し。きっと良いお嫁さんになるわ。間違いない)

 勇者は心の中でお墨付きを与えておいた。


「よしっ、これで大丈夫です。さぁ顔を洗って、ご飯を食べて元気に出かけましょう!」


 鎧を着込んだマタリが更に元気に声を出す。二段階程声量が上がっている。その馬鹿でかい声が脳天に響き、勇者は真面目にぶっ倒れそうになる。

 二日酔いに、元気印は非常に堪えるようだ。勇者は昨夜飲み過ぎたことをようやく後悔した。


「……そうね。元気にいきましょうか。元気に。……おエップ」


 手で口を押さえて、吐き気を堪えながら返事をする。

 消え入りそうな溜息を吐きだすと、マタリを追いかけて勇者は部屋を後にした。



「本当にスープだけで良いんですか? 後でお腹空いてしまいますよ?」

「いいの。今は本当にいらない。食べたら死ぬ」


 椅子にもたれかかり、勇者は青白い顔で深呼吸する。

 マタリはパンやミルク、それに目玉焼きを美味しそうに食べている。勇者は見ているだけで酸っぱいものが込み上げてきた。


「そ、そういえば、さっき聞いたんですけど。“あの”嘆きの祠が崩れていたそうですよ。恐ろしいですよね!」

「嘆きの祠? なにそれ」

「え、知らないのですか?」

「記憶喪失だから知らない」

「それでは簡単にお話します」


 口をナプキンで拭くと、マタリは説明を始める。

 アートの街から北にある森の一番奥。日光が入り込まない薄暗く、気味の悪いジメジメした場所にあるというそれ。

 いつ、誰が、何の為に立てたのかは分からないが、確かに存在する古い苔むした祠。

 何が奉られているのかも分からない。星教会も祠の存在を認識はしているが、それに干渉しようとはしない。

 星教会は一神教の為、他の宗教には寛容ではない。しかも星神のお膝元たるアートの近くに存在する詳細不明の祠。異端審問官あたりが叩き潰していても全くおかしくない。だが、星教会は手出し無用と厳命し、逆に結界まで構築する始末。

 住民達も気味悪がり、いつからか恐ろしい魔物が封じられていると噂するようになった。


「ふーん」

「ですが、一番恐ろしいのは、祠から声が聞こえてくるそうなんです。この世の全てを恨むような嘆きの声が。その怨嗟の声を聞いた者は発狂してしまうとか。……段々鳥肌が立ってきました」


 自分で話して自分で怖がっているマタリ。器用な奴だと勇者は別の意味で感心した。


「でも綺麗サッパリ崩れたんでしょ。じゃあ解決じゃない。異端審問官だっけ? そいつらの気が変わってぶっ壊したんじゃないの」

「それが、違うらしいんです。夜明けぐらいから教団兵が駆け回って大騒ぎだそうで。彼らが言うには祠は壊したのではなく、“壊れた”のだと。いつの間にか結界ごと破壊されたとかなんとか。で、では祠は何故壊れたのでしょう。……な、なんだか食欲が」


 マタリは食欲がなくなったと落ち込んでいる。全部食べて満腹になったからだと勇者は突っ込もうと思ったが、疲れそうなので止めた。


「そんなに気になるなら見に行く? 迷宮の後でついてってあげるから案内しなさい。それで一発で解決でしょ。自分の目で確かめればね」

「え。あー。いや、私は、その。ゴホン、ちょ、ちょっと風邪気味なので。も、森は遠慮しておきます」

「朝から腹立つぐらい元気印だったのはどこの誰よ」


 勇者がジト目で睨みつけると、マタリは身体を縮める。


「わ、私暗いのとか、怖いのが苦手でして。そ、その祠も実際見た事はないんです。だから、その、今回は遠慮しておきます」

「暗いのとか怖いのが駄目なのに、アンタは地下迷宮に入るの?」


 『もしかして馬鹿なの?』と続けようとして勇者は堪えた。それぐらいは覚悟の上だろうから。


「はい、頑張ります!」


 マタリは即答した。今までで一番デカい声だった。


「……頑張ってね」


 脳を揺らされた勇者は思わず天井を仰いだ。飲んだスープが逆流しそうだった。

 

 



「……やっぱりお前、人生を舐めているだろう」


 ロブの厳しい第一声。昨日多少上がった評価がまた下がってしまったようだった。

 勇者は木の棒を支えにして、弁解をする。


「……舐めてないわ。ちょっと具合が悪いだけ。私は見掛け通り繊細だから」

「ふざけた装備に、初日から二日酔い。ここまで舐めきった新人はお前が初めてだ。馬鹿なのか豪快なのか、評価に迷うところだな」


 腕を組んで、眉を顰めるロブ。迷っているどころか大馬鹿者を見る目である。集まった数十人の新ギルド員達の前で、散々罵倒されるこの状況。評価は底辺の底辺という奴だろう。それはそれである意味凄いのだろうか。そんなことを勇者はとりとめもなく考える。


「情報収集の代償ね。甘んじて受け入れるわ」

「本当に大丈夫なのか? 初日から死体になるのは勘弁してくれよ。ギルドに入れた俺が泣けてくるからな」

「オエップ。だ、大丈夫。私は常に万全を期するからね。これぐらいでぶっ倒れたりはしないのよ」

「ゆ、勇者さん。足がフラついてますよ。私の肩に掴まってください」

「あ、ありがとうマタリ。ちょっと失礼するわね」


 少しだけ屈んだマタリの肩に、勇者は盛大に寄りかかる。


『なんだいありゃ』

『どっかの世間知らずの馬鹿娘が遊びのつもりで来たんだろ』

『まぁ一番に死ぬのは間違いない』

『巻き添えを食らわないようにした方が良いな。下手に組んだりしたらこっちまで危険だ』

『まったく、地下迷宮も舐められたもんだな。観光地じゃないんだぞ』


 新人達からの褒め言葉が勇者の耳に入ってくる。ふらつく視界でそちらを確認すると、やたらと重装備な奴らばかりである。

 豪奢な装備、家紋の入った武具一式。陰口を終えた彼らは、己の出自を自慢気に名乗り合っていた。

 貴族の息子やら、騎士の息子、英雄志願の栄えある若者達がよりどりみどり。

 ロブが大きく手を叩いて仕切りなおすと、良く通る声で話し始めた。


「それでは気を取り直して、集会を始める。今日はお前達新ギルド員が、初めて会する日でもある。既に仕事に取りかかっている者もいれば、そうでない者もいるだろう」


 新人を順番に見渡し、最後に勇者へと視線を送るロブ。何かを計る様なその目つきに、勇者は薄ら笑いを浮かべて挑発的に返す。

 顔や姿勢は二日酔いの馬鹿娘以外の何者でもないが、その目には深い狂気が孕んでいた。昨日、ジャバを痛めつけた時のような。

 ロブは素早く視線を逸らすと、何事もなかったかのように話を続ける。


「とにかく無理せず地道に鍛錬を積んでいくことだ。そして、とにかく『生き残る』こと。これが最重要だ。死ななければ、何度でもやり直しは効くんだからな。死んだらそれで終りだ」


 ――命を大事に。命を大事に。死んだらお終い。死んだらお終い。

 誰もが唱えるお題目。そんなに死ぬのが嫌なら引き篭もっていれば良いと勇者は思う。死のうがどうしようが、魔物を殺す。それに優先することはない。そうに決まっている。そうでなければならないのだ。

 勇者が思考に耽っている間も、ロブの話は続く。


「これからお前達には、上層部の魔物を討伐してもらうことになる。他のギルドの新人も目的は同じだから徒党を組むのが良いだろう。魔物を討伐し、部位を持ち帰れば小銭を支給する。分かったか?」


 ロブの言葉に、新人の一人が手を上げて質問する。


「その、何故上層部の魔物に限定されるのですか?」

「良い質問だ。簡単に言えば、お前ら新人が無理した挙句、魔物の餌になるのを防ぐ為だな。これからお前達には『仮許可証』を支給する。こいつは三時間だけ、地下迷宮の活動を許されるものだ。時間が来れば、強制的に帰還呪文が働くってわけだ。どうだ、凄いだろう」

「さ、三時間ですか」

「そうだ。三時間程度じゃ上層部の探索で精一杯だ。そこで経験を積みながら、魔物を狩って腕を磨け。お前達は腕を磨けて、ベテランは雑魚を無視して先へ進める。迷宮のゴミは片付いて、教会は魔素で潤う。どうだ、良い事尽くめだろう」

「その“仮”がとれるのはいつになるのですか?」

「全てギルドマスターに一任されている。俺が実力を認めたら、試験を受けさせてやる。まぁ、俺の目に止まるほど部位を持ち帰れば良いのさ」

「わかりました。努力します」


 育ちの良さそうな新人が納得した様子で頷く。ロブは精々頑張れと軽口を叩きながら、首を回す。そして言い忘れてたと付け加える。


「ちなみに仮許可証は物ではなく、魔術による刻印だ。そそっかしい奴が『うっかり』なくしても大丈夫なようにな。お前らが死んでも勝手に発動するから、何にも心配はいらないぞ。ちゃんと埋葬してやる」


 『バラバラにされたら、刻印された部位しか戻ってこないけどな』と馬鹿笑いをするロブ。新人達の顔が青くなる。

 マタリも想像したらしく顔が青い。勇者は酔いが醒めてきたが、血の気がないのか顔が青い。

 ロブはしばらく笑った後、真剣な顔つきに戻り、念押しする。


「とにかく、最初の一年は生き残ることを優先しろ。そうすれば己の適正も見えてくる。……新人の半分は、最初の一年で脱落するからな」


 死んだり、諦めたり、別の道を探したり。そのぐらいの脱落者が出なければ、ギルドや街が人で溢れてしまう。ある意味では今のままで良いのかもしれないなと、ロブは自嘲気味に語った。


「ギルドマスターは、どの辺りまで探索したことがあるのですか?」


 新人の一人が確認するように尋ねる。ロブの実力について知りたいのだろう。


「下層部に当る、七十階までは行った事がある。地下百階が最深部らしいが……。はっきり言って、魔素の瘴気が濃くて七十階からは行けたもんじゃねぇ。中和剤をがぶ飲みでもしねぇ限りはな」

「そ、それほど酷いのですか?」

「その場にいるだけで目が霞んで、身体から力が抜けていきやがる。あそこに一時間もいりゃ立派な魔素中毒だ。まぁお前らが行くのは止めねぇよ。未知の世界を存分に探索してきてくれ。後進の為にもな」

「よ、よく分かりました。ありがとうございます」


 脅えた様子で新人が引き下がる。気になる事が出来た勇者も手を上げて質問することにした。


「ねぇ。百階には何があるのか分かってるの? 誰か行った事あるんでしょ」


 七十階で魔素とやらの瘴気が凄いのなら、百階はもっと凄いのだろう。

 一体そこには何があるのだろう。勇者はそれが知りたかった。


「百階には夢と希望と絶望が詰まっているのさ。余計な事を考えてないで、生き残る事だけ考えろ、この二日酔いの馬鹿娘!」

「けちけちしないで教えてよ」

「お前が俺を納得させる事が出来たらな」

「その言葉、忘れないでね」


 勇者が剣呑に微笑むと、ロブが吐き捨てる。


「酔っ払いの言葉なんか覚えていられるか」


 追従するように、新人達が陰口を叩く。


『アイツ、一番に死ぬだろうな』

『三日以内にいなくなってそうだ』

『装備も棒切れにただの普段着だしな。頭がおかしいんじゃないか』

『マタリお嬢様も、変なのにまとわりつかれて大変だな』

『没落貴族にはお似合いだ』

『おいおい、仮にもアート一族だぞ』

『フン、偉大なのはG・アート卿だろ。今の当主レケン様じゃ敬う気にはなれないぜ』


 それを聞いたマタリの表情が強張る。本人も気にしているのだろう。事情は細かく分からないが、勇者は肩を叩いてやった。


「悔しいなら見返してやれば良い。言葉じゃなく結果でね」

「は、はい!」


 マタリが気合を入れると同時に、ロブの締めの言葉が響く。


「くれぐれも無理はしないように。それでは解散!」

『おう!』


 ロブの掛け声に、新人達は元気よく返事を返す。勇者も『へーい』と気の抜けた返事をしておいた。

 ロブが立ち去り、他の新人が後に続き退出していく。後には勇者とマタリが残された。

 目的地を定めぬまま歩き出し、戦士ギルドから外へ出る。


「ど、どうしましょう勇者さん。とりあえず迷宮行って見ますか? それとも他のギルドから仲間を探しましょうか」

「あれ、アンタ私と迷宮探索する気だったの? どうみても私は貧乏くじだけど。それに二日酔いだし」


 勇者は相部屋だけかと勘違いしていたが、どうやら仲間としてやっていく流れのようだった。


「は、はい。こうして一緒になったのも何かの縁ですし。もし宜しければ」

「んー、別に構わないけど、周りの目があるんじゃない? アンタ名のある一族なんでしょ。変な噂が立つわよ」


 既に手遅れかもしれないが、一応釘を刺しておく。後でこんなはずじゃなかったと憎まれるのは避けたかったのだ。


「いえ、そんなこと全然気にしません。以前にもお話したとおり、最早過去の栄光ですから。私は自分の手で、栄光を取り戻して見せます!」


 拳を強く握り、目をギラギラと熱く滾らせているマタリ。

 勇者はその勢いに少し引きながらも頷いた。


「そ、そう、じゃあとりあえず様子見がてら地下迷宮に行きましょうか」

「そうですね。何事も経験してみないと駄目ですよね! 敵の強さを見てから、仲間を集めましょう!」


 マタリが力強く宣言する。

 勇者は同意しながらも、内心でそれはきっと無理だろうと考える。

 ――自分の仲間になってくれる奴などいない。マタリもいずれは離れていくに違いない。来るもの拒まず、去るもの追わず。結局のところ、最後に頼れるのは自分だけ。魔王の心臓に、刃を突き刺したときに自分は悟ったのだ。

 勇者は一人で何でも出来る。剣を振るい、魔法を駆使し、治癒術を操る。それが選ばれし者である証。

 ――ならば、仲間など必要ないではないか。

 

「勇者さーん、どうしたんですか? 置いていっちゃいますよ!」


 少し離れた場所で、マタリが振り向き声を掛けてくる。鎧のガチャガチャという音がここまで響いてくる。

 勇者は苦笑いを浮かべると、マタリに向かって軽く手を上げる。


「さて、噂の地下迷宮とやらとの初顔合わせか。どんな敵が出てくることやら。……まぁなんとかなるか。今まで一人でもどうにかなってきたしね」


 口から溢れ出てくる孤独で虚ろな言葉。

 木の棒を杖代わりとし、再びフラつき始めた身体を支えながら勇者は歩を進める。視界が暗くなる。空はまだ明るいはずなのに。

 ――滲み始めた視界に、かつての仲間達の後姿が見えた気がした。

 動悸が早くなる。心臓を打つ音がやけに大きく聞こえ始める。

 転びそうになりながらも、勇者は歩調を速める。置いて行かれない様に。だが、決して追いつけない。それは分かっていたはずなのに。


「――あ」


 態勢を崩し、勇者は地面に顔から倒れこんでしまう。

 滲む視界を晴らすため、目を擦ってもう一度確認する。

 そこには、こちらへ向かって心配そうに駆けてくるマタリの姿があった。

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